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前回の続き
ドアが開く音
〇〇「はぁ〜」
少し湯気まとったまま出てくる
北斗「……」
一瞬だけ目がいく
〇〇、タオルで髪拭きながらそのまま近づく
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「髪乾かして」
北斗「……は?」
〇〇「お願い」
北斗「自分でやれ」
〇〇「疲れた」
北斗「知らねぇよ」
〇〇、少しだけ距離詰める
〇〇「ちょっとだけでいい」
北斗「……」
断ろうとするのに
そのまま押される感じ
〇〇「ね?」
北斗「……なんで俺なんだよ」
〇〇「北斗がいるから」
北斗「……」
その言い方に一瞬詰まる
〇〇「お願い」
北斗「……はぁ」
小さくため息
北斗「今回だけな」
〇〇「やった」
すぐに笑って
そのままくるっと背中向けて座る
〇〇「はい」
北斗「準備良すぎだろ」
ドライヤー押し付けられる
北斗「……」
少しだけ迷ってからスイッチ入れる
ドライヤーの音
北斗、ゆっくり髪に風当てる
最初はぎこちない
北斗「動くなよ」
〇〇「動かない」
素直に止まる
指先が少しだけ髪に触れる
北斗「……」
柔らかい感触
北斗(なんでこんなことしてんだよ)
思いながらも手は止めない
〇〇「気持ちいい」
北斗「そりゃどうも」
〇〇「上手いじゃん」
北斗「適当だ」
〇〇「嘘」
北斗「ほんと」
でも少しだけ丁寧になる
〇〇は何も気にしてない様子で
そのまま任せてる
北斗はその後ろで
変に意識してる自分だけが静かに残る
ドライヤーの音の中で
会話も少しだけ途切れて
妙に近い距離のまま時間が流れる
ーーーーーーーーー
北斗side
ドライヤーの音がやけに大きく感じる
目の前には〇〇の後ろ姿
近い
北斗(なんでこうなるんだよ)
頼まれたからやってるだけ
それだけのはずなのに
手元に意識がいく
髪に触れる指先
柔らかい
北斗「……」
無意識に少しだけ丁寧になる
北斗(適当でいいのに)
そう思ってるのに手は止まらない
〇〇は何も気にしてない
普通に任せてるだけ
北斗(こういうとこなんだよな)
全部無意識
距離も、頼み方も、今のこれも
北斗「……動くなよ」
余計なこと考えないように声出す
〇〇「動かない」
素直に返ってくる
北斗(ほんと素直だな)
少しだけ息吐く
ドライヤーの風で髪が揺れる
そのたびに少しだけ指に触れる
北斗(意識すんな)
自分に言い聞かせる
でも無理だ
さっきのことも全部残ってる
あーん
間接キス
北斗「……」
一瞬だけ手止まりそうになる
北斗(ダメだろこれ)
でも止める理由もない
〇〇はただ髪乾かしてもらってるだけ
それ以上でも以下でもない
北斗(俺だけじゃん)
またそれに戻る
北斗「……」
少しだけ視線落とす
近い距離
このままでもおかしくない空気
でも何も起きない
起こさない
北斗(これでいい)
そう思いながらも
どこかで少しだけ
北斗(……これ以上は)
考えかけて、やめる
北斗「ほら、もういいだろ」
少し強めに言う
〇〇「え、もう?」
北斗「だいたい乾いた」
早めに終わらせる
これ以上続けると
余計に自分がおかしくなる気がして
ドライヤー止める
一気に静かになる
北斗「……」
その静けさの中で
自分の鼓動だけがやけにうるさい気がする
ーーーーーーーーー
〇〇side
ドライヤーの風が当たるたびに
じんわりあったかい
〇〇「……」
そのまま大人しく座る
北斗の手、ちょっとぎこちないなって思う
〇〇「動くなよ」って言われて
ちょっと笑いそうになる
〇〇「動かない」
素直に返す
なんかこういうの新鮮だなって思う
誰かに髪乾かしてもらうこと自体あんまりないし
それが北斗っていうのも変な感じ
〇〇(なんか優しいな)
さっきも思ったけど
やっぱりちゃんと優しい
言い方は雑なのに、手はちゃんと丁寧
〇〇「気持ちいい」
ついそのまま言う
北斗はそっけないけど
ちゃんと続けてくれる
〇〇(こういうとこなんだよな)
ふとさっきの会話思い出す
恋とか、好きとか
〇〇(……ないない)
すぐに打ち消す
ただ落ち着くだけ
それだけ
〇〇は特に深く考えず
そのまま目少し閉じる
ドライヤーの音と
後ろにいる気配
なんか安心する
〇〇(ほんと楽)
そう思う
「ほら、もういいだろ」って言われて
〇〇「え、もう?」
ちょっとだけ残念
〇〇「もっとやってくれてもよかったのに」
軽く言う
でも振り返ると
北斗ちょっとだけ距離取ってる
〇〇「……?」
なんとなく気づくけど
深くは考えない
〇〇「ありがと」
普通に笑って言う
〇〇(ほんと優しい)
それだけで終わる
それ以上の意味はまだ
全然持ってないまま
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇、くるっと振り返って
〇〇「北斗のも乾かしてあげよっか」
北斗「は?」
〇〇「さっきやってもらったし」
北斗「別にいい」
〇〇「いいから」
北斗「いいって」
〇〇「やる」
北斗「やらねぇ」
〇〇「やるって」
北斗「……」
強い
〇〇「はい座って」
ソファぽんぽん叩く
北斗「なんで命令なんだよ」
〇〇「お礼」
北斗「なら気持ちだけでいい」
〇〇「だめ」
北斗「……」
少しだけ睨むけど
結局押される
北斗「……今回だけな」
〇〇「それさっき聞いた」
北斗「うるせぇ」
渋々座る
〇〇「はい」
ドライヤー構える
北斗「雑にやれよ」
〇〇「無理」
スイッチ入れる
風が当たる
〇〇「動かないでね」
北斗「お前もさっき言ってただろ」
〇〇「真似した」
少し笑う
〇〇、手で軽く髪整えながら乾かす
北斗「……」
さっきと逆の立場
〇〇「ん、ちょっと濡れてる」
北斗「普通だろ」
〇〇「ちゃんとやるから」
北斗「適当でいいって」
〇〇「だめ」
そのまま丁寧に風当てる
〇〇「どう?」
北斗「普通」
〇〇「またそれ」
北斗「普通でいいだろ」
〇〇「つまんない」
でも楽しそう
ーーーーーーーーー
北斗side
ドライヤーの風が当たる
さっき自分がやってたのと同じなのに
感覚が全然違う
〇〇の手が少しぎこちない
北斗(下手だな)
思うけど言わない
〇〇「ちょっと待って」
髪引っかかってる
北斗「痛ぇ」
〇〇「あ、ごめん」
北斗「ほらな」
〇〇「ちゃんとやるから」
北斗「不安なんだよそれが」
〇〇「大丈夫だって」
全然大丈夫そうじゃない
北斗「……」
でも手は止めない
不器用なりにちゃんとやろうとしてるのは分かる
〇〇「動かないで」
北斗「お前が動いてんだろ」
〇〇「今集中してる」
北斗「はいはい」
少しだけ笑いそうになる
北斗(ほんと分かりやすい)
雑なとこと丁寧なとこが混ざってる
さっき自分に言ってた言葉、そのまま返してくるし
北斗「……」
視線少し落とす
近い
さっきよりも距離近い気がする
〇〇が前にいる分、余計に
北斗(近ぇって)
でも動けない
「動くな」って言われてるし
