主様はことある事に言う、
ラトはかわいいねと。
それは私がパセリを見ている時だとか、揺れるピアスが気になって触っている時だとか、天使を壊した後だとか……情事の最中だとか、一貫性は無く唐突に言う。
かわいいの定義はよく分からないけれど、主様はかわいいと言う時決まって同じ目をする。
どろりとした、暗い衝動を携えた地底のくろ。
シンシンと降り積もる雪が溶けだして作る、土が混ざり合う濁った水面。
引き裂かれて中身を晒した、冷たい生き物の目。
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ラトは準備をしてきますと言って1度席を立ち、まだ誰もいないシャワールームで一通りの準備を済ませた。我が主様はいつも良く分からないタイミングでお誘いをかけてくる、そういう所が面白いのだとくふ、と笑ってゆっくり部屋の扉を開いた。
「主様、準備が終わりました。」
「ん、おいで~」
ちら、とこちらを見た主様は、今日はいつものシャツとスーツではなく普段着のようだった、ラトは普段着の主様が一等好きなのだ。
いつもは1つしか付けていないあの金の指輪とは別に、キラキラと幾つも着いた指輪。情事の時は1つずつ、1つずつ、無くさないようにベッドサイドの棚の上に置いていく。その様子を見ているとあぁ、今から私は抱かれるのだと、身体に焼き付いた快楽が、じんわり脳を支配するように染み込んで思考が滲む。
ラトは誘われるように歩みを進めると、億劫そうに指輪を外す主様の膝の間に割って入り、太ももあたりに手を置いた。
今日の主様のズボンはだめーじじーんず、と言うらしい。する、と太ももをなぞって布の破れた隙間に指を差し込む、そのままゆる、ゆる、と柔い肌をなぞるようにかき混ぜた。
「……らと、なぁに」
「主様の肌はやわらかいですねぇ、爪を立てたらすぐに破けてしまいそうです」
「っ、らと、」
びく、と足が揺れて焦った声と共に手首を掴まれる。視線を感じて顔を上げると眉をひそめて少し頬が赤くなった主様と目が合った。じわりと手のひらが汗ばんでいるのを感じる。
やっぱり”可愛い”のは主様ですねと心の中で思って口角が上がる。なんだか良い気分になったラトは、隙間の感触を楽しみながら体制を変えて主様の膝の上に体ごと乗り上げ、そのままもう片方の手でTシャツの襟首を横にずらすとちゅ、ちゅ、と軽くキスを落とした。
主様は黙してされるがままになっていたので、そのままあむ、と肩を甘噛みする。私の肌を甘いと言うことがあるけれど、主様の肌も柔らかくてほんのり塩辛くて、甘い。
少し強めに歯を立てると「っ、」と少し低く甘い声が鼓膜を震わせて背に回った手がラトのシャツに皺をつけた。主様はよく、噛んで、噛んでも良いよ、と言うから。今日も遠慮なく歯を立てて、白い肌に私の跡を残した。
歯型をなぞるように舌を這わせて時折肌を吸う。
主様の白い肌に点々と赤い華が咲いて鮮やかだった。やはりTシャツだと首元から下はたくし上げないとあとが付けれない、不便ですねぇと思いながら
ふと顔を上げて、目を見開いてしまった。
主様は何かに耐えるようにこちらをじ、と見ていた。真っ黒な目が普段よりもずっとどろどろと澱んで見える、噛み締めた唇にじんわりと血が滲んで、紅潮した肌と相まって酷く色っぽく、どく、と心臓が鳴る。
「主様?」
「……もう、満足した?」
「…ふむ、血が出ていますよ」
太ももに置いていた手をあげて、親指を主様の下唇に当ててなぞった。粘着質な感触がして自然と自らの舌で舐めとる。味わおうと口を閉じようとして、その隙にぐ、と主様の顔が近くに来てそのまま舌を絡め取られた。
くちゅ、と唾液が混ざる音が脳内で響いてぞわりと背筋が浮く。血液の塩辛いあじとタバコのくすんだ香りが混ざりあってどくどくと腰が重く疼く、体を蝕む感覚に耐えるように手探りで主様の服を掴んだ。
