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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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物件探しは決め手に欠けたのか、聖也は保留ばかりを増やした。

「まぁ…1回ですぐ決まる方がめずらしいよね?」


諦めて帰ることになり、聖也と並んで歩く俺の前を、モネが飛び跳ねるようにして歩いている。


持っている小さめの布バッグを翻し、草花やら雲の形やら、気になったことを自由に話す。


返事をしながらも、視線が定まらないモネが転ぶんじゃないかと、心配で目が離せない。


「…あ!吉良見て…!」


「おー…?」


急に立ち止まったモネが、伸ばした人差し指を、通りかかった路地に向けている。

目をやるとそこには…「ウサギゴリラ」と描かれた看板が見える。


何屋なのか…まったくわからない。


「モネが命名したご当地煎餅が、ここで買えるとか?」


「…うそっ?!」


顔を見合わせる俺たち。

珍しく…聖也が話に入ってこない。



「…あ、僕…先に帰ってようかな…」


振り返ると、聖也はソロソロと後ずさりをはじめている。そんな聖也に、俺は内心ニヤリとした。


やっと2人きりになれる…


「え?ここからちゃんと帰れる?駅まで行ける?」


モネの過保護が発動し、聖也に近づいていく。それを全力で阻止したくなるが…なんとか耐えた。


「だ、大丈夫…だよ。道くらいちゃんとわかるって…」


じゃあねっ!と背を向けて、走って路地を曲がっていったので、その姿はすぐに見えなくなった。


「大丈夫なのかな…着いたら連絡するように言えば良かった…ね?」


俺に向かって「…ね?」って言われても。


全然どうでもいいし、なんなら今日はどこかへ泊まってくればいいのにと思っているくせに、見つめるモネが可愛いから「…ね」と返事をした。


………


「ウサギゴリラ」と描かれた看板に引かれるように近づくと、そこはどうやら小さな雑貨屋らしい事がわかった。


店主はモネと同じくらいの若い女性。

ソロリと近づいてきて、人の良さそうな笑顔を見せた。


「いらっしゃいませ〜。ウサギゴリラのなにか…お探しですか?」


…ウサギゴリラのなにか…ってなんだ?


普通クエスチョンだろうに、モネにはしっかり通じるらしく、恐れ入った。


「はい。お煎餅とか…チョコとか?あと、タオルとかTシャツがあったら嬉しいです」


小さな雑貨屋だ。

そんなにいろいろ、商品のラインナップは揃っていないだろう…


ここになかったら、別の店で買ってあげたい。

…どこにどんな店か入っていたか記憶をたどる俺に、店主の元気な声が響いた。


「はい、ございます!…ちょっと待ってくださいね」


…あるんかいっ?!


俺が両手を広げたら壁に届くくらい小さな店舗だ。ということは、バックヤードが巨大なのか…と思っていると。



「ねぇ…もしかしたら、キミちゃんじゃない?」


モネが驚きを乗せた声で、女性店主の腕をつかんだ。



「え〜…やっぱりモモちゃん?」


店主も黄色い声を響かせた。


やだぁ〜なにぃ〜久しぶりぃ〜ごめんねぇ〜…と。

甲高い声のやり取りを一通り聞いていると、モネが思い出したように振り向く。


「同じ幼稚園だったキミちゃん!」


「あ…はじめまして。綾瀬…」


紹介されたから名乗ろうとしたのに、幼なじみに偶然会えた2人は、お構い無しに無視だ…


キミちゃんも俺なんかどうでもいいらしく、モネと向かいあってキャッキャと奇声を発しているので、まぁいいかとそのへんに置いてある商品を眺める。



「さっきまで聖也も一緒だったんだよ?」


そうか。モネの幼なじみなら、近所に住んでいて、一緒に育った聖也も知り合いの可能性が高い。


再び始まるキャッキャを予想したが、突然キミちゃんの顔が曇った。


「…聖也、モモちゃんのところに遊びに来てるの?」


「ううん…こっちの大学に受かって、1人暮らしするから、そのアパート探しを手伝ってるんだけど…」


「それじゃあ、1度ここに来るように言ってくれない?」


「…え?」


さっきまで嬉しそうに再会を喜んでいたのに、キミちゃんの顔から笑顔が消え、かわりに怒りがにじんでいる。


モネも心配そうに旧友の顔を覗き込むと、一点を見つめたキミちゃんが言う。


「あいつに、直接言いたい事があるの」


「なんか…迷惑かけたの?私…聖也にはお正月くらいしか会ってなくて、よく知らないんだけど…」


迷惑をかけたならごめんなさい…と、モネはちょこんと頭を下げた。


そんな姿を見て、キミちゃんはハッと我に返る。


「こっちこそ、ごめん…!モモちゃんが悪いわけじゃないのに!」


気を取り直したキミちゃんは再び笑顔を取り戻し、下を向いたモネに優しく声をかけた。


そこで、俺はふと…さっきの聖也を思い出す。


モネが「ウサギゴリラ」の看板を見つけて指さした時、隣にいた聖也が、不自然にビクつかなかったか…?


急に帰ると言い出したし、焦ったように走り出したし…


「ウサギゴリラ」というご当地煎餅の存在は聖也も知っているだろう。だがどうやら、聖也にとってのそれは、危険を呼び起こすワードだったのかもしれない。


自分にとって、何かしらよくないことを連想したんだ…


ウサギゴリラで…?!


あいつ、モネに甘えて可愛い子ぶってるけど…もしかして地元で、何かやらかしてるのか…?


………


モネが望んだウサギゴリラグッズは、すべて在庫ありだというので、俺が買ってやることにする。


恐縮しながらも嬉しそうな笑顔を見せるモネ。

この笑顔のためなら、俺はいくらだって課金する…


キミちゃんに、お会計でお札を渡した。瞬間、はてな顔を向けられて、はてな顔を返してみると…


「…あ、れ?どなたでした…?」


はじめから俺のことは目に入っていなかったらしい…


慌てて間に入るモネ。


「そういえばはじめからいましたよね!狭い店がさらに狭く感じたわけだ!」


女性に初めて、長身を邪魔扱いされた。


……………………


「じゃあ今度ゆっくりね!連絡する!」


名残惜しくキミちゃんと別れ、雑貨屋「ウサギゴリラ」を後にした。


「…あのご当地煎餅とは違うものだったな」


「うん。でもいつか…地元からウサギゴリラの名称がなくなると思って心配してたから、キミちゃんが作ってくれてて良かった…」


…そんな心配してたんだ…w


不機嫌な彼氏の秘密に涙する

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コメント

1

ユーザー

キミちゃん、イケメン吉良ティンに目が行かないなんて、なかなか良いキャラかも〜。 聖也とキミちゃんの間に何かありそうだなぁ。 私もウサギゴリラの店に行ってみたいよw

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