北斗(なんで俺が従ってんだよ)
内心で突っ込む
〇〇「ん、もうちょい」
真剣な声
北斗「……」
その声に少しだけ意識持っていかれる
北斗(ちゃんとやろうとしてんだな)
さっきの自分と同じ
無意識に丁寧になってる感じ
北斗「……適当でいいって言ったろ」
〇〇「やだ」
即答
北斗「……」
少しだけ口元緩む
北斗(こういうとこだよな)
結局、断れない理由
北斗「……もういいだろ」
少し早めに終わらせようとする
〇〇「まだ」
北斗「もう乾いてる」
〇〇「ちゃんとやる」
北斗「……」
諦める
そのまま任せるしかない
ドライヤーの音の中で
〇〇の不器用な手が動くたびに
少しずつ変な感覚だけが残っていく
北斗(……ほんと調子狂う)
〇〇「……もうちょい」
真剣な声のまま、少し顔近づく
北斗「近いって」
〇〇「動かないでって言ったじゃん」
北斗「それお前な」
〇〇「今大事なとこ」
指で少し髪を整える
その距離、一気に近づく
北斗(……)
言い返そうとして、止まる
〇〇の表情、思ったより真剣で
北斗(ほんとにちゃんとやろうとしてんだな)
そのままじっとしてる
〇〇「ここまだ濡れてる」
北斗「もういいって」
〇〇「だめ」
少しだけ眉寄せて言う
北斗「……」
その顔に弱い
北斗(なんでそこで真面目なんだよ)
ドライヤーの風が当たる中で
指先がふと首元に触れる
北斗「……っ」
一瞬だけ肩が動く
〇〇「動いた」
北斗「当たっただろ今」
〇〇「ごめん」
でも少し笑ってる
北斗「笑うな」
〇〇「だって」
北斗「だってじゃねぇ」
でも強く言えない
〇〇、少しだけ顔覗き込む
〇〇「そんな敏感?」
北斗「違ぇよ」
〇〇「ふーん」
じっと見る
北斗「見るな」
〇〇「なんで」
北斗「なんでもいいだろ」
視線逸らす
〇〇「……顔赤いよ?」
北斗「赤くねぇ」
即答
〇〇「赤いって」
北斗「気のせいだ」
〇〇「絶対違う」
ちょっと楽しそう
北斗「……」
言い返せない
〇〇、くすっと笑ってから
〇〇「はい、終わり」
ドライヤー止める
一気に静かになる
そのまま少し距離残ったまま向き合う
〇〇「ちゃんと乾いた」
北斗「……おう」
〇〇「どう?」
北斗「……普通」
〇〇「またそれ」
〇〇、笑う
でもその距離のまま動かない
北斗も動けない
さっきまでの軽い空気と違って
ほんの少しだけ静かになる
〇〇「……ね」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
北斗「何」
〇〇「なんか近くない?」
北斗「……」
一瞬詰まる
北斗「気のせいだろ」
〇〇「そう?」
北斗「そう」
〇〇「ふーん」
でも少しだけ見つめたまま
北斗はその視線に耐えきれなくて
少しだけ顔逸らす
北斗(ほんと無意識でやるなよ)
心の中でだけ呟く
でも嫌じゃないのも分かってて
余計に何も言えなくなる
そのまま
微妙に近い距離のまま時間が止まる
北斗「……あ、そうだ」
急に思い出したように口を開く
〇〇「ん?」
北斗、少し視線逸らしたまま
北斗「風磨から電話きてた」
〇〇「え」
少し驚く
〇〇「なんで?」
北斗「お前のこと」
〇〇「私?」
北斗「心配してた」
〇〇「……」
さっきまでの空気が少し変わる
〇〇「そっか」
北斗「今度来ていいかって」
〇〇「風磨が?」
北斗「うん」
〇〇「……ふ」
少し笑う
北斗「なんだよ」
〇〇「過保護すぎ」
北斗「まぁな」
〇〇「でも嬉しいかも」
北斗「来てほしいのか」
〇〇「うん、普通に会いたい」
北斗「……そうかよ」
少しだけ間
〇〇「北斗は?」
北斗「何が」
〇〇「来るの嫌?」
北斗「別に」
〇〇「ほんとに?」
北斗「大人数じゃなきゃな」
〇〇「あー」
〇〇「それは分かる」
北斗「絶対連れてくるだろあいつ」
〇〇「ありえる」
少し笑う
〇〇「でもさ」
北斗「ん」
〇〇「みんなでいるのも好きだし」
〇〇「でもこういうのも好き」
北斗「こういうの?」
〇〇「二人でまったり」
北斗「……」
一瞬止まる
〇〇「なんかバランスいいじゃん」
北斗「……まぁな」
短く返す
さっきの空気から少し外れたはずなのに
別の意味で意識してしまう
北斗(余計なこと言うなよ)
〇〇は何も気にしてない顔で
〇〇「風磨来たらうるさくなりそう」
北斗「間違いねぇ」
〇〇「ちょっと楽しみ」
北斗「だろうな」
さっきの距離は少しだけ離れたけど
違う形でまた残る
北斗はそのまま軽く息吐いて
何もなかったみたいに会話を続ける
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇、ソファにそのままごろんと寝転がる
〇〇「暇」
北斗「知ってる」
〇〇「マッサージして」
北斗「は?」
〇〇「肩」
北斗「自分でやれ」
〇〇「届かない」
北斗「届くだろ」
〇〇「ちゃんとじゃない」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「ねぇお願い」
そのまま腕だらんとさせてる
北斗「……」
完全にやる気満々の体勢
北斗「なんで俺なんだよ」
〇〇「北斗いるから」
北斗「そればっかだな」
〇〇「だって事実」
北斗「……はぁ」
またため息
北斗「今回だけな」
〇〇「それ今日何回目?」
北斗「うるせぇ」
渋々ソファの横に座る
〇〇「ここ」
自分の肩指さす
北斗「雑にやるぞ」
〇〇「やだ」
北斗「じゃあやらねぇ」
〇〇「いいから」
北斗「……」
仕方なく手置く
軽く押す
〇〇「……あー」
すぐ声出る
北斗「大げさだろ」
〇〇「気持ちいい」
北斗「まだ何もしてねぇ」
〇〇「もういい」
北斗「適当だな」
でも少しだけ力入れる
〇〇「そこそこ」
北斗「うるせぇ」
〇〇「いいじゃん」
そのまま完全に力抜いてる
北斗は文句言いながらも
ちゃんと押してる
〇〇「上手い」
北斗「さっきも聞いた」
〇〇「ほんとに」
北斗「はいはい」
でも手は止めない
〇〇は目閉じてそのまま任せてる
さっきよりもさらに無防備
北斗「……寝るなよ」
〇〇「寝ない」
北斗「信用ねぇ」
〇〇「今回は大丈夫」
北斗「それも聞いた」
〇〇「ほんとだって」
小さく笑う
そのままマッサージ続けながら
またゆるい時間が流れていく
その後〇〇、うつ伏せになる
北斗「……おい」
〇〇「んー?」
顔クッションに埋めたまま
〇〇「背中も」
北斗「増えてんじゃねぇか」
〇〇「お願い」
北斗「さっき肩だけって言っただろ」
〇〇「気持ちよかったから」
北斗「理由が軽い」
〇〇「いいじゃん」
北斗「……」
完全にやらせる気
北斗「……はぁ」
諦める
北斗「ちょっとだけな」
〇〇「やった」
嬉しそうに声だけ弾む
北斗、手を背中に置く
北斗「力加減分かんねぇからな」
〇〇「優しめで」
北斗「注文多いな」
でもそのまま押す
〇〇「……あー」
さっきよりちゃんと反応する
北斗「大げさだって」
〇〇「ほんとにいい」
北斗「そうかよ」
少しずつ慣れてくる
北斗の手が背中をなぞるみたいに動く
〇〇は完全に力抜いてる
〇〇「そこ」