口内を自分のものとは違う何かがかき混ぜる感覚は今だに慣れなくて、息をするタイミングも分からないまま酸欠になる頭がぼんやりと快感を拾う。
そうしているうちにシャツのボタンを外されていく感触がして、少し冷たい空気が肌をくすぐった。
ちゅ、と可愛らしい音と共に唇が離れる。一瞬前までくっつけていたと言うのにぎゅぅと体の真ん中が苦しくなって、滲んだ視界がゆらゆらと揺れる。
「っ、ん、…ぁるじさま、」
「ラト、包帯取って良い?」
「……は、ぃ、いいですよ」
「ん、じゃあ取るね、」
優しく首元に手を当てられてぴり、と包帯をくっつけているテープが剥がされる。スルスルと解かれてそのままシーツの上に落とされた。灯りに照らされるみにくい火傷と傷。ラトは目を逸らして真っ白なシーツをじ、と見つめた。
その傷をゆるゆると撫でた主様は首筋に顔を近づけて、上から順番に触れるだけのキスを落としながら他の包帯も解いていく。
大事な人から貰った贈り物を開けるように優しく触れるそれに、またわけも分からず苦しくなる。
主様が、私を見る時の目を知っている。手つきも、声もうんと優しくて。でもぐらぐらと煮えたぎるサディスティックな酷い衝動に蝕まれていく目を、もっと何か”酷いことをしたい”と揺れる目をしっている。私が痛いのも、苦しいのも苦手な事を分かっているから、ただ甘いだけのぬるい快感を与え続ける。けれどそのうらがわで、違う衝動をずっと耐えている。
……優しいひと。酷くしても良いのに、散々荒らされて傷ついたみにくいからだ。痛いのも苦しいのも嫌いだけれど、主様であれば、どんな風に扱われてもぜんぶ耐えてみせるのに。
「……ラト、痛いことしないよ」
「…?」
「酷い顔してる、……俺は、ラトが望むこと以外、しないから、大丈夫。きれいだよ、ラト」
そう言って手をぎゅ、と握られる。安心して、と言うようにゆるゆると手の甲をなでられた。
包帯を解く時、いつも真っ黒な不安が足元から這いずってはそのまま引きずり込もうとしてくる。
それをわかっている主様は優しく、優しく肌を撫でて甘いキスを落としていく。自分の衝動は無視したまま。
また苦しくなる、もういっそ
「……酷くして、良いんです」
「………え?」
「わかっています。い、たくても、良いです。苦しくても、良いです主様が……くれるものなら」
ラトの顔にグッと影が刺して彫りの深い顔の輪郭が鋭さを増す。長いまつ毛がギラギラと輝いて燭台の灯りが散らばった。曇りないシアンの瞳はコントラストの強い美しい絵画そのもので、濃く艶やかに広がる隈がそれを縁どる額縁を思わせる。
濡れた薄い唇がゆるりと口角を上げて、リップピアスがチカチカ光を反射した。
憂いが香り立つ、ハッとするような美青年であった。
主様は目を見開いて、それから揺れるように目を逸らして口を開く。
「…俺は、優しくしたいと思うよ」
「でも、主様はいつも私に……その、何か酷くしたいと…そういう顔をしています。分かります、私はそういう感は鋭いんです、」
「……うん?ずっとバレてたって、こと?ぁ〜……ええ…上手く…隠してたつもりだったんだけどな……」
「主様は、とても分かりやすいですから」
「それラト限定だと思うけど」
「ふ、そうですか、なら尚更がまんをして欲しくはありません。私は優しい主様が好きですが、それと同じくらい主様の望むままにして欲しいんです。」
握られた手をゆっくり解いて主様の指の間に自分の指を差し込むように握り直す。
1連の動作を見ていた主様がふーっと息を吐いて、繋いだ手をぎゅ、と握り返してくる。
「……わかった、じゃあ、今日は少しひどく、して良い?」
「はい、大丈夫です」
「でも痛いことはしない。絶対」
「良いんですよ、しても」
「しないからな」
「……くふ、わかりました。」
少しぷく、と膨らんだ頬が可愛らしい。くふくふと小さく笑っていると主様が繋いだ手を解いて、私の肩を優しく押す。ベッドが軋んで視界が変わった。
