「やはり彼は異常だ。」
円卓を囲み男が口を開く。
「彼はγを倒し、そして覚醒を果たした。」
「まだ完全に安全かどうかわかりません。」
「やはりまだ検証が…」
バァァンッッッ!!!
けたたましい音を出しながら勢いよく扉が開く。
「貴方たちはまた私の意見を無視して実験しましたね!!」
車椅子に乗った女性が口を開く。
「これはこれはヴァンデッタくん。休暇は楽しめましたか?」
「休暇もなにも、特殊な吸血鬼が現れたと聞いて急いで戻ってきました。予想通り、貴方たちの仕業ですね!!」
「おやおや、幾つもの戦場を渡り、自らが作った注射銃…いえ「対アンデット用遠隔治療ユニット ヴァンデッタ」で数々の吸血鬼を治療した貴方が面白いことを言いますね〜」
男がヘラヘラと告げた。
「貴方って人は…ッ!」
怒りを抑えヴァンデッタが口を開く
「まぁいいでしょう。今回のことは水に流します。」
「それなら…」
男の言葉を遮り続ける。
「しかし、今回の実験で執行官3名、監視官1名が怪我を負いました。このようなことが2度と無いように私の部下をカレラ君の監視官につけます。」
「アナスタシア」
車椅子を押していた女性が返事をする。
「はい!」
「この子をつけます。元々は避難民でしたが、射撃の腕を認め、つい先日雇用しました。」
「ほぉ…」
男がアナスタシアをじっと見つめる。
「いいだろう。しかし、我々審査会はデッドマンが本当に安全なのか審査するためにある。それを忘れないでくれ。」
「それではアナスタシアくん、これからよろしくね。」
扉を閉め、車椅子を押していた足を止める。
「あの、ヴァンデッタさん私なんかで良かったのですか?」
心配そうに顔を覗かせるアナスタシアに優しく微笑みかける。
「何言ってるのよ。貴方は私が見込んだ監視官なんだから大丈夫に決まってるでしょ。」
その言葉を聞きアナスタシアはどこかホッとした。
「それじゃあアナス!明日に備えて今日は早く寝なさい。それと、執行官たちの資料も送っておくね。」
「はいっ!」
ヴァンデッタと別れ、自室に戻る。
(そういえば資料を送るって言ってたっけ)
パソコンを開き、送られてきたメールを見る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
差出人:中央執行庁・監視課
宛先:監視官アナスタシア
件名:執行官カレラに関する監視対象資料
添付ファイル:Carrera_Profile.pdf
[カレラ]
-執行官-
南ハルザール州 ケイスリッジ村にて、吸血鬼になっていたところをヴァンデッタ監視官、他3人の執行官によって治療された。
村に生存者はいなく、死体のほとんどは干からびていました。
推定100人以上を吸血したデッドマンです。
よって「大喰らい」と判断しました。
警戒レベル5 要監視対象です。
現在、週に2回のワクチン接種をーーーー
---------------------
「こっちは準備OKだけど、カレラはどうだ?」
四角く広がる訓練場はかなり広く、格子模様の壁が無機質な印象を与える。
天井のLEDが眩しいほどに白く輝き、影ひとつない空間に緊張が漂っていた。
その中央で、黒い制服を身にまとったカレラとケイが静かに向かい合う。
木刀を構えるケイの表情には余裕があり、対するカレラは緊張を押し殺しながら深く息を吐いた。
軽く笑いながら木刀を構えるケイ。
その余裕が逆にプレッシャーになる。
今日はただの模擬戦、そう言い聞かせて心を落ち着かせる。
ゆっくりと息を吐き覚悟を決める。
「こっちも準備できたよ。ケイくん。」
「それじゃあ僕が審判をするね〜」
ユウマが剣を振り上げ勢いよくおろす。
「はじめっ!」
掛け声と同時にケイが距離を詰める。
ケイから放たれる斬撃を間一髪で受け止める。
「よし!」
そう安堵したのも束の間、体を突き飛ばされ壁に打ち付けられる。
「カハッッ!!!」
(ケイくん本気でやってる!?)
