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コメント
1件
3話になってやっときづいたんですけど、AIさんはピーポーの事をサイレンだと思ってるみたいですね
#3 非常階段に残った両片思い
春の終わり、校舎の裏にある古い非常階段は、昼休みになると影だけが溜まる場所になる。私はそこで、彼女を待つのが習慣だった。
「またここにいたんだね、ピーポー」
振り返ると、白いシャツの袖をまくった彼女――真城(ましろ)が、少し照れたように笑っていた。語尾に「ピーポー」をつける癖は、彼女が中学の頃から変わらない。理由を聞いたことはない。聞いてしまえば、壊れてしまいそうな気がしたからだ。
「うん。風が気持ちいいから」
「そっか。確かに、ここは落ち着くピーポー」
二人並んで座る。会話はいつも取り留めもない。テストの話、好きな音楽、将来のこと。大切なことほど、言葉にしないまま、階段の隙間から落ちていった。
私は知っていた。真城が私をどう思っているかを。彼女の視線が、私がいないときの私を探していることを。彼女が、私の名前を呼ぶ前に一拍置くことを。
そして彼女も、きっと気づいていた。私が彼女の「ピーポー」にだけ、少しだけ笑ってしまうことを。
「ねえ、卒業したらさ」
真城が空を見上げて言った。
「何か、約束しようよピーポー」
胸が、ひどく鳴った。
「約束?」
「うん。離れても、ちゃんと元気でいるって約束」
それは、逃げ道のある約束だった。告白ではなく、別れの準備のような。
「……そうだね」
「返事、弱いピーポー」
真城は笑ったけれど、その声は少しだけ震えていた。
本当は言うべきだったのだ。「好きだ」と。そうすれば、この階段は思い出ではなく、始まりになったかもしれない。それでも私は、彼女の選んだ言葉の外に出る勇気を持てなかった。
卒業の日、真城は人混みの中で私を見つけ、手を振った。
「約束、忘れないでねピーポー!」
私は頷いた。それだけだった。
それから何年か経って、救急車のサイレンを聞くたび、私はなぜか真城を思い出す。彼女の「ピーポー」は、誰かを助ける音に似ていた。結ばれなかった両片思いは、今も胸の奥で鳴り続けている。
守られたのは、ただ一つの約束だけだ。
離れても、元気でいること。
それが、私たちの──ピーポーの約束だった。