北斗「どこだよ」
〇〇「もうちょい上」
北斗「ざっくりすぎる」
〇〇「その辺」
北斗「適当だな」
でも合わせる
〇〇「……うん」
満足そう
北斗「……」
うつ伏せで無防備な背中
距離も自然と近くなる
北斗(ほんと無防備すぎだろ)
少しだけ息吐く
〇〇「北斗さ」
北斗「ん」
〇〇「こういうの上手いね」
北斗「適当だって言ってんだろ」
〇〇「絶対嘘」
北斗「ほんと」
〇〇「でも好きかも」
北斗「……」
一瞬だけ手止まりかける
〇〇「このマッサージ」
すぐ付け足す
北斗「……紛らわしい言い方すんな」
〇〇「してない」
少し笑ってる
北斗は軽くため息つきながらも
また手を動かす
さっきより少しだけ丁寧に
〇〇はそのまま目閉じて
完全にリラックス状態
北斗(ほんと調子狂う)
そう思いながらも
結局やめずに続けてしまう
ーーーーーー
北斗side
手を背中に置いた瞬間、少しだけ止まる
北斗(……)
普段こんな風に触れることなんてない
肩くらいならまだしも
背中は初めてだ
北斗(やめとけばよかった)
一瞬思う
でももう触れてる
〇〇「そこいい」
普通に言われて
逃げ場なくなる
北斗「……」
ゆっくり押す
思ったより細い
北斗(軽……)
指に当たる感触がそのまま伝わる
骨のラインが少し分かる
北斗(……細すぎだろ)
無意識に力弱める
〇〇は何も気にしてない
完全に任せてる
北斗(これ普通じゃねぇよな)
自分の中でだけ騒がしい
でも外には出さない
北斗「力大丈夫か」
〇〇「うん、ちょうどいい」
その一言でまた続けるしかなくなる
北斗(キモいって思われたら終わりだろ)
変に意識してる自分が一番めんどくさい
ただマッサージしてるだけなのに
それ以上に考えてるのは自分だけ
北斗「……」
少しだけ視線落とす
うつ伏せで無防備なままの〇〇
距離も近い
北斗(ほんと無防備)
だから余計に
北斗(意識すんなって)
自分に言い聞かせる
手の動きだけに集中しようとする
でも無理だ
触れるたびに
感覚が残る
北斗(こんなの慣れるわけねぇだろ)
小さく息吐く
でもやめる理由もなくて
〇〇「気持ちいい」
その声でまた手が動く
北斗(……もういいだろ)
そう思いながらも
結局やめずに続けてる自分に
少しだけ呆れる
北斗(ほんと、何してんだよ)
〇〇の背中に手を置いたまま
北斗(……もういいだろこれ)
やめるタイミングを探してるその瞬間
——プルルルル
スマホの着信音
北斗「……っ」
一瞬で手止まる
北斗(助かった)
心の中で即思う
〇〇「んー?」
まだうつ伏せのまま
北斗「電話」
〇〇「出れば?」
〇〇は気にしてない
北斗はすぐ手離して立ち上がる
北斗「……悪い、ちょっと出る」
〇〇「はーい」
軽い返事
北斗は少し早足でスマホ取りに行く
北斗(タイミング神かよ)
画面見る前にそう思う
さっきまでの距離感から一気に離れて
やっと呼吸が戻る
北斗「……はぁ」
小さく息吐く
スマホ見る
一瞬だけ現実に戻る感覚
北斗(マジで助かった)
さっきのまま続いてたら
確実に自分がおかしくなってた
スマホの画面を見る
北斗「……風磨」
さっきの続きかよ、って少し思う
通話出る
北斗「もしもし」
風磨『もしもーし』
北斗「なんだよ」
風磨『今さ』
少し間
風磨『今から行ってもいい?』
北斗「は?」
風磨『いや急だけど』
北斗「急すぎだろ」
風磨『でさ』
北斗「まだあんのかよ」
風磨『樹もいる』
北斗「……は?」
風磨『一人じゃなかった』
北斗「絶対そうだと思ったわ」
風磨『いいじゃん別に』
北斗「よくねぇよ」
風磨『だって近くいるし』
北斗「理由軽いな」
風磨『で、どう?』
北斗「……」
一瞬だけ黙る
頭の中に〇〇のことが浮かぶ
さっき「会いたい」って言ってたのも思い出す
北斗「……来るのはいいけど」
風磨『お、まじ?』
北斗「騒ぐなよ」
風磨『無理』
北斗「即答すんな」
風磨『でも控える』
北斗「信用ねぇ」
風磨『あとさ』
北斗「まだあんのか」
風磨『〇〇大丈夫?』
北斗「普通」
風磨『ほんとに?』
北斗「さっきまでマッサージ要求してきてた」
風磨『元気じゃん』
北斗「だろ」
風磨『じゃ行くわ』
北斗「もう決定かよ」
風磨『10分くらい』
北斗「早ぇな」
風磨『じゃあとで』
北斗「おう」
通話切れる
北斗「……」
スマホ見たまま少し止まる
北斗(来るの早すぎだろ)
でもさっきより少しだけ気が楽になってる自分もいる
北斗(ちょうどいいかもな)
あの空気のまま二人でいるより
少しだけ息吐く
振り返ると
〇〇はまだソファでうつ伏せのまま
北斗「……おい」
〇〇「んー?」
北斗「風磨と樹、来るって」
〇〇「え、ほんと?」
一気に顔上げる
北斗はその反応見ながら
北斗「……10分後」
さっきまでの空気が
少しずつ変わり始める
〇〇「え、10分!?」
一気に起き上がる
北斗「だから言っただろ」
〇〇「やば、早くない?」
北斗「早い」
〇〇「ちょっと待って」
ソファから勢いよく立つ
〇〇「部屋大丈夫?」
北斗「まぁ普通」
〇〇「普通じゃだめ」
北斗「なんでだよ」
〇〇「なんか嫌じゃん」
北斗「今さらだろ」
〇〇「今さらでも!」
そのままバタバタし始める
クッション直したり
テーブルのもの揃えたり
北斗「……落ち着け」
〇〇「無理!」
楽しそうに即答
北斗「子供かよ」
〇〇「だって久しぶりじゃん」
北斗「まぁな」
〇〇「やば、楽しみ」
表情が完全に明るい
さっきまでの空気とは全然違う
北斗「……」
それ見て少しだけ目細める
北斗(分かりやすいなほんと)
〇〇「ねぇなんか飲み物ある?」
北斗「あるけど」
〇〇「出しとこ」
北斗「勝手にやるな」
〇〇「いいじゃん」
そのままキッチン行こうとする
北斗「転ぶなよ」
〇〇「転ばない!」
元気に返す
北斗「……」
その後ろ姿見ながら小さく息吐く
さっきまで自分が抱えてた空気が
少しだけ軽くなる
北斗(まぁ、これくらいの方がいいか)
賑やかになるのが分かってて
少しだけ気を抜く
〇〇「北斗ー!」
北斗「なんだよ」
〇〇「コップどこー?」
北斗「そこだろ」
〇〇「あ、あった!」
すぐ解決
北斗「……ほんとに騒がしくなるな」
小さく呟きながらも
その空気を受け入れてる
ーーー
一方その頃
風磨と樹
風磨「あとどんくらい?」
樹「もうちょい」
風磨「急に行くって言ったの俺だけどさ」
樹「急すぎな」
風磨「でも気になるだろ普通に」
樹「まぁな」
少し歩きながら
風磨「〇〇さ」
樹「うん」
風磨「大丈夫そう?」
樹「北斗いるならまぁ」
風磨「それは分かる」
樹「てか北斗んとこいる時点でな」
風磨「な」
少しだけ空気落ち着く
風磨「でもさ」
樹「ん」
風磨「北斗も大丈夫か?」
樹「……」
少し間
樹「そっち?」
風磨「いやだってさ」
風磨「分かるだろ」
樹「まぁ分かるけど」
風磨「ずっと一緒にいるわけじゃん」
樹「うん」
風磨「普通にしんどくね?」
樹「……しんどいだろ」
即答
風磨「だよな」
樹「でもあいつ言わないからな」
