前作のりょさんver.
もう少し重たくしたかったけど挫折。
夜中にふと意識が覚醒したら、闇の中にぼんやりと元貴の姿が見えた。
正確な時間は分からないけれど、夜の長い彼のことだ、きっと深夜と呼ばれるような時間帯だろう。
聴く人の心を震わせるあの声が、密やかに僕の名前を呼んでいる。
「涼、ちゃん」
やわらかく、あたたかく響くのに、寂しい、助けて、って言っているように聞こえた。
本当につらいときほど声を上げない元貴が泣いているような気がして、ほとんど無意識のうちに名前を呼んでいた。
「……もとき?」
開けたくないと抵抗するまぶたをどうにか押し上げて、元貴を探す。
「りょうちゃん」
闇の中に溶けて消えてしまいそうなほど儚さを浮かべた目を、そっと見つめる。
そうしたら、いっとうやわらかくなった声が愛おしそうに僕を呼んだ。
元貴が僕の名前を呼ぶときの音はいつも甘い。
怒っているときも、茶化してくるときも、いつだって愛を感じられる。だから元貴に名前を呼ばれるのが好きだ。そこにいるよね、っていう確認行為でもあるから。
元貴の目からは寂しさが消えることはなくて、心が苦しくなる。
おいで、と言ったつもりだったけれど音にはならず、だけど両腕を広げたら元貴が滑り込んできた。ぎゅぅ、としがみつく元貴の背中に腕を回してそっと撫でる。
「……りょうちゃん」
「うん」
「おね、がい」
「うん?」
途切れ途切れの掠れた言葉に首を傾げる。
「ずっと、俺だけのものでいて」
驚いて撫でていた手が止まる。
え、なに言ってるの、この子。
そんな苦しそうな声で、祈るような声で、何を言ってるの?
楽曲制作をしていたのだろうか。イマジネーションの源泉である元貴の中に在る感情が、元貴を食べてしまったんだろうか。誰かに傍にいてもらわないと死んでしまうというあの感覚に、呑まれてしまったんだろうか。
どれだけ傍にいても、どれだけ熱を分け合っても、元貴は僕がいなくなることを恐れている。
毎日のように顔を合わせて、貪るように求め合っているのに、何が彼を不安にさせるんだろう。
きっと、根底では信じていないんだ。永遠も、愛情も、目に見えないすべてのものを。
だから愛を歌って、希望を語るんだろうな。
でも、俺だけのものでいて、なんて。
そんな心配、しなくていいのに。その心配だけは、しなくたっていいのに。
「……ふふ」
小さく、笑ってしまう。不安げに向けられた元貴の目を見つめる。
ねぇ元貴、きっときみは知らないでしょう?
出会ったあの瞬間、何かに追われるように手を伸ばしてきた幼さを残した少年。
ひとりにできないと思って即座にいいよと返した僕に、驚きながらも安心したように微笑んだ青年。
強気で傲慢に見えるのに、誰よりも繊細で有り余る才能に消費される恐怖に怯えている愛しい恋人。
最初は、この子をひとりにしちゃいけないって思ってその手を取ったけど、元貴が作った音楽を聴いた瞬間、文字通り僕の世界は作り変わった。
作り変わった世界で生きていくために、僕自身も変化しなくちゃいけなかった。
だけどその変化はとても甘美で、あぁ、このために僕は生まれてきたんだって思った。
元貴に必要とされたくて、今まで頑張ってきたんだよ?
元貴が求めてくれるから、今ここにいるんだよ?
元貴に必要とされたくて、元貴にだけ求められたくて、元貴を僕で満たすためにはどうすればいいのか、っていつも考えているんだよ?
「初めて会ったときから、俺は元貴のものだよ。手を取ったあの瞬間から、俺は元貴のために生きて、元貴のために死ぬって決めたの」
元貴の狂気じみた好意に気付いたのはいつだっただろう。仲間として、友人として、誘った責任を果たすように僕を気遣ってくれているその優しさの中に、どろどろとした昏い劣情を発見したのはいつだっただろう。
そのときの僕の――――俺の気持ち、わかる?
ただひたすらに嬉しかったんだよ?
もっと、もっと、俺に溺れて。俺だけがいればいいって言って。
俺の頭の中をもっと元貴で埋め尽くして、俺の身体をもっと欲しがって。
元貴の頭の中を俺だけでいっぱいにして、元貴の愛をもっと注いで。
元貴の身体も心も、俺なしじゃ生きていけなくなって。
俺のすべてをあげるから、元貴のすべてが欲しい。
俺の心臓は元貴がいるから動いてて、元貴のために動いてるんだよ。
だからもし、きみが俺を不要だって思ったら、きみの世界に俺は必要ないってなったなら。
「元貴の手で俺を殺してね」
きみに必要とされない世界で生きている意味なんてないのだから。
もっくんに愛されるために試し行動するりょさんの話を次は書きたい。
コメント
2件
お試し行動する💛ちゃん、めちゃ見てみたいです!!! そして、💛ちゃんは♥️くんの重くて昏い愛情、気付いてたんですね🤭このお話も好きです!