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仁人視点
柔太朗と舜太のおかげで幾らか気持ちが楽になった。それでも、やっぱりまだ気分が乗らない。
だけど俺たちもプロだ、カメラが回り始めると、さっきまでの気まずい空気が嘘だったかの様に、楽しそうな雰囲気を醸し出した。
勇「どうも、僕たちは、」
全「ミルクです!」
勇「はい、今回の企画はー、メンバーの絆を確かめよーう!」
勇斗の弾けた声がスタジオに響きわたる。
パチパチ、と全員で拍手をしながら、
俺は、必死に口角を持ち上げる。
__今、こんな企画するんだ。
きっと言わないだけで、みんなそう思っている。
俺と柔太朗の熱愛のせいで、グループの空気は最悪なのに。絆を確かめるなんて……
勇「さあ、記念すべき第1問目は、こちら!」
俺のやるせない思考を遮るように、勇斗が声を上げる。
勇「ミルクのリーダー吉田仁人くんの、1番頼りにしている人は誰でしょう!」
太智「えー?そんなん簡単やん笑」
スラスラ、となんの迷いもなく太智が書き始めた。
__なんで、そんなに自信満々なんだよコイツ。
みんなが答えを書いている中、俺はスケッチブックを前にして、少し迷っていた 。
仕事で頼りにしていると言えば、確実に勇斗だ。だけど、自分のプライベートとなると、柔太朗になる。
だが、今、このタイミングで柔太朗の名前を出すと流石にやばい。
よし、勇斗にしよう。
答えが決まればあとは書くだけ。
勇「よし、仁人くんも書けたみたいなので、みんな回答どうぞ!」
勇斗の声で、みんなが一斉にボードを上げる。
太智『佐野さん』
柔太朗と舜太はそれぞれ『勇ちゃん』書いていた。
まぁ、そうだよな。ここまでは俺の予想通り。
俺自身、『勇斗』と書いているし。
だけど、勇斗のボードに書かれた文字を見た瞬間、俺はヒュッと息を呑んだ。
そこには、綺麗な達筆で『柔太朗』と書かれていた。
その回答に、柔太朗は少し顔を歪ませた。
勇「それじゃ、仁人くん回答をどうぞ!!」
俺の動揺なんて微塵も気づいてないような、いつも通りの弾けた声で勇斗がパスをだしてくる。
仁「『勇斗』……」
俺の掲げたボードと見た瞬間、3人が申し合わせたように『ですよねー』とでも言うような顔で見てくる。
太智「吉田さんが頼りにしてるって言ったら、勇ちゃんしかおらんやろ!笑」
静寂を切り裂いたのは、やはり、太智の声だった。
柔「そうだよ勇ちゃん、俺なわけないじゃん!」
太智のツッコミに乗っかって、柔太朗が必死に否定する。わざとらしく呆れたようなトーンを作っているけれど、その声は微かに上ずっていた。
勇「……なんだよー笑俺かー。
頼りにしてくれてんの、仁ちゃん」
かわいいじゃんなんて、軽口を叩きながら、あいつは俺の方を見て笑って見せる。
__そんなこと、思ってもないくせに…
勇「それじゃ、第2問目!」
俺の胸の痛みを置き去りにするように、勇斗がパンッと手を叩いて、いつもの弾けた声をスタジオに響かせた。
行き場をなくした俺の恋心を引き裂くように、バラエティの時間が無情にも進んでいく。俺はカチリと心のスイッチを入れ直し、無理やり笑顔を張り付け直して、あいつの次の言葉を待った。
勇「最近、『かわいい』なと思うメンバーは?」
ニヤニヤと悪戯っぽく笑いながら、メンバーを見る。
太智「メンバーにかわいいも、クソもあるか!」と鋭いツッコミをいれ、大袈裟に嫌そうな顔をする太智。
その横でどこか複雑そうな顔をしてボードを見ている舜太。
本音を言えば、俺が『かわいい』と思っているのも、『かっこいい』と思っているのも、全部、全部勇斗だ。
だけど、そんな本当の気持ちなんて、俺は書けるわけがなかった。
誰でもいいし、太智でいいか。
半ば投げやりになり、ささっと太智の名前を書く。
少し時間が経ち、真っ先に書き終わった勇斗が周囲を見渡した。
勇「みんな書けた?」
その問いかけに促されるようにして、柔太朗や舜太が、ようやくホワイトボードからペンを離した。
勇「それじゃあ、一斉にボードを上げましょう、せーのっ!」
勇斗の掛け声で、ボードが上がる。
そこには、
太智『吉田さん』柔『よっしー』
メンバー内の誰もが認めるリーダーいじり、あるいは世間のデマ記事を逆手にとるようなカモフラージュだろうか、俺の名前が並ぶ。
太智「ほんま不本意やけどな」
柔「それな」
仁「おい」
太智のボヤきに柔太朗がすかさず同意し、俺がすかさず突っ込む。いつものお決まりのノリに、スタジオのスタッフたちからドッと笑い声が起きた。
そんな中。
舜太のボードに書かれているのは、『柔太朗』という3文字。
その回答を見て俺は、チラッと柔太朗の方に視線を移した。柔太朗も舜太のボードが見えたのか、すごく慌てていた。
__顔あっっか。
さっきまで太智のツッコミに「それな」なんてクールに同意していたあいつの顔が、耳の付け根までみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