風磨「それが一番めんどい」
樹「ほんとそれ」
少し笑う
風磨「絶対抱えてるだろ」
樹「まぁな」
風磨「だから行く」
樹「理由ちゃんとしてるじゃん」
風磨「だろ」
樹「でもさ」
風磨「ん」
樹「〇〇は普通に楽しんでそう」
風磨「それな」
樹「さっき電話した感じ?」
風磨「北斗情報だけどな」
樹「歌ってたんだろ?」
風磨「らしい」
樹「強すぎ」
風磨「ほんとにな」
少し笑う
風磨「まぁ元気ならいいけど」
樹「うん」
風磨「でもさ」
樹「まだある?」
風磨「ある」
樹「長いな」
風磨「北斗どうすんだろな」
樹「何が」
風磨「このまま」
樹「……」
少し黙る
樹「どうもしねぇだろ」
風磨「だよな」
樹「あいつそういうやつ」
風磨「分かる」
樹「だから俺らが行く」
風磨「それな」
少しだけ笑って
樹「まぁ着いたらいつも通りだろ」
風磨「絶対な」
樹「騒ぐぞ」
風磨「任せろ」
二人とも少しだけ表情軽くして
そのままマンションの方へ向かう
さっきまでの空気とは違う
少し賑やかな空気を連れて
ーーーー
――ピンポーン。
部屋の中にインターホンの音が響く。
〇〇「きた!」
さっきまでバタバタしてたのに、一瞬で反応する。
北斗「早すぎだろ…」
小さく呟きながらも、ドアに向かう。
ガチャ。
ドアが開くと同時に——
風磨「お邪魔しまーす」
樹「早かっただろ」
北斗「早いんだよ」
風磨、すぐ中を覗く。
風磨「〇〇いる?」
北斗「いるけど」
その瞬間。
〇〇「風磨ー!」
奥から声。
バタバタと走ってくる音。
そのまま玄関まで来て、
〇〇「久しぶり!」
風磨「元気そうじゃん」
〇〇「元気!」
そのまま普通にハイテンション。
樹も少し笑う。
樹「ほんとだな」
〇〇「樹も久しぶり!」
樹「久しぶり」
軽く手上げる。
その空気は完全に“いつもの感じ”。
さっきまでの空気は、もうどこにもない。
北斗「……」
それを少し後ろで見てる。
風磨「てかさ」
靴脱ぎながら言う。
風磨「部屋綺麗じゃん」
〇〇「ちょっと整えた」
北斗「ちょっとじゃねぇだろ」
〇〇「いいじゃん別に」
風磨「珍しいことしてんな」
〇〇「人来るからね」
樹「俺らのため?」
〇〇「うん」
即答。
風磨「素直すぎ」
〇〇「でしょ」
笑う。
北斗「……」
そのやりとりを見ながら、少しだけ目を細める。
――リビング。
4人でソファと床に分かれて座る。
風磨「で?」
北斗「何が」
風磨「何してたのさっき」
北斗「何も」
〇〇「マッサージしてもらってた」
即答。
北斗「言うな」
風磨「は?」
樹「マッサージ?」
〇〇「うん」
普通に頷く。
風磨「誰が?」
〇〇「北斗」
風磨と樹、同時に北斗を見る。
北斗「……」
風磨「え、なにそれ」
樹「珍し」
北斗「頼まれただけだろ」
〇〇「上手かったよ」
風磨「へぇ〜」
ニヤッとする。
北斗「その顔やめろ」
樹「どんな流れ?」
〇〇「お風呂上がりに髪乾かしてもらって、そのまま」
風磨「は?」
樹「は?」
北斗「説明すんな」
〇〇「なんで」
風磨「情報量多いんだよ」
樹「一気に詰め込むな」
〇〇「普通じゃない?」
北斗「普通じゃねぇよ」
風磨「いや普通じゃないな」
樹「北斗がやってる時点でな」
〇〇「そう?」
本気で分かってない顔。
風磨と樹、目合わせる。
(やっぱ気づいてない)
無言の会話。
北斗「……ほらな」
小さく呟く。
風磨「いやでもさ」
〇〇に向かって言う。
風磨「なんで北斗に頼むの」
〇〇「え?」
少し考える。
〇〇「北斗いるから」
風磨「またそれか」
樹、笑う。
樹「それ万能だな」
〇〇「だって事実じゃん」
北斗「……」
また少し詰まる。
風磨、それ見て少しだけ真面目な目になる。
でもすぐ戻す。
風磨「まぁいいけどさ」
軽く流す。
樹「てか〇〇」
〇〇「ん?」
樹「最近どう?」
〇〇「普通」
風磨「普通じゃないだろ」
〇〇「え?」
風磨「忙しいだろ」
〇〇「あーまぁ」
少しだけ肩すくめる。
〇〇「でも楽しいよ」
樹「ならいいけど」
その言葉は少しだけ優しい。
〇〇「なにその感じ」
風磨「心配してんの」
〇〇「過保護」
風磨「否定しねぇ」
少し笑う。
空気がまた軽くなる。
でも——
風磨「でさ」
ふと、話を変える。
風磨「廉とはどうなの」
一瞬。
空気が止まる。
北斗の手も、ほんの少しだけ止まる。
〇〇「……え」
完全に不意打ち。
樹「おい」
風磨に小さくツッコミ。
風磨「いや聞くだろ普通に」
〇〇「……どうって」
少しだけ視線揺れる。
北斗は何も言わない。
ただ静かに聞いてる。
〇〇「普通だよ」
風磨「普通って何」
〇〇「普通は普通」
風磨「答えになってない」
〇〇「だって…」
少しだけ言葉詰まる。
樹「まぁまぁ」
軽く間に入る。
樹「まだ答え出てないんだろ」
〇〇「……うん」
小さく頷く。
風磨「そっか」
少しだけトーンが落ちる。
でもすぐ戻す。
風磨「まぁ悩め」
〇〇「軽いな」
風磨「重くする話じゃない」
樹「それはそう」
〇〇、少しだけ笑う。
でもほんの少しだけ、空気が変わった。
北斗はそのまま黙ってる。
何も言わない。
ただ一つだけ、
北斗(……やっぱそうだよな)
心の中で確認する。
“まだ決まってない”
それが今の全て。
風磨「てかさ!」
急に明るく戻す。
風磨「なんか食うもんないの?」
北斗「話の切り替え雑すぎだろ」
〇〇「あるよ」
すぐ立ち上がる。
〇〇「なんか出すね」
キッチンに向かう。
その背中を、北斗は少しだけ見る。
さっきより距離がある。
でも——
さっきまでの感触だけは、まだ残ってる。
北斗(……やりづら)
小さく息吐く。
隣で樹がぼそっと言う。
樹「顔」
北斗「は?」
樹「出てる」
北斗「出てねぇよ」
風磨「出てる」
即答。
北斗「うるせぇ」
小さく返す。
でも否定しきれない。
〇〇の声がキッチンから聞こえる。
「何飲むー?」
風磨「なんでも!」
樹「俺も」
北斗「水でいい」
〇〇「了解ー」
その何気ない会話。
いつも通りの空気。
でも——
少しずつ、全部が動いてる。
気づいてないのは、〇〇だけ。
動いてるのは、廉。
待ってるのは、北斗。
そして——
見てるのは、樹と風磨。
このバランスは、まだ崩れてない。
でも確実に、
“次”に進もうとしてる。
キッチンから戻ってくる〇〇。
〇〇「はい、水〜」
それぞれにコップを渡していく。
風磨「サンキュー」
樹「ありがと」
北斗も受け取る。
北斗「どーも」
そのまま4人で少し落ち着く。
コップに口つけながら——
樹、ふと部屋を見渡す。
樹「……なんかさ」
〇〇「ん?」
樹「生活感あるな」
〇〇「え?」
一瞬止まる。
北斗も同時にピクッと反応する。
風磨も視線だけ動かす。
樹が軽く指さした先。
——部屋の隅。
洗濯スタンド。
そして。
そのまま干されてる服たち。
その中に——
普通に混ざってる、下着。
〇〇「……あ」
一拍遅れて気づく。
〇〇「ちょっと待って」
一気に立ち上がる。
風磨「いや今さら?」
樹、笑いこらえてる。
樹「片付けたって言ってたよな」