「カレラ、お前も覚醒しろ。じゃないともたないぞ!」
そう忠告したあと、さらに剣を突き上げる。
「覚醒!?そんなの意図的にできるわけが…」
ケイの猛攻を避けるので精一杯なカレラはケイの要望を答えようとするがうまくいかない。
「ありゃりゃ、あれじゃ無理そうだね〜これはケイの勝ちかな〜。レン!君はどう思う〜?」
壁にもたれ不満そうな顔をしながらレンは口を開く。
「あいつ、わざと覚醒してないだろ。」
「えっ?」
ユウマは驚いた表情をしながらカレラを再び見る。
「なんでそんなことを?今にも負けそうなのに…」
ため息をつきながらレンは前に歩き出す。
「おいカレラ!お前わざと本気出してないだろ!!」
レンは声を張り上げて言った。
「また怖がってんのか?お前はヒーローになるんだろ!!思い出せ!!」
「レンくん…」
(そうだ…僕は……また誰かを傷つけるかもしれない。それでも──)
僕はヒーローに!
思い出す…目の前に広がる絶望、決めた覚悟。
身体中の血液が煮えたぎり、
鼓動が早くなる。
「ケイくんの動きが遅く見える。これが覚醒?」
頭をフル回転させる。
(ケイくんが使っているのは大太刀。太刀を振った後に、わずかだけど隙がある。)
ケイが刀を振り上げカレラの頭めがけて振り下す。
(反撃するなら今!!)
ケイの攻撃を刀でいなし、体を捻り蹴りを繰り出す。
「蹴りッッ!?」
ケイは突き飛ばされるがすばやく体勢を立て直す。
カレラの反撃はまだ続く。
刀をケイに向かって投擲する。
カンッッッ!!
ケイがそれを弾き返したのも束の間、カレラは目前まで迫っていた。
握られた拳はケイの顔めがけて放たれた。
「そこまでっ!!」
威圧感のあるその声の主は、レオナ監視官だ。
拳はケイに当たるギリギリで止まった。
「お前らに話がある。全員談話室まで来るように!カレラ、ケイ、お前らは汗を流してから来い。」
「「はい!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2人は訓練場に併設されたシャワー室で汗を流し、更衣室で制服へと着替えていた。
「ケイくん…さっきは——」
「カレラ!さっきの、すげぇ良かったぞ!」
言葉を遮るように、ケイが満面の笑みで声を上げる。
「やっぱお前、ヒーローになれるよ!」
その言葉に、カレラは思わず頬をかきながら小さく笑った。
「……ありがとう。ふへへ。」
「おーい!レオナ監視官が早く来いってよ〜!」
ユウマが更衣室のドアから顔を出して、2人を軽く急かした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カレラとケイが談話室に入ると、木のぬくもりを感じるテーブルと、ほんのり香るコーヒーの匂いが出迎えてくれた。
部屋の一角には古びたソファが置かれ、壁には任務関連の地図や写真が整然と貼られている。
どこか生活感のある空間で、それでもちゃんと“チームの拠点”としての役割を果たしている。
既にレンとユウマは席についており、何やら世間話をしていたが、2人の到着に気づいてこちらに軽く手を振った。
正面ではレオナとヤサカが立っており、やや穏やかな表情で、これからの話に備えている様子だった。
「よし、これで全員揃ったな。話を始める。」
レオナ監視官の声に全員が姿勢を正した。
「今回皆に集まってもらったのは、見ての通りヤサカ監視官が腕を骨折してしまったからだ。」
レオナ監視官が呆れた様子でヤサカ監視官を見下ろす。
「あはは〜僕としたことがあの後君たちを追いかけてる途中でこけちゃって〜」
ヤサカ監視官はヘラヘラしている。
「日頃の訓練を怠った罰だ。さて、話を戻そう。ヤサカ監視官の代わりに新しく監視官についてもらう人を呼んだ。アナスタシア監視官だ。」
扉が静かに開き、女性が一歩、また一歩と談話室に足を踏み入れる。
白い監視官の制服をまとい、胸元には黒い十字模様。
肩までの茶色い髪は柔らかく揺れ、明るい瞳と優しげな笑みがその表情に温かさを与えていた。
「こんにちは。この度、新しく監視官に任命されました。アナスタシアと申します。私のことは気軽に「アナス」と、呼んでください!まだまだ未熟ですが、これからよろしくお願いします!」