ラトの足の間へ体が入ってきて、顔の横に手が置かれる。
その手がぎ、と乱暴にシーツを掴んだ。いつものようにラトの頬を優しく撫でてキスを落とす。太陽光で輝く美しいステンドグラス、眩しいほどに真白な教会で祈りを捧げる、信徒の仕草だった。
「先に謝っとくよ、ごめんね、ラト」
喉の奥から絞り出すように出た、最後の理性の声。顔に張り付いた前髪と震える真っ黒なまつ毛の奥。未だ揺れる瞳がくっきりと脳に焼き付いて、最期の景色はこれが良いと、じんわり思った。
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「っ、く、ぅ……ふ、」
「……あついね」
ラトは仰向けの体制でシーツを握りしめて顔を背け、快感の波に耐えるようにぎゅっと目を瞑る、足は開いたまま閉じれなくなってずりずりとシーツにシワを増やしていくだけになってしまった。
ぐちゃぐちゃになった下半身はもう既に何度も絶頂を迎えた後で、緩く立ち上がった屹立からはもう薄い精液しか出なくなってしまった。まだ指を2本入れられて中をかき混ぜられているだけなのにこんな状態だなんて、考えたくもなかった。
今までどれだけ優しくやわく扱われていたのか、からだぜんぶ、壊れて使い物にならなくなったらどうしよう、と思考が霞む。
主様がくたくたになった体を宥めるようにキスを落として、するすると肌を撫でられる。ラトは全身を真っ赤にしてびく、と揺れた。どこを触られても気持ちが良くて暖かい手が心地好い。
呼吸が少し落ち着いてくると、下半身に伸びた手がぐちぐちとラトの好きなところだけを押してかき混ぜられる、腰が蕩けるような快楽を拾って意思と反してかくんと落ちた。
また、もう勘弁して下さいと泣き言が口からまろびでそうになる。
快感が暴力になることを、ラトは初めて知った。
「ゃ、ぁ♡ふ、くぅ、ふ♡ぁ、あ、ぁ〜ッ……♡♡は、は、ぅ……♡ぁく、は、」
「あは、もういきそう?かわい……」
「ぁ、ぁ〜……♡ぃ、ィく、ぅ、…〜〜っ♡♡」
「上手だね、ラト」
「あ、ぁ♡あるじ、さま、ぁ」
じわ、と広がる甘い快感に腰が痺れて重くなる、体全体から染み出すように汗が出て、脳が溶かされる感覚がたまらなくて、またすぐに欲しくなってしまう。中毒性のあるドラッグみたいな快楽に頭の中まで矛盾でぐちゃぐちゃになった。
壊れた涙腺がボロボロと雫を落とす、怖いのか気持ち良いのか分からなくなってしまって必死に主様を呼ぶ。
「ぁ、う、ぅ〜……ふ、あ、あるじさま、ぁ♡は、はぁっ……ぅ……ッ♡♡」
「うん?」
「はぁ、ふ…も、〜ッッ、♡きもち、くて」
「うん、きもちいね」
「ぁ、♡は、〜ッッぁ♡♡ま、まって、くださ、」
「ね、大丈夫、だいじょうぶ、ぁは…」
「ぁ、なか、は、ゃ……♡また、ぃっちゃ、ぁ、♡ぃ、イく、ぅ、ぅ”〜〜っっ♡♡」
どんどん絶頂の間隔が短くなっている気がする、それにもう何度もこのやり取りをした気もする。
じんじんと疼くなかが、ほかのものを欲しがってきゅうと指を締め付ける、この先を知るからだが勝手に期待して唾液が口の端を伝う。ぁ、ぁ、と断続的に口から漏れる甘い声がずっと止まらなかった。
ふと張り付いた前髪をかきあげるように頭を撫でられて、ラトは明瞭になった視界が白んでぱちぱちとはじける様を見た。
こちらをじっ、と見ていた主様と目が合う、私を観察するように見る目。
暗い裏路地で小動物をぐちゃぐちゃに刺し殺して笑う、熱い血しぶきとねっとり手にまとわりつく不快なぬめり、金属と骨が触れて耳を刺す不協和音。
悪い事だと分かっていて止められない、そのスリルを楽しむ無邪気な子供の顔だった。
「らと、かわい…」
恍惚として煮えたぎった声が耳元で落ちて体がびく、と震える。熱湯が手にシミを作った時の反射の動きだった。