〇〇「言った!」
北斗「そこ抜けてんだよ」
〇〇「見ないで!」
急いでスタンドの方に行って、バサバサ隠そうとする。
風磨「いやもう見えてる」
〇〇「やめてほんと!」
樹「堂々と干してあって逆にすごい」
〇〇「普通に忘れてたの!」
北斗「だろうな」
冷静。
でも少しだけ顔逸らしてる。
風磨はというと——
風磨「いやまぁ別に気にしないけど」
あっさり。
〇〇「ほんと?」
風磨「うん、メンバーだし」
樹「それはある」
〇〇「よかった…」
ちょっと安心した顔。
でも。
北斗は無言。
〇〇「……北斗?」
北斗「……見てねぇし」
即答。
でもちょっと早い。
風磨、ニヤッとする。
風磨「見てるやつの言い方なんだよそれ」
北斗「見てねぇって」
樹「いや絶対一回見ただろ」
北斗「うるせぇ」
〇〇「もう最悪…」
顔少し隠しながらしゃがむ。
でもその姿が逆に目立つ。
風磨「てかさ」
追い打ち。
風磨「北斗は普段から見てんじゃないの」
〇〇「え」
北斗「は???」
一気に空気変わる。
樹「おい」
笑いながら止める。
北斗「見てるわけねぇだろ!」
〇〇「……え、見てないの?」
北斗「当たり前だろ!」
〇〇「なんでそんな強く言うの」
北斗「いやそりゃ…」
言葉詰まる。
風磨「怪しいな」
北斗「怪しくねぇよ」
樹「でも一緒にいる時間長いだろ」
北斗「だからって見ねぇよ」
〇〇「……ふーん」
ちょっとだけ疑う顔。
北斗「その顔やめろ」
〇〇「だって」
風磨「信用ないな〜」
北斗「お前のせいだろ」
樹、笑いながら水飲む。
樹「まぁでもさ」
樹「普通に慣れるよな、ここまで来ると」
風磨「それはある」
〇〇「え、そうなの?」
樹「うん」
風磨「最初だけ」
〇〇「へぇ…」
ちょっと感心してる。
北斗「感心すんな」
〇〇「でも確かに」
〇〇「北斗も普通だもんね」
北斗「何が」
〇〇「距離感」
北斗「……」
一瞬止まる。
風磨と樹、また目合わせる。
〇〇「なんか気使われてる感じしないし」
〇〇「楽」
さらっと言う。
北斗「……そうかよ」
短く返す。
その一言に、少しだけ本音が混ざる。
風磨「それ北斗限定な」
〇〇「え?」
樹「他でやったら普通にアウト」
〇〇「そうなの?」
風磨「そうなの」
〇〇「へぇ…」
まだピンと来てない。
北斗「だから気をつけろって」
〇〇「なんで」
北斗「なんでじゃねぇよ」
樹「ほんと無自覚だな」
風磨「最強」
〇〇「なにそれ」
笑う。
でもその笑顔のまま。
何も気づいてない。
北斗は小さく息吐く。
北斗(……ほんとに)
風磨がぼそっと。
風磨「北斗大変だな」
北斗「……うるせぇ」
小さく返す。
でも否定しない。
その空気の中で、
またいつもの会話が続いていく。
笑って、
突っ込んで、
何もなかったみたいに。
でも——
さっきより少しだけ、
距離の意味が変わってるのは、
北斗だけが分かってた。
――そのまま、ゆるい空気が続く。
〇〇はさっき隠した洗濯物の前に戻って、まだ少し気にしてる。
〇〇「……ほんと見てない?」
北斗「まだ言うのかよ」
〇〇「だって」
風磨「気にしすぎ」
樹「もう遅いしな」
〇〇「やだほんと」
でもちょっと笑ってる。
その空気に戻りかけた時——
風磨、ふと〇〇を見る。
風磨「てかさ」
〇〇「ん?」
風磨「その感じでさ」
〇〇「うん」
風磨「廉の前でもやってんの?」
一瞬。
また空気が止まる。
北斗の視線が少しだけ動く。
〇〇「え?」
風磨「いや、今みたいなやつ」
〇〇「今みたいなって?」
樹「距離感の話」
〇〇「……あー」
少し考える。
〇〇「どうだろ」
風磨「どうだろじゃないだろ」
〇〇「でもそんな変わらないと思う」
北斗「……」
その一言に、ほんの少しだけ表情が固まる。
樹はそれを横目で見る。
風磨「マジ?」
〇〇「うん」
風磨「それはやばいわ」
〇〇「なんで?」
本気で分かってない。
樹「いや普通に」
樹「勘違いする」
〇〇「誰が?」
風磨と樹、同時に言う。
「相手が」
〇〇「……」
少し黙る。
でもすぐ、
〇〇「しないでしょ」
軽く返す。
北斗、少しだけ目を伏せる。
風磨「するって」
〇〇「えー」
樹「てかもうしてるだろ」
〇〇「……え?」
一瞬だけ止まる。
その“え?”は、ほんの少しだけ引っかかる。
北斗は何も言わない。
ただ静かに聞いてる。
風磨「だって告白されてんだろ」
〇〇「……うん」
少しだけトーン落ちる。
風磨「それでその距離感なら」
樹「まぁ期待はする」
〇〇「……」
初めて少しだけ考える顔。
〇〇「でも」
ゆっくり言う。
〇〇「私、ちゃんと考えてるよ」
その声は軽くなかった。
風磨と樹も少し黙る。
〇〇「適当にしてるわけじゃないし」
〇〇「ちゃんと返事するつもり」
樹「うん」
静かに頷く。
風磨「それならいい」
〇〇「……うん」
少しだけ空気が落ち着く。
でもその中で、
北斗だけは何も言わない。
〇〇がふと北斗を見る。
〇〇「……北斗は?」
北斗「何が」
〇〇「どう思うの」
ストレート。
風磨と樹、内心で「きた」と思う。
北斗は少しだけ視線逸らす。
北斗「別に」
〇〇「別にってなに」
北斗「お前が決めることだろ」
〇〇「それはそうだけど」
北斗「ならそれでいい」
淡々としてる。
でも少しだけ距離がある言い方。
〇〇「……」
少しだけ引っかかる。
〇〇「冷たくない?」
北斗「普通だろ」
〇〇「さっきまであんな優しかったのに」
風磨「おい」
思わずツッコむ。
樹も軽く笑う。
北斗「うるせぇ」
〇〇「だって」
北斗「マッサージと話は別」
〇〇「なにそれ」
ちょっと不満そう。
でもそのやりとりで、少しだけ空気が戻る。
風磨「てかさ」
空気変えるように。
風磨「〇〇ってさ」
〇〇「ん?」
風磨「ほんと無自覚だよな」
〇〇「だからそれなに」
樹「褒めてる」
〇〇「絶対違う」
風磨「いやほんと」
風磨、北斗ちらっと見る。
風磨「な?」
北斗「……知らねぇ」
そっけない。
でも完全に否定もしない。
〇〇「なんか今日みんな変」
風磨「お前がな」
〇〇「ひど」
笑う。
でもその裏で、
少しだけ考え始めてる。
“距離感”
“勘違い”
“期待”
その言葉が、頭のどこかに残る。
北斗はそれに気づく。
北斗(……ちょっとは入ったか)
でも同時に思う。
北斗(遅いかもな)
ふとスマホが震える。
北斗、画面を見る。
——廉。
一瞬だけ、空気が変わる。
北斗「……」
そのまま画面見つめる。
〇〇「誰?」
北斗「……廉」
〇〇「え」
少しだけ反応が変わる。
風磨と樹も静かに見る。
北斗「出るわ」
立ち上がる。
そのまま少し離れた場所へ。
背中越しに感じる空気。
〇〇は無意識にその背中を見る。
〇〇(……なんだろ)
さっきまでと違う感じ。
少しだけ、胸の中がざわつく。
でも理由は分からない。
――北斗、通話に出る。
北斗「もしもし」
廉『北斗?』
北斗「どうした」
廉『〇〇、一緒?』
北斗「……いるけど」
少しの間。
廉『ちょっと代わってほしい』
北斗「……」
ほんの一瞬だけ止まる。