声にも柔らかさがあり、張り詰めていた空気がすっと和らいでいくのがわかった。
「で、アナスちゃんはどっちの監視官になるの?まだ決まってないならうちの班にこない!?」
ユウマが期待を胸に抱き、興奮気味に質問する。
「アナスタシア監視官は僕の代わりだからカレラ、ケイの監視官になるね〜」
ヤサカ監視官が質問に答える。
「え〜…」
残念がるユウマにレオナ監視官が鋭い眼差しが向けた。
「ユウマ、レンあとで訓練場に来い。その根性を叩き直してやる。」
「なんで俺も!?」
椅子にもたれていたレンが飛び起きる。
「…ねぇケイくん…さっきからアナスタシアさんがケイくんのことずっと見てるよ…」
カレラがどこか気まずそうに視線をそらしながらそっと耳打ちするように言った。
「違う…カレラを見てるんだよ…」
小声でケイがカレラに話し返す。
「ケイ、カレラ、アナスタシア監視官にここを案内しろ。」
レオナ監視官がとなりで喚き散らかしているレンとユウマを尻目に2人に告げる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、行こうか」
談話室を後にした三人は、静かな廊下を並んで歩き始めた。
白を基調とした壁と床に窓から差し込む柔らかな陽の光が廊下を明るく照らしている。
窓の外では穏やかな空が広がり、時折吹き抜ける風にカーテンがわずかに揺れていた。
足音が静かに反響する中、アナスタシアの笑みが、その場の空気をより一層やわらかくしていた。
廊下を歩くカレラたちは、まずアナスタシアを食堂へ案内した。
高い天井と広々とした空間に、柔らかな照明が心地よい明るさを与えている。テーブルは清潔に並べられ、数人の執行官や監視官たちが食事を囲んで談笑していた。
和気あいあいとしたその雰囲気に、アナスタシアは自然と笑みをこぼす。
「ここが食堂。自由時間のときはみんな集まってくるよ」
ケイが案内する声に、アナスタシアは頷いた。
「わぁ…すごくいい雰囲気ですね。まさかこんな場所があるなんて」
そのとき、厨房の奥からひょっこり顔を出したのは、エプロン姿の男――カワタニだった。年季の入った白衣を着こなし、包丁の持ち方ひとつにも迷いがない。
「よう、いらっしゃい。新しい顔だな?」
「この人はカワタニさん。この食堂のシェフをしていて元々は有名なホテルの料理長をしていたんだ。」
ケイが手短に紹介する。
「初めまして。アナスタシアと申します。監視官として今日からこちらに…」
「あぁ、聞いてるよ。歓迎するよ、アナスタシア監視官。ここの飯は保証する。材料さえあればなんだって作ってやる」
豪快に笑うカワタニに、アナスタシアも自然とほっとした表情を見せた。
軽く挨拶を済ませた三人は、再び廊下へ戻る。
「じゃあ次は訓練場だね」
ケイの言葉に導かれ、陽の光が差し込む廊下を進んでいく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
訓練場の重い扉を開けると、目に飛び込んできたのは、レオナ監視官が振るう漆黒の鞭と、それに翻弄されるレンとユウマの姿だった。
レオナは一歩も動かず、しなる鞭で次々と攻撃を叩き込み、レンの木刀はあっさりと弾かれ、ユウマは足元を払われて派手に転がる。
「くそっ…!」「痛った〜〜っ!」
「お前ら!!本気を出さんか!!!」
その様子を見て、アナスタシアが目を丸くする。
「訓練、ですよね…? ちょっと激しすぎません…?」
「うん、まあ…しごきってやつだね」
ケイが笑って肩をすくめた。
カレラも小さく頷きながら
「ほんと、あの人にだけは逆らえないね」
と小声で呟く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廊下を進んだ先、ケイは軽く振り返って言った。
「次は居住区だよ。俺たちが寝泊まりしてるところ。」
案内されたエリアには、デッドマンたちや監視官が生活するための部屋が並んでいた。
白を基調とした清潔な内装で、ところどころに観葉植物が飾られている。
広めのラウンジやシャワールーム、ランドリースペースも完備されており、まるで学生寮のような雰囲気だ。
「思ったより快適そうだね」
アナスタシアが少し驚いたように呟く。