主様はラトの肩をゆるゆる舐めてキスを落とす、そのまま ぁ、と口を開ける気配がして。思い出したようにぴたりと止まり、あむとやわく歯を当てるだけの感触がした。そのままじゃれるようにキスをして軽く肌を吸う、焦れったいくらいに触れるだけの行為だった。
「……は、」となにかの衝動を誤魔化すような息が耳をくすぐる、そのままなかに入った指がぬる、と1本増えた感覚がして、ラトをぐちゃぐちゃに掻き回した。
「……っ!ぁ♡ぁ〜……っっ♡ぅ…♡」
「ふ、らと、あーんして」
「…?ぁ、む、ぅ……??……!〜〜ッ♡♡」
唇をなぞられて不意にぬる、と口の中へ指が入ってくる。そのままゆるゆると舌を撫でられる。そして上と下が同時にぐちゃぐちゃに混ぜられて、なにをされているのかわからないまま、ラトは頭の中がどろどろと溶けて無くなる感覚を覚えた。
「どう?あは、どっちも一緒、きもちい?」
「〜ッ??♡♡ふ、ぅ〜ッ♡ー〜っ!、!♡♡」
「わ、すごい、ぐちゃぐちゃだね」
「ふ、ぅ♡……!コゅ、っっーー、?」
がん、と脳が警笛を鳴らして視界が揺れる。主様の嬉しそうな笑い声が頭の奥の方でぐわんと響く。
唐突に、喉の奥まで指が入り込んでごりごりと触られていた。
突然自由を奪われた口はけぅ、と苦し紛れの声を漏らす。どうにか呼吸をしようと思うのに、喉は好き勝手に動く指に翻弄されてえずく事しか出来なかった。
じわじわ酸素が回らなくなって体中に力が入り、意思と無関係に後孔がぎゅぅと指を締め付ける。そのまま良いところを嬲られると、ぜんぶ苦しいのに下半身から甘く蕩けるほどの快感が全身に広がって、歪んだ視界がぱちぱち点滅した。
「らと、くるしい?……しゃべらんないか、ぁは、でもきもちよさそう、はは」
「〜〜〜ッ♡♡ふ、ぅ、えっ……っ、?ぁ」
次第に瞬く視界がくらくぼんやりしてきて、お腹のまんなかがじくじく熱くなっていく。
これ以上はだめだと、どく、どく、と心臓が危ない音を鳴らす。何も分からないまま手探りで主様の腕を探して必死に掴む、力加減を気にしている余裕はなかった。
そして警告を無視した体は息を吸おうとして、ぐちゃぐちゃの体の奥まで力がはいって、あ、と思ったその瞬間に、がくがく、と体が揺れた。
さっきまでとは比べ物にならないくらいの快感が背筋から頭の先までを支配して、脳みその奥にどば、と多幸感が広がる。ひと呼吸置いて下半身が生ぬるい液体で濡れる感触がした。
「〜〜〜〜〜ッッ♡♡♡ぁ、♡……ぅ♡♡」
「……やば、潮って、本当に吹けるんだ……はは、すご、」
「……♡ぅ、う♡……っ♡♡」
「…じょうずにできたね、いいこ、ラト」
主様が何か言っているのは分かるのに、とろけた頭では理解出来なかった。思考がまとまらなくてふわふわする。
ずる、とおなかとくちから指が抜けた感触がして、余韻が残ったままの体がびくっと揺れる。主様が労わるように頬を撫でて、次第に力んだ体からゆっくりと力が抜けた。いつもは熱く感じる主様の手が今はひんやりとしていて、自分の顔が熱く火照っていることを知る。
「ラト、大丈夫?……のどいたくない?」
主様の指がそっとラトの喉に触れて、揺らぐ瞳で様子を伺うように顔を覗き込んでくる。ラトはボーッとしたままの頭で、あ、心配してくれている、と思ったけれど、ふぅふぅと息を吐くだけの口は上手く回らなくて、その手をぐっと掴んだ。
主様は私がもう嫌だ、苦しい、と言えばきっとこの行為を終わらせてしまう、…それは嫌だなと思った。確かに苦しくて辛かったけれど、それ以上に茹だるほど気持ちが良かったから、もう一度やってくれませんかと言ってしまいそうな程だったので。
そのまま主様の手を口元に持っていく。大丈夫ですよ、という代わりにキスを落として目を潜める。そしてくっと口角を上げた。
それを見た主様は目を見開いて、片方の手で顔を覆った。そのままこてんとラトの胸に頭を乗せてはぁ…とため息をこぼす。
「……やりすぎたかなって、思ったんだけど」