北斗『……分かった』
その一言で、
また少し、
何かが動き出す。
北斗、スマホを耳に当てたまま少しだけ振り返る。
リビング。
〇〇と風磨と樹がこっちを見てる。
北斗「……〇〇」
〇〇「ん?」
北斗「廉、代わってほしいって」
〇〇「え、今?」
北斗「うん」
少しだけ間。
〇〇「……わかった」
立ち上がる。
その一歩が、ほんの少しだけ重い。
風磨と樹は何も言わない。
ただ静かに見てる。
〇〇、北斗のところまで来る。
北斗はスマホ差し出す。
指が一瞬だけ触れそうになる距離。
でも触れない。
〇〇「ありがと」
北斗「……おう」
短い。
〇〇はそのままスマホ受け取って、少し離れる。
――窓際。
〇〇「もしもし」
廉『〇〇?』
〇〇「うん」
廉『今大丈夫?』
〇〇「うん、大丈夫だよ」
廉『さっきのことやねんけど』
〇〇「……うん」
廉『無理に答え出さんでええって言ったけど』
〇〇「うん」
廉『ちゃんと考えてくれてる?』
〇〇「……考えてるよ」
少し間。
〇〇「ちゃんと」
廉『そっか』
少しだけ安心した声。
でもすぐに続く。
廉『今日、ちょっとだけ会われへん?』
〇〇「……今日?」
廉『うん、ほんまちょっとでええ』
〇〇は視線を落とす。
リビングの気配が背中越しに伝わる。
〇〇「……今、みんないる」
廉『あー、そっか』
〇〇「風磨と樹も来てて」
廉『賑やかやな』
〇〇「うん」
少しだけ笑う。
でも迷いは残る。
廉『ほなさ』
少し声が落ち着く。
廉『後でもええよ』
〇〇「……」
廉『待ってるから』
その一言が、静かに残る。
〇〇「……うん」
廉『また連絡するわ』
〇〇「うん、ありがと」
通話が切れる。
――静か。
〇〇はそのまま少しだけ動かない。
〇〇(待ってる、か…)
さっきの言葉が頭に残る。
――リビング。
〇〇が戻ってくる。
北斗は何も言わず、スマホを受け取る。
〇〇「はい」
北斗「……おう」
一瞬だけ距離が近い。
でもすぐ離れる。
風磨「どうだった?」
〇〇「……普通」
樹「またそれかよ」
〇〇「だって」
風磨「会うの?」
〇〇「……まだ決めてない」
北斗の指が、ほんの少し止まる。
〇〇「ちょっと考える」
さっきと同じ言葉。
樹「まぁいいんじゃね」
風磨「うん」
〇〇はソファに戻る。
でも、さっきより少し静か。
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「さっきの続き」
北斗「は?」
〇〇「マッサージ」
北斗「やらねぇ」
即答。
〇〇「なんで」
北斗「もう終わり」
〇〇「早くない?」
北斗「十分」
〇〇「ケチ」
北斗「うるせぇ」
やりとりは同じなのに、
どこか距離がある。
〇〇「……」
少しだけ考える。
さっきの電話。
“待ってる”
その言葉。
〇〇(……どうしよ)
ふと、横を見る。
北斗。
さっきより少し遠い気がする。
〇〇「……北斗」
北斗「ん」
〇〇「もしさ」
北斗「何」
〇〇「会うって言ったらどう思う?」
一瞬、空気が止まる。
風磨と樹も静かになる。
北斗は少しだけ視線を落としてから、
北斗「別に」
淡々と返す。
〇〇「ほんとに?」
北斗「お前が決めることだろ」
〇〇「……またそれ」
北斗「それしかねぇよ」
短い。
でもどこか突き放す感じ。
〇〇「……」
少しだけ引っかかる。
風磨が空気を軽くする。
風磨「てかさ、行ってくれば?」
〇〇「え?」
風磨「気になるなら」
樹「うん」
〇〇「……」
迷いがそのまま顔に出る。
北斗は何も言わない。
ただ静かに座ってる。
〇〇(……なんで)
さっきまで普通だったのに、
少しだけ距離を感じる。
でも理由は分からない。
北斗(……言うわけねぇだろ)
心の中だけで呟く。
“行くな”なんて、
言える立場じゃない。
だから——
北斗(……好きにしろよ)
そう思いながらも、
ほんの少しだけ
視線を逸らした。
――リビング。
さっきより少しだけ静かな空気。
〇〇はソファに座ったまま、スマホを見てる。
画面には廉のトーク。
指が止まる。
〇〇(……今じゃない)
頭の中で、ゆっくり整理する。
恋愛も大事。
ちゃんと向き合いたい。
でも——
〇〇(今はまだ、答え出せない)
仕事もある。
気持ちも、まだはっきりしない。
中途半端なまま会うのは違う気がした。
〇〇(ちゃんとしたい)
だから——
静かに文字を打つ。
「ごめん、今日は会えない」
少し止まる。
それだけじゃ足りない気がして、
もう一文。
「ちゃんと考えてるから、少し時間ほしい」
送信。
既読がつくのが少し怖くて、
そのまま画面を伏せる。
〇〇「……ふぅ」
小さく息吐く。
風磨「決めた?」
〇〇「……うん」
樹「会わない?」
〇〇「今日はやめとく」
素直に答える。
風磨「そっか」
軽く頷く。
樹も同じように「うん」とだけ言う。
北斗は何も言わない。
でも——
ほんの少しだけ、肩の力が抜ける。
誰にも分からないくらい小さく。
〇〇「ちゃんと考えたいし」
〇〇「中途半端なの嫌だから」
その言葉はまっすぐだった。
風磨「いいと思う」
樹「うん」
〇〇「……なんかごめんね」
風磨「なんで謝んの」
〇〇「なんとなく」
樹「意味わからん」
少し笑う。
空気が少し柔らぐ。
その時、
スマホが震える。
〇〇、ビクッとする。
画面を見る。
廉からの返信。
〇〇「……」
少しだけ緊張しながら開く。
――「そっか、分かった。無理させてごめんな」
その一文。
さらに続く。
――「ちゃんと待つから、ゆっくりでええよ」
〇〇「……」
さっきと同じ言葉。
“待つ”
でもニュアンスが少し違う。
押さない優しさ。
〇〇(……やっぱり優しい)
少しだけ胸が揺れる。
でも同時に、
〇〇(だからこそ、ちゃんとしないと)
そう思う。
スマホを閉じる。
〇〇「……優しいね」
ぽつっと言う。
風磨「だろうな」
樹「廉だし」
北斗は何も言わない。
ただその会話を聞いてる。
〇〇「……ちゃんとしなきゃな」
小さく呟く。
その言葉は、自分に向けたもの。
北斗(……ちゃんと、か)
その言葉が少し引っかかる。
でも何も言わない。
言えない。
風磨「まぁでもさ」
少し軽く言う。
風磨「悩める時間も大事だろ」
樹「うん」
〇〇「……うん」
頷く。
さっきより、少しだけ落ち着いた顔。
決めたから。
でも——
終わったわけじゃない。
むしろ、ここから。
北斗は横目で〇〇を見る。
さっきより少しだけ、遠い気もするし
近い気もする。
北斗(……面倒くせぇ)
小さく思う。
でもその“面倒くささ”が、
全部、自分の気持ちだって分かってる。
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「なんか飲む?」
北斗「さっき飲んだだろ」
〇〇「そっか」
ちょっと笑う。
その何気ない会話。
でも少しだけ、
空気が落ち着いた。
風磨が伸びをする。
風磨「なんかさー」
樹「ん?」
風磨「平和だな今」
樹「確かに」
〇〇「なにそれ」
笑う。
北斗「嵐の前だろ」
ぽつっと言う。
