テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昼下がり、俺は何気なく駅前の喫茶店に入った。中に入るとふんわりコーヒーの匂いが漂ってくる。店内は少しレトロな雰囲気で、昔のレコードやポスターが飾られていた。入り口の前でぼーっと突っ立っていると店員に案内される。昼だし一人で来たため俺はカウンター席へ案内された。カウンター越しには料理を作ってる店員がいた。
「いらっしゃいませ。ご注文お決まりでしたらお声がけください。」
そうにこっとした笑顔を見せて言ってきた店員は、目の色が深い紫色で襟足には水色が入っていた。
(…バイトの人なのかな)
そんなことを考え俺はメニューを見る。オムライスやナポリタンなど、the喫茶店と言ったものが載っていた。特別腹が空いていなかった俺は何を頼もうか悩み、あたりをチラチラ見渡す。
「すみません、コーヒー1つ。」
隣の老人が言っていた。すると、俺の目の前に居た襟足が水色の奴が、注文を取り合っていた。確認を終えると、すぐ作業に入り、豆を用意し、挽き、蒸らし、淹れていた。そんな何気ない作業に俺は惹かれていた。
「お待たせ致しました。コーヒーになります。」
「いつもありがとな、うみにゃくん。」
うみにゃって言うのか。注文も決めずに俺は隣の客達の会話を盗み聞きしていた。いらないことばかり考えていたせいか、少しお腹空いてくる。周りを見る限り、オムライスを頼んでる人が多かったので、オムライスにした。
「すみません、」
「はーい!ご注文お決まりでしょうか?」
「はい、えっとオムライスと…コ、コーヒー1つください。」
正直、コーヒーなんてあまり飲んだことが無かった。いつも飲むのはせいぜいカフェオレくらい。でも何だか飲んでみたい。そう思ってる自分が居た。
「はい!かしこまりました!オムライスが1つと、コーヒーが1つですね。コーヒーは食後にしますか?」
「あっ、じゃぁ食後で」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
案外、オムライスはすぐに届いた。よく動画で見るようなトロトロではないが、昔ながらのオムライスで、卵はほんのり甘く、酸味のあるケチャップとよくあっていた。空腹を満たすのには丁度よく、俺の腹は満腹になっていた。俺が食べ終わった頃ぐらいに、店員がコーヒーを淹れていた。何でだろう。見惚れてしまう。別に珍しいものだからじゃない。俺の親もよくコーヒーを自分で淹れている 。あの店員だからだろうか?そうこう考えているうちにコーヒーが届いた。
「お待たせいたしました。コーヒーになります。」
そうして、カウンター越しにコーヒーが置かれた。濃い茶色で、ティーカップの底なんか見えない。苦い匂いが俺の鼻をツンと通った。いざ飲もうと、取っ手の部分を取る。ゴクリ。と一口飲む。
「……にが」
ぼっそっとそう一言呟く。何にも入れてないコーヒーは当たり前に苦く、まだ俺には早かったと痛感した。
「…ミルク入れますか?」
そう言って店員が俺に微笑みながら言ってきた。さっきの言葉、聞かれてたんだ。そう思うと何だか恥ずかしくなった。
「じゃぁお願いします…」
「はい!」
ミルクが入ったコーヒーはまだほんの少し苦かったが、さっきよりかはまろやかになっていた。
「普段コーヒー飲まないんですか?」
店員が聞いてくる。
「あっ、あんまり飲みませんね…お店で頼むのも初めて何で…」
俺がぎこちなく答えると店員はにっこり笑って、
「じゃぁ俺が初めてのコーヒーデビューでいいですか?」
と俺に言ってきた。恥ずかしかったのか、緊張していたからなのかはわからない。俺の心臓はなぜかさっきよりも鼓動が早くなっていた。
「…そうなりますね」
そう俺が答えると店員はまたニコッと笑った。笑顔が素敵な人なんだな。そんなことを考えながらまたティーカップを手にとる。砂糖なんか入ってるはずがないのに、何だか甘く感じた。