__よかったな、柔太朗。
メンバーの不器用な恋が一つ報われたような気がして、俺の胸の奥が少し温まった。
だけど同時に、俺の視線は、もう1人の男の方へと吸い込まれるように移されていった。
その男のボードに書かれていたのは……
『仁人』という、
綺麗な字で書かれた俺の名前だった。
まさか、勇斗が俺の名前を書くなんて。脳裏をよぎったその事実に、本音を言えば嬉しくてたまらないはずだった。胸の奥が跳ねるような衝動が突き上げてくる。
だけど、どんなことにもネガティブな俺は、すぐにその期待を自分の手で握り潰してしまう。いつもの動画を盛り上げる為の冗談だろう、
俺のことを揶揄っているだけだろう。
そうやって傷つく前に予防線を張ってしまう自分が情けなくて、嫌になる。
そんなことを考えていたら、太智が急に声を上げた。
太智「なんで5分の3が仁人やねん!」
自分だって俺の名前を書いた癖に、みんな目が腐ってるのかとでも言わんばかりの顔で言ってくる。
__コイツ、本当失礼だな。
だが、太智の理不尽なまでのガヤのおかげで、沈んでいた気持ちを上げることができた。
仁「お前だって、俺の名前書いてんだろ!」
俺はここぞとばかりに、太智のホワイトボードを指差し、言い返した。
太智「これは、仕方なくや!」
こんなお題じゃなきゃ書かん!と、さらに失礼なことを並べ立てて、必死に否定してくる。
コイツ、どこまでも失礼な奴だな。
そんな中、ずっと自分の『柔太朗』というボードを前に黙り込んでいた舜太が、ここぞとばかりにニヤニヤしながら口を開いた。
舜「えー、でも太ちゃんさ、この前の打ち上げの時に、仁ちゃんの上目遣いにおもっきり クリティカル喰らっとったくない?」
太智「いやいや、あれは違うんよ!あれは、
仁人が悪い!」
全力で首を横に振りながら、今度は勝手に俺のせいにして突っかかってくる。
仁「なんで俺のせいなんだよ!」
俺がすかさず声を張り上げて抗議すると、予想外のところから援護射撃、
――いや、追撃が飛んできた。
柔「まあ、あれは仁ちゃんも悪いよね笑」
クスクスと悪戯っぽく笑いながら言葉を挟んできたのは、さっきまで舜太のボードを見て顔を真っ赤にし、完全に黙り込んでいた柔太朗だった。
__おいおい、お前もかよ。
太智「ほら見い!柔太朗もそう言っとるやろ!」
柔太朗という味方を得て、勝ち誇ったような顔をして煽ってくる。
__なんなんだよ、コイツ。
だけど、そんな俺たちの騒ぎを遮るように。
まだ一度も声を出していない、最後の男がフッと口を開いた。
勇「俺は、冗談抜きで仁人のことかわいいって思ってるけどなー」
__え?
その低く落ち着いた声がスタジオに響いた瞬間、それまでの大爆笑が、まるで嘘だったかのように静まり返った。
勇「え?何、急にみんな黙るじゃん」
スタジオを包んだ本気の静寂に、勇斗は少し首を傾げると、いつものトーンでからかうように笑ってみせた。
あいつにとっては、いつもの身内ノリなのかもしれない。だけど、本気であいつを想っている俺にとっては、心臓が口から飛び出しそうになるほどの一撃だった。
舜「いや、急に勇ちゃんがすごいガチトーンで言ってくるから、なんて返すかみんな迷っとるねん!」
そんな舜太の言葉に、うんうんと太智と柔太朗が深く賛同する。
太智「ほんまそれな」
柔「びっくりするじゃん笑」
2人もここぞとばかりに身を乗り出して、口々に勇斗をいじり始めた。
太智「てか、仁人かわいいなんて、思っとるん
勇ちゃんくらいやで」
全力で勇斗を煽る流れのどさくさに紛れて、
またまた、太智が失礼な発言をぶっ込んできた。