下の方でぼそりとくぐもった声が聴こえて喉の奥からくふ、と笑い声が出てしまう。その声を聞いて主様はゆっくり顔を上げてこちらを見る。拗ねた子どものような顔が可愛らしくて、重い手をぽふ、と主様の頭に乗せてそのまま撫でる。ふわふわとした感触が気持ちよかった。暫しの間そうやってふわふわして、ラトは口を開いた。
「はじめに…言ったでしょう、大丈夫ですよ。全て受け止めると、そう言う約束です。」
少し休んだお陰か体のだるさがマシになっていた、こういう時体力があって良かったと思う。主様の肩を押して、自分も同じように上体を起こす。
「……でも、」
「主様、すきですよ」
「……は、え?」
「優しくて、可愛いひと、」
主様はぐ、と眉を寄せて目を逸らす、前髪がさらりと落ちて目元に影を作った。不機嫌そうなそれは人を壊す前の鋭く冷たい刃物のようで、しかし、ラトのよく知った照れている時の表情だった。
そしてふぅ、とひとつ呼吸をしてこちらを見る。私の腕を掴んで引き寄せ、腰に手を当てる。そのままあぐらをかいた主様の膝の上をまたぐような姿勢になって、
「……入れてもいい?」
こく、と頷くと顔を引き寄せられ軽く口にキスをされる。リップピアスを舐められた後かちりと歯にあたる音がして、1度落ち着いたはずの熱がまたじくじく疼く。
ちゅ、ちゅ、とラトの胸あたりにキスを落としながら、主様が自分の屹立を数度扱いて避妊具を付ける音が聞こえて、腰を掴まれた。
そのままゆっくりと下に降ろすように誘導される、先端が触れて体がびくりと震えた。
そして思い出す、そういえば自分は何度も何度も……絶頂した後ではなかったっけ
無尽蔵かと思われるほどの体力の持ち主だと自負している、けれど、数度しかこの行為に及んでいないとはいえここまでくたくたにされたことは無い。
いつもの主様なら、快感に慣れないラトを気遣って1度前でイけばそこでやめていた……どくどくと心臓が嫌な音を立てて、背中に、汗が伝う。あれ、これは少しまずいのでは、と思考を掠めたところで
小さな音を立てて先端が中に入った、ぞわりと背筋を快感が走ってかち、と歯が鳴る。
ふ、と主様がわらった気配がして、そのまま主様の屹立がちゅくちゅくと入口を浅く出入りする。
「ぁ”、っ、ひ、ぅ、〜〜〜ッッ……ぁ、あ、〜〜ぅッ♡♡、〜〜っ♡♡」
焦らすようなそれに膝立ちさせられた足ががくがくと揺れて勝手に腰が浮く。それを逃げだと思ったのか腰を掴む手の力が強くなって浮き出た股関節をごり、と抉る。
それだけで腰に響くような快感が走ってラトはたまらず目の前の頭にぐりぐりと額を押し付けた。
「は、ぁ”、あ、ゃ、♡あるじ、さま、っ♡♡」
「ね、っは、ぁ、このままおくまで入れたら、どうなるのかな……っらと、」
「……?は、ぅ”、♡お、ぉく、」
主様の熱にうかされた様な声が、じんわりとお腹を熱くする。ごきゅ、と喉が鳴って呼吸が浅くなるのを感じた。
おなかのおく、そんなところまでいれたら、じくじくと疼くなかに、今、そんな、ことをされたら、どろどろと悪い方に思考が溶けて、その事しか考えられなくなって顔が熱くなる。
「は、なかきゅうきゅうしてる、かわぃ……ね、入れてい?らと、っ、おくまではいらせて、」
おねがい、と甘く低く、蕩けるような懇願する声が頭のなかをぐちゃぐちゃにして支配する。そう、ラトがあつい手で快楽に溺れている間、このひとはずっとその様子を見ていただけだったことを思い出す。そう思ったらなんだか可愛く見えてきて、どろどろにとけた主様の目を見て、こくんと、頷いてしまった。
ラトは既にほとんど思考を無くしていたので、それが主様の性癖だということは完全に抜け落ちていたわけなのだけれど。
「ありがと」
許しを得た主様は、ぁは、♡と零れたペトロリアムの様なくろい声で笑って先だけ中途半端に入ったままのラトの腰を掴み直す。
ーーぐちゅ、と粘着質な音がして、中の壁をゆっくり擦って、割り込んでくる感触、主様のそれが、お腹のおくの行き止まりにこつんとあたって、
