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たまに、いっちゃんと会って合わせる日がある。バンドとかとりあえず置いといて、2人だけで好きなようにセッション。しずえの低音といっちゃんが某週間少年誌を叩く柔らかな音。心地よくて大好きな時間だ。いっちゃんだって、楽しそう。オシャレなカフェとかに行ったら、ちゃんと演奏させてもらえるかな。いっちゃんが逞しい腕でスティックをくるくる回す。スティックパフォーマンス、かっこいい。横顔がかっこよくて、ついついしずえの弦を弾く手が止まる。しずえは、なんで辞めるんだよそこで、とでも言いたそうに低音を長く響かせた。高音よりか振動数が少ないため、人の耳でわかるの振動。低い音が長く震えていっちゃんは不思議そうに叩く手を止めて俺を見た。
「むぎ? どうした?」
ふと思った。いっちゃんは俺をいくらで買うんだろう。いっちゃんは俺にどれくらいの価値を感じてる?
「あー、ごめん。なんでもねえよ。」
「…嘘つけ、顔赤い。熱あるんじゃねぇの?」
顔赤い。そう指摘されて余計顔に熱が昇る。いっちゃんはいくらで俺を買う? だから買うって、そういう行為を、だな。いつから。いつから、いっちゃんにならされてもいいって思ってたんだろう。…違う。これは最近誰でも良くなってきたから、お小遣いくれるならいっちゃんでもいいやって…。バンドメンバーとそういう行為をしたとして。それこそバンドは解散の危機じゃないか。それは分かってる。わかってるのに俺はいっちゃんにならって思ったんだ。尚更、なんでだよ。バンドなんか解散してもいい、だからいっちゃんを…。そういうことだろ。違う、そんなこと思ってない。俺はほんとにあの日のようなライブを、アイツらと、一緒に。いかん、思考がドツボにハマって泥沼から抜け出せない。
「…どうした?赤くなったり青くなったり、忙しいなあお前。もう今日は送っていくから、帰るか?」
いっちゃんは何故か俺の頭を撫でる。意味がわからない。
「はは、意味がわからねぇって顔。ごめんな、癖みてえなもんだよ。…あ、また赤くなった」
癖。昔はバンドメンバーにもやっていたその癖。今、バンドメンバーとの空気が良くなったら、いっちゃんは他のメンバーに頭を撫でたりするのだろうか。…なんか、嫌だ。
「なにか考えてる顔。最近上の空なこと、多いぞ」
「…ごめん」
何も言えなくて、やっとの思いで絞り出した言葉。怒られてるのかな、俺。
「怒ってるんじゃねえよ。大丈夫かなって。俺は心配してるんだ。」
「心配するようなことはなんにもねえよ。ありがとう、いつきおにーちゃん」
頭を回せ。空気を掴め。飄々とした余裕なキャラを演じろ。なんでもないように見えるよう。
「いつきおにーちゃん… 一応、むぎの方が歳上なんだけど。」
「数ヶ月だろ? そんなの気にするとか、案外いっちゃんも子供だな」
「学年が違ってくるだろ。大学じゃむぎが先輩だった」
それはそう、だわ。こくり、と頷くといっちゃんもぶんぶん首を縦に振った。
「どう? 体調やっぱ悪いか?」
「いや、大丈夫。もっと、…なんでもねえ」
もっと、一緒にいたい。そう出かけた言葉は飲み込んだ。
今はバンドがあんなんだから、いっちゃんと会う時間も減ってしまった。リズム隊という理由をこじつけないと個人的に会えない。めんどくさい性格してんなあ俺。そう思うことは沢山あったけどいっちゃんを個人的な遊びに誘う勇気はなかった。
「じゃあ続けよう、テンポはこんくらいで、…」