__あとで、覚えとけよ。
心の中でいつものようにコイツへの仕返しを誓いながらも、太智の放った『思っとるん勇ちゃんくらいやで』という言葉が、俺の胸の奥深くへと、不意に静かに染み込んでいった。
勇斗だけが、俺のことをそんな風に見てくれている。それがたとえ動画を盛り上げるための冗談だとしても、あいつの口から出た「冗談抜きで」という言葉の熱が、まだ俺の耳の奥を熱く焦がし続けていた。
勇「てか、仁人さっきから全然喋ってなくね?
なになに、照れちゃった?かわいいじゃん」
はい、本日3度目の爆弾発言、ありがとうございます。
だが、そんな発言に本気で照れてしまう俺も俺だ。
黙りこくって俯く俺の顔を勇斗が、口元をニヤつかせながら、頬をふっと掬い上げ覗き込んでくる。
__あっ、やばい今は見ないでくれ。
心臓が爆発しそうなほど激しい音を立てて暴れだす。ドクドクと熱い血が全身を駆け巡り、自分の顔が言い訳できないくらい真っ赤に染まっていくのが分かった。
必死に隠そうと視線を泳がせるが、もう遅い。
勇「……って、ガチで照れてる?」
俺のただならぬ様子を目の前で捉えた勇斗の笑い声が、途中でピタリと止まった。
__終わった絶対、引かれた。
男同士のノリでいじっただけなのに、俺が本気で茹で上がっているから、あいつは困惑しているんだ。気持ち悪いって、思ってるんだ。
俺の思考がまた、悪い方向へと転がっていく。
勇斗に嫌われたかもしれない、なんて考えていると、隣からボソッと声が聞こえた。
勇「……はは、まじか…」
勇斗はそう小さく呟くと、パッと俺の頬から手を放し、視線を逸らした。
――え?
恐る恐るあいつの横顔を盗み見ると、少し口角が上がっていて、それを隠すように手を口元に持っていっている。だけど、それが隠せないくらいに、あいつの白い耳の付け根が、俺と同じくらい真っ赤に染まっている。
そんな、初めて見る勇斗の姿に戸惑って、
俺は、完全に何も話せなくなってしまった。
いつものツッコミも、場を誤魔化すための軽い笑い声も、何一つ出てこない。
この状況を流石にやばいと思ったのか、見かねた柔太朗が声を上げた。
柔「はい、そこまでねー!スタッフさんすみません、一回休憩貰っていいですか?」
柔太朗はいつものクールな笑顔を浮かべながら、スタッフたちに向かってひらひらと手を振ってみせる。
スタッフ「あ、はーい!一回 カメラ止めまーす!」
ディレクターの声と共に、スタジオの緊張感が一気に弛緩していった。
__助かった…。
また柔太朗に助けられた。
俺は、座っていた椅子からバッと立ち上がり、 スタジオ裏に逃げるように向かっていった。
翡翠
198
#snjn
のりもちさん
3,945
ゆき
2,237
コメント
3件
初 💬 失礼いたします! タイトルからばり好みで一目惚れしてしまいました……! 💖💖 全話するする一気に読めたのですがすごくきゅんきゅんして 所々立ち止まって噛みしめていたので 笑笑 すごく時間がかかってしまいました 笑 最高です ❕️ フォロー失礼します 🙇♀️♡
ああもう、第5話めっちゃ良かったです…🥀💘 勇斗くんが「冗談抜きで」って言ったとき、心臓止まるかと思いました。あの静寂、沁みました。仁人くんの「自分を信じられない」感じが痛いほど伝わってきて、読んでるこっちも息苦しくなった…😣 それでいて、柔太朗くんのフォローとか、舜太くんのさりげない恋の兆しとか、バラエティの明るさと重なる胸の内がすごくリアルで。このグループの空気、ちゃんと“生きてる”と思いました。 続きが気になります…!🍎さん、ありがとうございます🌙💫