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第三十二章
涸海葬
「黒巣姫を殺せるのは、特定の魔法……だけ、なんだよ」
「ま、ほう……」
魔法なら私にも使えます。
今度こそ、みんなの迷惑になった分!
名誉回復です。
「皇刃くん!その魔法はどんなのかわかりますか?」
「う、ん……わかる、よ」
「教えて? 魔法なら私できます!だから、っ」
「涸海葬……だよ」
「!!っそ、それは……」
「そう……本当に出来る? 早乙女さん」
「………」
知っています。
魔法については家柄もあって、たくさん練習してきましたから。
その中には、涸海葬もありました。
身体の水分を蒸発させ、死滅させる魔法です。
祝詞を唱えている間、真正面から相手を見据える必要があります……。
いやいやいや!!
待って!!
見つめる!?
あの節足動物をですか!?
でも……今も外では、椥辻さんと御厨くんと神剣くん(珍しく)が戦っています。
「……やるよ……」
私は強く自分の太刀を握りしめ、外に視線を向けます。
不甲斐ないばかりに、みんなに迷惑をかけてしまいました。
だから……。
「私がやるよ、皇刃くん」
「ごめんね、早乙女さん。蜘蛛、苦手なのにこんな怖いこと頼んでしまった……」
「違う!!元々は私が結界を維持できなくなったから……それに、黒巣姫を倒す方法は皇刃くんが見つけてくれた。ありがとう、皇刃くん」
私は太刀を握りしめ、車両の外に出ました。
そこは土煙と化物の怒号、そしてバズーカの音が響いています。
「……今なら土煙でよく見えない……影的に……良し!!」
万一に備えて太刀を構え、視線を真っ直ぐ向けます。
「潮の骸よ……退け……」
祝詞を唱え始めた、その時でした。
私と化物の間を一陣の風が吹き、土煙を払ったのです。
無数の紅い眼。
巨大な身体。
無数の脚。
口元。
その全てが、私の眼前に姿を現しました。
そして、恐れていたことが起こりました。
その眼が、全部こちらを向いて……私と目が合ったのです。
「!!っ」
カチャカチャ……
太刀の震える音が、静かに響きます。
『小娘が……高貴なる妾を真正面から見るとは……死にたいのかぇ?』
やばい、やばい!!
声が出ない。
身体が震える。
で、でも……っ!
「波の……息よ……絶え……よ……」
声が震える。
ちゃんと……っ、唱えら……れ、ない……。
『小娘……妾を見ているな?』
「っ……」
あのときと同じ。
身体が震える。
息ができない。
でも、今回は逃げないと決めました。
「波の……息よ……絶え……よ……」
『小娘……死にたいと見える』
太く大きな脚が、一歩前に出ます。
私は、それから逃げるように一歩、後退りしました。
だめ……っ。
詠唱が……っ、途切れてしまっては……っ。
「満ちて久しき……蒼を……裂き……」
『その、祝詞……小娘、まさか……』
紅い複数の眼が、一斉に私を見てきます。
「!!っ む、り……っ。い、や……」
私は恐怖から、膝から崩れ落ちそうになりました。
その時、腕を捕まれました。
「大丈夫?綺ちゃん。よく頑張ったわね」
「み、御厨くん……ご、ごめんなさい……私、っ」
─────ヒューン
……魔法消滅の音が聞こえました。
私は、失敗したのです……。
「綺。よー頑張った。ええ子やで、綺」
御厨くんに抱えられている私を、椥辻さんは優しく頭を撫でてくれました。
その時、私たちの横を神剣くんが通り過ぎ、蜘蛛の前へ行きました。
「答えろ……おまえ、誰だ?」
『……』
「そうか……」
神剣くんは蜘蛛を見つめたまま、詠唱を始めました。
「潮の骸よ、退け。
波の息よ、絶えよ。
満ちて久しき蒼を裂き、
この身の前にて悉く涸れ落ちよ。
泡は墓標となり、
飛沫は弔いとなり、
うねる群青は棺となって、
逆巻く命を海の底へと葬れ。
朽ちよ。
裂けよ。
沈みて還る名もなきものども、
乾きし冥の淵にて永劫に眠れ。
朽ちよ、涸海葬」
ゆっくり……確実に、黒巣姫の身体から水分が蒸発していきます。
そして……。
『妾は、知っ……て、いる……そなたを……幼少期に……』
「………」
最期に何かを言い残し、黒巣姫は乾涸びて死滅しました。
「み、神剣くん……あ、あの……」
「なに?……眠いから、後にしてくれない?」
そう言って欠伸をし、車両へと戻っていきました。
「さ、うちらも少し休んで、ご飯にしよか?」
「そうね。綺ちゃんも食べるでしょ?」
嫌な予感しかしませんが……一応、聞くことにします。
「……何をですか?」
にっこりといい笑顔で、椥辻さんが答えます。
「子蜘蛛の素揚げや♥」
「食べるわけないでしょー!!」
コメント
1件
みぅです🥀 第32話、めっちゃ重かった……。 早乙女さん、あんなに頑張ったのに恐怖で詠唱が止まっちゃうとこ、胸が締め付けられたよ。それでも「逃げない」って決めてたの、本当に偉すぎる……。 神剣くんの涸海葬、めっちゃかっこよかったし、最後に黒巣姫が「知っている」って言いかけたのもすごく気になる……! そして、椥辻さんの「子蜘蛛の素揚げ」には笑ってしまった。重たい空気の中でのあの一言、隙がすごい。 次の話もちゃんと読ませてもらうね。