その瞬間に頭の奥がバチバチと点滅した、中がぎゅうぎゅうと主様を締め付けて、背筋がグーッと反って体が震える。「あ、ぁ、」となかみがまろびでた時みたいな声が聴こえて、それが自分から出た音だと言うのをひと呼吸置いてから認識した。
腰が砕けるほどの快楽が体中に染み渡って頭の奥でじんわりと広がる。あまりの多幸感に口の端から唾液が伝う感覚がした。
「〜〜〜〜〜〜………ッ♡♡♡♡ぁ”〜〜………♡♡」
でてはいけない何かが脳みその全部を濡らす。これはだめなやつ、おかしくなってしまうと頭の奥で思うのに、ぺたんと落としてしまった腰はがくがくと震えるだけで砕けたまま使い物にならない。
みっちりと中を埋めるそれを締め付けることしか出来なくて、
またじわりと快楽がせり上がってくる、それが恐ろしくてかく、と背中を丸めた。
完全に悪循環であった。
「ぁ”、ぅ、?、♡♡ぁ、〜〜〜……っ♡♡♡」
「……〜っ、は、す、ご……きもちい、」
主様は快楽に濡れてぼんやりとラトを見ていた。紅潮した顔につぅと汗が伝って、艶やかな黒髪が口の端に張り付いている。蕩けた真っ黒な目が唸るほどセクシーで、ラトはぎゅうと胸が苦しくなって、またなかを締め付けてしまう。
「はぁ”、は、♡ぁるじ、さぅ、ぁ”っ、ぁッッ〜〜♡♡ゃ、だめ、ぁ、……ッッ〜〜〜♡♡♡♡」
「ぁは、は……かわいぃ、らと、らと、」
「や、ゃ、ぁ、ぁ”〜〜……ぅ♡♡も、やぁ”♡♡ゃです、ぅ〜〜……♡♡」
腰を持ち上げられる。ごち、ごち、と重く打ち付けられて、泣き言が零れてしまう。奥を何度もこじ開けるようにかき混ぜられると、その度にぶわと下半身から快感が染み出て、暴力を受けているような快楽に為す術もなく揺すられることしか出来なかった。
いやいやとかぶりを振っていた頭を主様の肩に近づけて、がり、と噛みつく。
「もっとして、」と蕩けた声が聞こえて、与えられる暴力に耐えるように何度も何度も歯を立てる。
主様のちのあじがする、ぼろぼろと、壊れてしまった涙腺から涙が落ちていく。
アレだけ大丈夫とカッコつけていたものの、さっきもこれ以上無いと思うくらいに苦しかったのに。
こんなの耐えられない、壊れる、と真剣に思った。知らない快楽がただおそろしくて、でも、
……ぜんぶ壊されるのが堪らなくきもちよかった、
もうとっくに前からは何も出ない、揺さぶられる度にゆらゆら揺れるだけになってしまった。
1度中だけでイったからか癖になったように何度も絶頂する、どれだけ頂点に達しても終わらない快楽に頭が茹だっていく。
「〜〜〜、♡♡ぁ、は、また、ぁ”、♡♡く、ィく、ぅ、あ、ぁ、〜〜〜〜っ……♡♡」
「っは、きもちよさそ、ふ、……っ、」
「ぁ、あ、ぁ”〜〜ッッ♡♡ぁぐ、ふ……〜、♡♡」
「ふにゃふにゃ、っはは……らと、」
主様はがくがくと痙攣するラトの手を取って、もう片方の手で頭の後ろを支えたままゆっくりシーツに押し倒した。顔の両側に手をついて、じっとラトを見る。
ごり、となかを抉られたラトは一声鳴いてがくんと揺れる。また体制が元に戻ってしまいました…と真っ赤になってだくだく汗を流しながら思う。
こうやって少し休憩が与えられるのは有難いけれど。
未だ息の整わないままのラトは、ころんと転がされた後もなかを埋めたままのそれをお腹の上から撫でて、は、と熱い息を吐く。固くて熱いそれがずっとじくじくとうずいているのを感じる。
ゆるゆると撫でているとお腹の中でびく、と震えて少し大きくなるのを感じて、おや、と思う。
そのまま主様を見ると、痛みを堪えるような顔がゆっくりと近づいてきて柔くキスをされた。
伸びてきた手が顔を支えるように包んで耳を塞ぐ、そのまま舌を絡め取られてくちゅ、と唾液の混ざる音が頭の中で響いた。敏感な耳がじんと熱くなって身をよじる、口の中をとろとろと溶かす熱い舌が心地よくて「っん、」と小さく声が漏れた。
そのままとん、とん、と優しく律動が再開される。
