テラーノベル
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静かな夜だった。
窓の外はもう暗くて、街の光だけがぼんやり滲んでいる
部屋の中には時計の音と、紙をめくる小さな音だけ
中也はソファに座って、書類に目を通していた
ペンを走らせる音が、やけに響く。
_カチャ
不意に、鍵の開く音がした。
『……おい』
顔も上げずに声をかける。
『また勝手に入ってきやがって』
返事はすぐに返ってきた。
「ただいま」
軽い声。
いつも通りの、ふざけた調子
でもその一言に、中也の手が一瞬止まる。
ゆっくり顔を上げると、そこには太宰がいた。
何もなかったみたいな顔で、当たり前みたいに立っている。
『…は?』
「ん?」
『今の何だよ』
「何がだい?」
首を傾げる仕草すら、わざとらしい。
中也は舌打ちして、ペンを置いた。
『ここ、お前の家じゃねえだろ』
「知ってるよ」
『じゃあなんで“ただいま”なんだよ』
少しの沈黙。
太宰は一歩、部屋の中に入ってくる。
靴を脱いで、そのままソファの近くまで来る。
距離が近い。
逃げるでもなく、ふざけるでもなく。
ただ、そこにいる。
「……だってさ」
ぽつりと、落とす。
「ここ、帰ってきた感じするし」
軽く言ったはずの言葉が、妙に重く残る。
中也は何も言えなくなる。
喉の奥で、言葉が引っかかる。
『……意味わかんねぇ』
やっとそれだけ絞り出すと、太宰は小さく笑った。
「そうかもしれないね」
否定しない。
誤魔化しもしない。
ただそのまま、受け入れているみたいに
中也は視線を逸らした
心臓の音が、やけにうるさい。
『……勝手にすんな』
低く言う。
拒絶みたいな言い方。
でも、追い出す言葉じゃない。
太宰はそれをちゃんと分かっているみたいで、何も言わずにソファに腰を下ろした
自然な動き。
まるでずっとそうしてきたみたいに。
しばらくして、中也は立ち上がる
キッチンの方に歩いていって、グラスを一つ余分に出した。
『……飲むか』
背を向けたまま言う
「いただきます」
すぐに返ってくる声。
その距離感が、妙に心地い
飲み物を持って戻ると、太宰はもうくつろいでいた。
足を投げ出して、完全に居座る気でいる。
『ほんと図々しいな』
「今さら?」
『……まぁな』
小さく返す
グラスを渡すと、指先が一瞬触れた。
ほんの一瞬。
それだけで、なぜか確信する。
——ああ、こいつはもう消えないな
理由なんて分からない。
約束もしていない。
でも、分かる。
太宰はグラスを傾けながら、ふと呟く。
「ねえ、中也」
『なんだよ』
「また来てもいい?」
いつもなら、勝手に来るくせに。
わざわざ聞くのはずるい。
中也は少しだけ黙ってから、息を吐いた。
『…鍵、変えてねえからな』
ぶっきらぼうに言う。
『好きに入れ』
それは許可で、諦めで、
そして——
ちゃんとした“受け入れ”だった。
太宰は少しだけ目を細める。
「そっか」
それだけ。
それだけなのに、どこか安心したみたいに見えた。
夜は静かに更けていく。
会話は途切れても、不思議と気まずくない。
ただ同じ空間にいるだけで、十分だった。
帰る場所なんて、いらないと思っていたはずなのに。
気づけば、足が向くのはここで。
ドアを開けた瞬間、浮かぶ言葉は決まっている。
——ただいま
そして、それを追い出さない人間がいる。
中也は何も言わずにソファにもたれた。
すぐ隣に、当たり前みたいに太宰がいる。
もう、それでよかった。
コメント
5件
さいしょはくんな!って感じだったちゅやもこれが普通になったんだよね尊い。多分16ぐらいのときはめっちゃぎゃんぎゃん言ってそう尊い
うっへへーい!!!!😊🤟 いやぁ……改めて思うけど、「ただいま」「おかえり」ってめちゃくちゃ良い言葉だよな🥰💞 互いに帰ってこれたことを証明するやりとりって、なんか感慨深い気持ちになりますなぁ😇😇
なんかノベル書くたびに私の書く雰囲気が変わってるかも…🤔 まぁ気楽に読んでください!! コメントや♡くれると嬉しいです🥹 フォロワー様みんな愛しております !!