一瞬だけ静まる。
風磨「……それ言うな」
樹「リアルすぎ」
〇〇「え、なに怖い」
〇〇だけ分かってない。
北斗「なんでもねぇよ」
短く返す。
でもその一言通り、
この関係はまだ、
“途中”だった。
――そのまま、少し落ち着いた空気。
テレビもつけず、ただ4人でだらっとしてる。
〇〇はクッション抱えながら、ぼーっと天井見てる。
風磨「ほんとに会わなくてよかったの?」
〇〇「……うん」
少し間を置いてから頷く。
〇〇「今会っても、ちゃんと話せる気しなかったし」
樹「まぁそれはある」
風磨「中途半端は一番だるいもんな」
〇〇「そう」
小さく笑う。
でもその目はちゃんと考えてる。
北斗は横で黙ったまま。
ただ聞いてる。
〇〇「ちゃんと決めたいし」
〇〇「逃げたくない」
その言葉に、北斗の指が少しだけ止まる。
北斗(……強ぇな)
素直に思う。
風磨「らしいわ」
樹「ほんとにな」
〇〇「なにそれ」
笑う。
そのまま少し沈黙。
でも嫌な空気じゃない。
〇〇がふと横を見る。
北斗。
さっきより、ちょっと普通に戻ってる気がする。
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「さっきさ」
北斗「何」
〇〇「なんか距離あったよね」
直球。
風磨「おい」
思わず止める。
樹も「お前な」と小さく笑う。
北斗は一瞬だけ止まる。
北斗「気のせい」
〇〇「絶対違う」
北斗「違わねぇよ」
〇〇「いや違うって」
北斗「しつこい」
〇〇「だって」
食い下がる。
そのまま少しだけ見つめる。
北斗は視線逸らす。
〇〇「なんかさ」
〇〇「急に壁できた感じ」
風磨「言い方」
樹「ストレートすぎ」
でも〇〇は止まらない。
〇〇「なんか嫌なんだけど」
その一言。
少しだけ空気が変わる。
北斗、ゆっくり息吐く。
北斗「……別に」
〇〇「別にじゃない」
北斗「なんもねぇって」
〇〇「あるじゃん」
北斗「ねぇよ」
短く、少し強め。
〇〇「……」
一瞬黙る。
でも引かない。
〇〇「じゃあさ」
北斗「何」
〇〇「なんでさっきマッサージやめたの」
風磨「そこ!?」
樹、笑い堪えてる。
北斗「話飛びすぎだろ」
〇〇「関係ある」
北斗「ねぇよ」
〇〇「ある」
北斗「ねぇって」
〇〇「あるって」
同じテンポでぶつかる。
風磨「小学生かよ」
樹「でも気になるなそれ」
北斗「お前ら黙れ」
〇〇「ほら、なんかあるじゃん」
北斗「……」
少しだけ黙る。
視線落とす。
北斗(言えるわけねぇだろ)
数秒。
そして、
北斗「……飽きた」
〇〇「は?」
北斗「長いから」
適当な理由。
〇〇「絶対嘘」
北斗「ほんと」
〇〇「嘘」
北斗「ほんとだって」
〇〇「じゃあもう一回やって」
北斗「やらねぇ」
即答。
〇〇「ほら」
北斗「何がほらだよ」
〇〇「やっぱりじゃん」
北斗「違う」
〇〇「じゃあやって」
北斗「やらねぇ」
風磨「無限ループ」
樹「終わらんなこれ」
でも——
そのやりとりの中で、
さっきまでの“変な距離”が少しずつ戻ってくる。
〇〇「……」
少しだけ不満そうにしながらも、
〇〇「まぁいいや」
あっさり引く。
北斗「は?」
〇〇「今はいい」
北斗「今はってなんだよ」
〇〇「そのうちやってもらう」
北斗「やらねぇよ」
〇〇「やる」
北斗「やらねぇ」
〇〇「やるって」
また軽くぶつかる。
その空気に、
風磨がふっと笑う。
風磨「ほんとさ」
〇〇「ん?」
風磨「変わんねぇな、お前ら」
樹「それな」
〇〇「何が」
北斗「知らねぇ」
でもその“変わらなさ”が、
今はちょうどよかった。
さっきまで揺れてた空気が、
少しだけ戻る。
でも——
完全に戻ったわけじゃない。
北斗(……戻してるだけだな)
分かってる。
根っこは何も変わってない。
〇〇はまだ気づいてない。
廉は待ってる。
そして自分は——
北斗(……いつまでこれ続けんだよ)
答えは出ないまま。
でも時間は、確実に進んでいく。
風磨「てかさ」
〇〇「ん?」
風磨「お前らさ」
北斗「やめろ」
即止める。
樹「まだ何も言ってない」
風磨「二人で何してんの普段」
〇〇「え?」
北斗「だからやめろって」
風磨「いや気になるだろ普通に」
樹「むしろ今まで聞いてなかったのが不思議」
〇〇「何って…」
少し考える。
〇〇「ご飯食べたり」
風磨「うん」
〇〇「テレビ見たり」
樹「うん」
〇〇「今日みたいにだらだらしたり」
風磨「それだけ?」
〇〇「それだけ」
即答。
風磨「嘘だろ」
北斗「ほんとだよ」
樹「ほんとに?」
北斗「ほんと」
風磨「いや絶対なんかある」
〇〇「ないって」
風磨「例えば?」
〇〇「例えばって何」
樹「どっちから連絡すること多い?」
〇〇「えー…」
少し考える。
〇〇「バラバラ」
北斗「だな」
風磨「どっちが誘うの?」
〇〇「それもバラバラ」
樹「連絡来ない日とかある?」
〇〇「あるよ」
風磨「その時どうすんの」
〇〇「どうもしない」
樹「気にならない?」
〇〇「別に」
北斗「だな」
自然に重なる。
風磨「シンクロすんな」
樹「だから余計気になるんだよ」
〇〇「何が」
風磨「全部」
〇〇「雑すぎ」
笑う。
風磨「じゃあさ」
北斗「終われ」
風磨「無理」
樹「あと一個」
〇〇「なに」
風磨「一緒にいてドキッとしたことある?」
北斗「やめろ」
〇〇「ない」
即答。
北斗「……」
ほんの一瞬、間。
樹「今止まったな」
北斗「止まってねぇ」
風磨「北斗は?」
北斗「ねぇよ」
少しだけ早い。
風磨「早」
樹「怪しい」
北斗「うるせぇ」
〇〇「ほんとにないって」
風磨「逆にすごい」
樹「ここまで来ると才能」
〇〇「なにそれ」
笑う。
風磨「じゃあ最後」
北斗「まだあんのかよ」
風磨「これでほんとに最後」
〇〇「なに」
風磨「北斗がいなくなったらどうすんの」
一瞬。
空気が止まる。
〇〇「え?」
風磨「例えばだよ」
樹も静かに見る。
〇〇は少し考える。
〇〇「……」
ほんの少し間。
〇〇「困る」
素直に出る。
〇〇「普通に嫌」
北斗の指が止まる。
風磨「へぇ」
樹も目を細める。
〇〇「だって」
〇〇「楽だし」
〇〇「一番気使わないし」
〇〇「普通に一緒にいたい」
全部、無意識。
北斗は何も言えない。
風磨「……なるほどな」
小さく笑う。
樹「それは強いわ」
〇〇「何が」
風磨「いや別に」
ごまかす。
でも二人とも分かってる。
北斗は小さく息吐く。
北斗(……それなんだよ)
嬉しいのに、
それだけじゃ足りない。
でもそれ以上は、望めない。
〇〇「てか質問多すぎ」
風磨「楽しいから」
樹「いい暇つぶし」
〇〇「ひど」
笑う。
その空気のまままた戻る。
でも——
さっきの言葉だけが、
それぞれの中に残り続けていた。
23:00。
気づけば、部屋の空気も少し夜っぽくなってる。
照明もそのままで、外は完全に暗い。
風磨「もうこんな時間か」
スマホ見ながら呟く。
樹「早」
〇〇「ほんとだ」
クッション抱えたまま時計見る。
〇〇「全然気づかなかった」
北斗「だろうな」
〇〇「楽すぎて」
