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「ナニの話ですか? ついにされたんですね。おめでとうございます。赤飯とか炊きます?」

杉村は相変わらず表情も変えずに淡々と、そんなことを言った。


「要らないわよっ。結局しなかったんだし」


「しな……かった? 槙野さんのソレがそうなってるところを確認されてるんですよね?」

あんなになる、とは屹立しているところを見た、ということなのではないだろうか。


「うん……」

美冬は手の平をじっと見るのをやめてほしい。その大きさを反芻しているのが分かるから。

ということは確実に固く大きくなっている状態を確認した、ということだろう。


「まさか、しな……かったんですか?」

「だって、入らないよ。あんなの……」


絶対入んない……とかごにょごにょ美冬は言っている。

おそらくは完全なる臨戦状態だったのだろうに美冬のことだから、無理とかなんとか大騒ぎしたのではないだろうか。


そう思うと、杉村は槙野が気の毒になってきた。

それでも無理強いはせずに引いたところに好感が持てる。


「美冬さん、しようって思ったんですよね?」

「そうよっ! いいところまでいったのよ」


ますます槙野がかわいそうだ。

「入ります」

キリッと杉村は言った。


「え?」


「いいですか? 男性がその状態になっていて我慢するって、すごいことです。それだけ美冬さんのことを大事にしてるってことですよ。そんな人がひどくするわけないでしょう。しっかり慣らしてもらって次はさせてあげてくださいね! 槙野さんならおそらくは経験もある程度おありなんだから、任せて大丈夫です」


──ある程度? いや? とても豊富なんでは……?

「あ……うん」

普段はあまり熱くなることはない杉村が、そんな風に言うので、美冬はこくりと頷いたのだ。


──慣らしてもらってって言ってたわ。

よく分かんないけど慣らしてってお願いすれば、してもらえそうにも思う。

杉村があれだけはっきり入る、と言うのだから入るのだ。

おそらく、多分……きっと。


「美冬?」

「ふにゃっ!」

「なんだその返事……」


名前を呼ばれて顔を上げると、お風呂上がりの槙野が腰タオルでバスルームから出てきたところだった。

髪から落ちる雫をタオルでごしごし拭いている。


上半身は裸の槙野のその綺麗な身体が目に飛び込んできて、美冬は動揺してしまったのだ。

広い肩幅と適度に筋肉のついた腕、胸も厚すぎず腹筋は薄らと割れていて引き締まった腰にタオルが巻いてある。


ものすごくセクシーだ。

「きゃー、なんでなんも着てないのっ!?」

「タオルは巻いてるだろうが! もういいからお前も浴びてこいっ」

美冬は慌ててベッドを降りてバスルームに向かった。


び……びっくりした。それは以前にも見たことはあるけれど、腕とか、胸とか……すっごく男の人だった。

以前にちょっと見た時はシャツの隙間からだった。


美冬はちらりと鏡を見る。今までじっくりと自分の身体を見たことはなかった。


ミルヴェイユで服を作る時は美冬はスタッフに社長はスタイルいいですよね、と言われる。

お世辞が含まれているにしても変なところはないはずだ。


槙野があの格好で出てきたのだから、美冬もそれに準ずるべきだろうか……。


シャワーを浴びた美冬は少しだけ迷ったけれど思い切って、タオルを巻いて部屋に戻った。

電話をしていた槙野が目を軽く見開いたのを見て、バスルームに戻ろうとした美冬だ。


「それ、メモでも構わないからメールして俺に送っておいてもらえるか?」


部屋を横切ってきた槙野に腕をつかまれる。

──べ……ベッドの向こうから三歩で来た!


「うん。俺の方で一旦確認するから。悪い、今ちょっと取り込み中で。明日朝イチで確認するから。電話も繋がらないから、至急案件は他の役員に回してくれ」


電話を切った瞬間、美冬は真っ赤になって怒る。

「なんで自分だけバスローブ着ているのよ!」

「いや……着るだろ。全裸待機は引くだろ」


着ていなくて怒られるなら分かるが、着ていて怒られるのは納得がいかないような気がする槙野だ。


それでも美冬がタオル一枚、という格好で出てきたのは勇気がいったことだろうと思う。

だからぎゅうっと美冬を抱きしめた。


「ありがとうな。さっきの俺の感じからしたらそうなるよな。すげえ嬉しい。それにすげえ興奮した」


美冬はどきんとする。

興奮した、なんて言われたら、美冬の方がドキドキしてしまう。


「すごくドキドキしてるの」

「してくれ」


槙野は一瞬だけ美冬を抱き上げてベッドへと運ぶ。

そっと降ろして、唇を重ねた。


槙野とのキスはいつも最初はついばむように軽くされて、そのあと少しづつ激しくなる。

最終的には深く絡み合うものになって、けれど、それにも美冬は抵抗を感じなくなっていた。


それよりもむしろ蕩けあってしまいそうなそのキスが、とても好きになっていたのだ。

「祐輔の……キス、好き……」

「いっぱいしてやるよ」


緩く舌が絡んで蕩けそうになっているところに、そっと槙野の手が胸に触れる。

するっとタオルを外した。


「寒くないか?」

「平気。あっためて?」

苦笑した槙野が今度は耳元にキスをする。

「いつの間にそんな風に誘惑することを覚えた?悪い子だな」


耳に舌が差し込まれて、くちゅくちゅっと濡れた音がする。

「や、やぁんっ……」

それだけのことなのに美冬の背中にぞくんとしたものが駆け上がってくる。

契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

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