さっきまでとは違う柔くなかをかき混ぜるような動きにじわじわと腰が熱くなる。
キスをしたまま動かれると息がしずらくて喉の奥に指を入れられたあれを思い出した。
中がずんと甘く疼いて重くなる。
暫くそうやって温い快楽に身を任せて、主様は満足したのかじゃれるように下唇を噛んだあと顔を少し離す。
「……は、ごめん、もう少しつきあって、」
ラトの耳をするりと撫でながら耳元で唸るように言葉を零した。
主様は元からゆったりした声をしているけれど、今は普段よりもずっと蕩けて重くて、甘い声で、それが耳元で響いてどき、とする。
そんな事を思っていると主様の手がゆるく曲げた足に伸びて、膝裏をつかまれる。そのまま持ち上げられて開かれると繋がったままの結合部がぐち、と粘着質な音を立ててさらに密着する。中でどくんと脈打つ音が響く。
「あ、あるじさま、」
妙にどきどきとしてしまって、何だろうと思いながら主様の首にしがみつく。
顔がぐっと近くなって更に心臓がどくどくと鳴る。
身じろぐとぎ、とベッドが軋む音がする、耳元で主様の少し荒くなった呼吸が聴こえる。
ゆる、と主様の指が動いて膝裏をくすぐられた。
それにびくりと反応すると主様は喉の奥から笑って
「……ラト、かわいい、」
甘いお菓子を全部詰めてぐちゃぐちゃにかき混ぜて溶かした声が耳元でして、頭の中がどろと溶けた。意思と反して顔が熱くなってぱちぱち、と瞬きをする。これは、知っているようで知らない感覚。
これは、
答えを出す前に主様はそのまま中からずる、とギリギリまで屹立を引き抜く。
突然背骨を全部引き抜かれるみたいにぞくぞくと背中に快感が走ってラトはしがみついた腕に力を込める。「ぁ、…〜〜ッッ♡」と甘い声を上げた。
ずっとみっちり埋められてじくじくと疼いていたそこは屹立を追いかけるように締め付けて、寂しいと言うようにうねる。
頭も体も混乱して、何も分からないまま気持ち良いことだけが鮮明になっていく。
まって、待って下さい、と声を出す前に
ーーごちゅ、と勢いよく中を抉られた。
「〜〜〜〜ッッ、?かひゅ、〜〜〜ッッぁ…♡♡」
目の前にハートマークと星がちかちか、と瞬いて弾けた。さっきまで散々甘やかされた最奥がちゅうと中のそれに吸い付いて、どばりと腰全体が蕩ける感覚がする。
主様は、は、と気持ち良さそうに息を吐いて、ラトの様子を伺うことなくそのまま間を開けずにどち、どちと最奥を抉って律動を続けた。
容赦のないそれに、あ、乱暴にされている、と思うと、背筋がぞくぞくっと震えた、今までに感じたことの無い感覚でまた頭が混乱する。
「〜〜ッッあぁ”、あ〜っ♡♡あぅ、ぁ”、♡♡」
「……っ、は、ラト、……らと」
主様はぼんやりした声でうわ言のように名前を呼んで、なかをぐちゃぐちゃとかき混ぜる。自分の快楽だけを追うその動きに翻弄されて、砕けた腰ががくがくと揺れる。
私のことが見えているのか、いないのか、主様の目がどろどろと蕩けていく。は、は、と聞いた事のない呼吸が聴こえる。
しらないことばかり。……熱に浮かされた頭ではほとんどなんにも考えられなかったけれど、苦しいことをされるのも、主様がこんなふうに必死になっているところも、今日が初めてなことはわかった。
少し怖くて、それよりもっと、気持ちよくて、主様のことがほんの少しでも知れた事が、
……うれしかった。
「ぁ、♡ぅ”ある、じさま、っ、…ーーさま、」
これを知っているのは私だけ、私にだけ教えてくれた大事な宝物、主様の、本当の名前。
主様の体がびく、と揺れて動きが止まる。
…それをいい事にそっと両手で主様の顔を包んで、そのまま自分の首筋に押し付けるように抱き締めて、髪をくしゃ、と掴んだ。
「……っかんで、噛んで良いです、……いたくして、ください」
海の中に人間を誘って惑わす、美しいセイレーンの声だった。
がん、と鈍器で殴られたような衝撃であって、頭の形ごと思考を奪われる、最上の幸福だった。