その一言に、北斗は一瞬だけ視線を動かす。
風磨「それ毎回言ってんな」
〇〇「だってほんとだもん」
樹「まぁ分かる」
そのまま少し沈黙。
ゆるい空気。
でも時間はちゃんと進んでる。
風磨「そろそろ帰るか」
〇〇「え、もう?」
少しだけ声が上がる。
風磨「明日もあるしな」
樹「さすがに」
〇〇「そっか…」
ちょっとだけ残念そう。
でもすぐ笑う。
〇〇「でも来てくれてありがと」
風磨「どういたしまして」
樹「元気そうでよかった」
〇〇「元気だよ」
そのやりとりを横で見てる北斗。
何も言わないけど、空気は柔らかい。
――玄関。
風磨と樹、靴履きながら。
風磨「また来るわ」
〇〇「うん、いつでも来て」
樹「今度はもうちょい早くな」
〇〇「たしかに」
少し笑う。
風磨、ちらっと北斗見る。
風磨「ちゃんとやれよ」
北斗「何を」
風磨「全部」
北斗「雑すぎだろ」
樹「まぁでも」
樹「ほどほどにな」
北斗「……」
小さくため息。
北斗「うるせぇ」
でも少しだけ分かってる顔。
風磨「じゃあな」
〇〇「ばいばい!」
ドアが閉まる。
――静かになる。
一気に、二人だけの空間。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいに消える。
〇〇「……静かだね」
北斗「そうだな」
短い会話。
でもどこか意識する。
〇〇はそのままソファに戻る。
ごろん、と寝転がる。
〇〇「なんか一気に疲れた」
北斗「騒ぎすぎなんだよ」
〇〇「楽しかったけどね」
北斗「まぁな」
少しだけ間。
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
北斗「何」
〇〇「電話のあと、ちょっと変だったよね」
またその話。
北斗、軽く息吐く。
北斗「気のせいだって」
〇〇「絶対違う」
北斗「違わねぇ」
〇〇「……」
少しだけ黙る。
でも今日は引かない。
〇〇「なんか距離あった」
北斗「ねぇよ」
〇〇「ある」
北斗「ない」
〇〇「あるって」
またぶつかる。
でもさっきより静か。
〇〇「……」
少しだけ視線向ける。
〇〇「嫌なんだけど」
小さく言う。
北斗「……」
一瞬だけ言葉止まる。
北斗(ほんと無自覚)
少しだけ目閉じてから、
北斗「……別に避けてねぇよ」
〇〇「じゃあなんで」
北斗「……」
答えない。
答えられない。
〇〇「なんかさ」
〇〇「今日ずっと変」
北斗「お前がな」
〇〇「違うって」
〇〇「北斗」
名前呼ばれる。
少しだけ強く。
北斗、視線上げる。
〇〇と目合う。
近くはない。
でも遠くもない。
〇〇「なんかあるなら言って」
まっすぐ。
北斗は数秒黙る。
北斗(言ったら終わるだろ)
頭の中で浮かぶ。
廉のこと。
“待ってる”って言葉。
〇〇の「ちゃんと考える」。
全部一気に浮かぶ。
北斗「……ねぇよ」
結局それ。
〇〇「……ほんとに?」
北斗「ほんと」
嘘じゃない。
でも全部でもない。
〇〇「……そっか」
少しだけ引く。
完全には納得してない顔。
でもそれ以上は踏み込まない。
〇〇「じゃあいいや」
そう言って、また天井見る。
北斗はその横顔を見る。
北斗(……逃げたな)
自分で分かってる。
でもそれでもいいと思ってる。
今はまだ。
23:20。
静かな夜。
二人の距離は、
近いまま、
でもどこかで止まってるまま——
動けずにいた。
〇〇、ソファからゆっくり起き上がる。
〇〇「……よし」
北斗「何」
〇〇「歯磨きしてくる」
北斗「おう」
そのまま洗面所へ。
水の音が静かに流れる。
歯ブラシの音だけが、夜の部屋に響く。
北斗はソファに座ったまま、ぼーっとしてる。
北斗(……こうやって泊まる流れも、もう普通になってるな)
最初は違った。
恭平の家にいた時もそうだったけど、
“避難”って理由があったから。
ストーカーの件。
まだ完全には解決してない。
だから〇〇は一人でいないようにしてる。
恭平の家にいて、
その後、今は北斗の家。
北斗(……慣れてるのが一番やばいかもな)
守る側なのに、
距離に慣れてきてる自分に少しだけ引く。
――洗面所。
〇〇、鏡見ながら歯磨き。
〇〇(……今日も普通だったな)
泡ついたままぼんやり考える。
恭平の家にいた時もそうだった。
誰かといる安心感。
一人じゃないってだけで、全然違う。
〇〇(……北斗の方が楽かも)
ふと浮かぶ。
理由ははっきりしない。
でも、自然にそう思う。
〇〇(気使わないし)
それが一番大きい。
口をゆすぐ。
タオルで軽く拭く。
深く考えずに戻る。
――リビング。
〇〇「終わったー」
北斗「早」
〇〇「普通」
そのままソファに戻る。
でもすぐ立ち上がる。
〇〇「寝る準備する」
北斗「もう?」
〇〇「明日もあるし」
北斗「……だな」
〇〇はそのまま寝室へ。
少しして戻ってくる。
ラフな格好。
完全にオフ。
北斗、ちらっと見る。
北斗(……無防備すぎ)
でも何も言わない。
〇〇「はぁ〜」
そのままソファにごろん。
北斗「ベッド行けよ」
〇〇「まだいい」
北斗「なんで」
〇〇「なんとなく」
クッション抱えたまま。
北斗「……」
その“なんとなく”が分かる気がして黙る。
〇〇「北斗は?」
北斗「何が」
〇〇「もう寝るの?」
北斗「……」
少しだけ間。
〇〇「一人は無理」
ぽつっと言う。
軽くじゃない。
本音。
北斗「……分かってる」
短く返す。
それだけで十分だった。
〇〇「恭平のとこもさ」
北斗「うん」
〇〇「最初は緊張したけど」
〇〇「今は普通にいれる」
北斗「だろうな」
〇〇「でも北斗の方が楽」
さらっと言う。
北斗「……なんで」
〇〇「なんか」
少し考える。
〇〇「何も考えなくていいから」
またそれ。
北斗は少しだけ目逸らす。
北斗(……それなんだよ)
嬉しいのに、
それだけじゃ足りない。
〇〇「だからさ」
北斗「ん」
〇〇「今日もいて」
当たり前みたいに言う。
北斗「……いるよ」
即答じゃない。
でも拒否もない。
〇〇「よかった」
安心した顔。
そのまま目閉じる。
〇〇「なんか今日ちょっと怖かったし」
北斗「……何かあったのか」
〇〇「いや」
首振る。
〇〇「なんでもないけど」
〇〇「一人だと考えちゃう」
北斗「……」
その言葉に、少しだけ表情が変わる。
北斗「なら考えんな」
〇〇「無理」
北斗「だろうな」
小さく笑う。
〇〇はそのままうとうとし始める。
北斗はその様子を見る。
北斗(……守るってこういうことか)
距離とか、気持ちとか、
全部一旦置いて、
今はそれが優先。
〇〇「……北斗」
うとうとしながら名前呼ぶ。
北斗「ん」
〇〇「ありがと」
小さく言う。
北斗「……おう」
それだけ返す。
〇〇はそのまま静かになる。
北斗はソファに座ったまま、
その寝顔を見てる。
北斗(……簡単じゃねぇな)
三角関係も、
この状況も、
全部が絡まってる。
でも——
北斗(……とりあえず今は)
目の前の〇〇を見る。
北斗(守るだけでいい)
そう思いながら、
静かな夜がゆっくり過ぎていく。