「まあ、寝る場所くらいはね。訓練はキツいけど、ここはちゃんとしてるから」
ケイが笑って返す。
「カレラくんはどう?ここでの生活、慣れた?」
「んー……まぁまぁかな。ケイくんがちゃんとしてるから、僕もちゃんとしなきゃなって思うし……」
「してないけどね」
ケイが横目でカレラを見る。
「…これでもがんばってるんだよ」
カレラがむくれるように顔を背けると、アナスタシアがくすっと笑った。
「ここが俺たちの部屋だよ。」
ケイがドアを開けて中に入ると、アナスタシアも続いた。
部屋のドアが開き、三人は中へと足を踏み入れる。
「ここが俺たちの部屋だよ」
ケイが先に中へ入り、軽く手を広げてそう言った。
部屋は二人用としては十分な広さがあり、それぞれのスペースがきちんと区切られている。
ケイのベッド周りは整然としていて、机には最低限の物だけが置かれていた。
ベッドの上も整っており、余計な装飾は一切ない。
一方、カレラのスペースは少し雑然としていた。机の上にはジャンルもバラバラな雑誌が何冊も重なり、ベッドの上にはまるで猫を縦に引き伸ばしたような、妙に長い抱き枕がでんと置かれている。
ふわふわのクッションもいくつか転がっていた。
ケイは慣れた様子で、落ち着いた笑みを浮かべながらスムーズに案内する。
一方でカレラはどこかソワソワしていて、机の上の雑誌を少しだけずらして隠そうとしたり、クッションを蹴とばして整えようとしたりと、落ち着かない。
「なんか、散らかっててごめんね…」
カレラが小さな声で言うと、アナスタシアは優しく微笑んだ。
「ううん、個性があって素敵な空間だと思うよ。リラックスできそう」
ひとしきり部屋を見渡した後、アナスタシアの表情がふと引き締まる。
「カレラくんに、ちょっと聞きたいことがあるのだけど…」
その声色が少し低くなったことで、カレラとケイは自然と背筋を伸ばす。
アナスタシアは一呼吸置き、真剣な目つきでカレラを見つめた。
「気を悪くしたらごめんなさい。……あなたの資料を見ました。あなたはかつて多くの人を吸血した。そしてそこには、こう書かれていたわ。」
「“大喰らい”と。これは、本当なの?」
その言葉に、カレラは小さく息を呑み、視線を落とす。
ケイが一歩前に出るようにして口を開いた。
「“大喰らい”って、どういう意味なんですか?」
アナスタシアは頷き、少しだけ声の調子を落とした。
「“大喰らい”とは、デッドマンの中でも特に深刻な被害を出した者に付けられた呼称です。多くの人命を奪い、暴走し、自制を完全に失っていた……そんな記録が残っています。」
彼女の声に責めるような色はなかった。むしろ、理解しようとする優しさがそこにはあった。
「でも、私はあなたを責めたいわけじゃない。ただ、そう書かれていた過去が本当なのか、そして——今のあなたはどうなのかを知っておきたかったんです。」
カレラの沈黙に、部屋の空気が張り詰める。アナスタシアの瞳は、ただ真剣だった。
「……僕は——」
ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!
突然、鋭いサイレンが部屋中に鳴り響いた。
照明が赤く点滅し、緊張感が一気に空間を包み込む。
「なんだっ!?」
ケイが思わず声を上げる。
天井のスピーカーから、機械的な声が響き渡った。
《緊急戦闘体制。第3地区にて多数の吸血鬼を確認。現在基地にいる職員は、速やかに現場へ急行してください。繰り返します——》
この度はご愛読いただきありがとうございます〜
生八ツ橋です!
書く時間がなさすぎて困っていましたが、筋トレをしている最中に書くというやり方を見つけたのでこれからは投稿頻度を上げていこうと思います!
さて、実は僕は絵を描くも趣味なんですが…
この度、表紙を描いてみました!
カレラくんです。かわいいですね^^
これからは挿絵などもちょくちょく挟もうと思います。
まだまだ小説も絵も未熟者ですが、頑張っていきたいと思います!
コメントもじゃんじゃんお待ちしております〜
これからも引き続き、「デットマン・リヴァース」をよろしくお願いします!🙇
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!