テラーノベル
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#独占欲
#ダークファンタジー
ガチャ……
隙間から覗く玄関の靴
——純也がいる
今日も純也は
私よりも早く帰宅していた
という事は……
純也はやはり謹慎中なのだろうか
あまりにも点と点が繋がり過ぎて
俄然深まる疑惑
しかし
そんな事より何より
純也と顔を合わせるのが辛い
昨日は激しく言い合いになってしまった
結婚来今まで一度たりともなかった惨事
高鳴る鼓動と
高まる緊張を鎮め
靴を脱ぎ捨て
平常心を装い
何食わぬ顔でリビングへと向かう
「……」
純也は
相も変わらず定位置のソファで
相も変わらずスマホを触っていた
純也を尻目に
上着を脱ぎ
キッチンへと向かう
「おかえり、遅かったね」
珍しく純也が帰宅の挨拶を投げかける
その裏に
何か嫌らしい意図を感じる
「ただいま……最近はいつもこれ位の時間だよ」
「異動になってからやる事多くて忙しいの」
今まで私より早い帰宅など皆無だった純也
私の帰宅時間など知る由もないのだろう
それに
私の帰宅が遅いというよりも
純也の帰宅が早いのだ
「晩ご飯……どうする?」
「もう少ししたら食べるから作っておいて」
もう少ししたら食べるのなら
もう少し早めて食べるとか
もう少ししたら一緒に食べようとか
そんな考えには至らないのだろうか
日に日に増す純也への嫌悪感と
妊娠によるメンタルの不安定さから
感情がおぼつかず
情緒が負に振れ
やたら滅多に純也の言葉の節々に
苛立ちを覚えてしまう
必死に感情を抑え
無言でキッチンに立ち
細胞に刻まれた記憶に従い
日々のルーティン通りに
脳死で夕飯の調理に勤しむ
「最近さあ、よく休日も出勤してるよね」
「そんなに忙しいの?」
「外資系って労働時間とか厳しいんじゃないの?」
こんな時に限って多弁で
嫌な所ばかりつついてくる純也
「業務時間は役職付くと自己管理だから」
「会社が新しい体制になって今までの様にはいかないの」
「特に私が就いたのは新設された部署、後輩も出来たしやらなきゃいけない事だらけだよ」
無表情で
慣れに任せ
脳死で手を動かし
ロボットの様に調理をしながら
飛んできた玉をただ打ち返すが如く
純也の問いかけに答える
「へぇ~それは大変だね、偉くなるとそんな感じなんだ」
私の返答が癇に障ったのか
純也の言葉に嫌味たらしさが滲んでいる
入社以来未だ昇進していない純也
もしかしたら謹慎を受けている可能性すらある
そんな純也には
もう少し気を遣うべきなのだろうか
「まあ休日出掛けて行って本当に仕事してるかなんて誰にも分らないけどね」
「……」
こんな日に限って
嫌味たらしく
嫌なところばかりつついてくる純也
妊娠から来る情緒の不安定さなのか
苛立ちが治まらない
口を開くと余計な事を口走りそうになる
出来るだけ感情を抑え
出来るだけ冷静に
最低限受け答え
嫌味は受け流し
さっさと調理を終えて
リビングを離れた
メンタルがおかしい
やたら苛々してしまう
妊娠による体調の変化な気がしてならない
現状の変化は
見た目には表れていないが
いずれは
見た目にも表れてしまう
遠くない未来に
どうすべきか
判断をしなければいけない
決断をしなければならない
その時純也には
話さなければならない状況が来るのだろう
そう考えると
気が重い
あまりにも私には
荷が重い
早く終わらせてしまいたい半面
永遠に来てほしくも無い
いずれにせよ
DNA検査の結果を待たなければならない
気が気でない
悶々とする日々
結局
その週は
純也は私よりも早く帰宅していた
鈴木さんも出社しなかった
そして
DNA検査の鑑定結果は出なかった
純也と
同じ空間で
同じ時間を過ごす事に
ストレスを覚える様になってしまった
嫌悪感を覚え
自宅に居られなかった私は
結局
その週末も
休日出勤した
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