「……らと、」
その声に誘われるように、主様は首筋にキスを落として、ゆるゆると舐めると
……がり、と白くて甘い肌に、傷をつけた。
「っ、ぁ、……ぃ、た、」
じん、と首筋に痛みが走る。歯がくい込んで、傷口が炙られたように熱くなった、けれど、痛みよりずっと主様に痕をつけられた、という事実が頭の奥をじんわりと溶かして視界が揺れる。
欲望をぶつけられることが、こんなにも、
主様は歯を食い込ませたまま、またぐちゃぐちゃと腰を動かす。
「ぁ、あ、〜〜……っぁるじ、さま、ぁ、あ、ッッ、ん、は、ぁ……っ♡」
「……ぅ、……っ、」
「ぅ〜……♡♡ぃた、ぁ、〜〜〜ッッ♡♡は、ぅ、ぅ”、ぁ、っ♡♡き、もち、……ぃ……ッッ♡♡」
タガが外れたように何度も何度も噛まれて、首に歯がくい込んではじわと滲む傷口を舐められる。
痛みが拡がって、熱くなって、その間もどち、どち、とおなかの奥を重く突かれる。快感と痛みが混ざりあって心臓が痛いほど鳴った。
いたいのに、くるしいのに、きらいなはずなのに、与えるひとが主様というだけで……くせに、なってしまいそうだった。
だんだん中を抉る間隔が早くなって、主様の呼吸が浅くなる。その音を聞いて、どうしようもなく腰が甘く砕けた。ぎゅうと足を主様に巻き付けて髪をかき混ぜる。
「ぁ、あ、ぅ、ぁ〜〜ッッ♡♡ィく…………〜〜〜ッッ♡♡」
「〜〜、っは、っ、」
どちゅ、とひときわ奥まで中を突かれて背筋がかくんと丸まった。強く噛まれた肩がじくじく痛んで、おくにぐりと押し付けられる感触に堪らずかぶりを振る。強く掴まれた足まで、気持ちが良くて。
これは、頭が狂ってしまいますねぇ、と自傷気味に笑った。
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そのまま2人で落ち着くまで抱きついたままで、荒い息を沈めていた。ぽわ、と余韻で頭が浮く感覚がする。
けれど、ずっと肩口に顔を埋めたままの主様の顔が見たくて、そっとその顔を持ち上げた。
……わぁ、と声が出てしまいそうになった。
茹だって染った頬に大粒の汗が伝って、ぼうっとこちらを見る少し潤んだくらい目、真っ赤な舌が口元に滲んだ血を舐める姿がエロティックだった。
……それはもう、夢見心地の顔をしていた。
こきゅ、と喉を鳴らす音が聞こえて、はっと我に返る。自分の顔がどうなっているのやら、想像もつかなかったけれど、同じことを考えていたのかもしれない。
主様はじっとこちらを見て、赤い顔のままバツが悪そうに視線をさ迷わせた後、口を開いた。
「まじで、ごめん…………」
ラトは我慢出来ずにくふ、と息を漏らした。
そのままふふ、くふ、とツボに入ったようにくつくつと笑う。
「ぁあ、もう、笑うなよ……いやいっそ笑ってくれ……どうすんのこれ、取り返しつかないって〜……ぁ〜〜ラトを傷物に…ミヤジになんて言えば……」
「くふ、そんなことをいったら、私はもう既に傷物、です、ふ、くふ、」
「ラトの自虐ネタシャレにならんのだって」
はぁ〜……とため息をついて主様はのそ、と体を起こした。そのままこちらを向いて私の手も取り、ゆっくり起こしてくれる、やっぱり優しいですねと心の中で思う。
主様は枕元に置いてあったシャツを引っ掛けるように着て、そのポケットからたばこを取り出す。
そのままベッドサイドに座ってキンッとジッポの蓋を開けて火をつけると、すぅと煙を吸い込んだ。
ラトも今だに重くだるい体を動かして主様の隣に並んで座る。ぱさ、と肩にタオルケットがかけられてそういえば全裸のままでした、と思い出す。
ラトはゆるゆると上がる煙を観察しながらぽろ、と言葉を落とした。
「……だめ、でしたか」
「……?なにが」
「私が、主様を求めること、です」
主様はよく分からない、と言うようにぱちくりと瞬きをする。
「主様は優しい方です。だから私の嫌がることは絶対にしない……そうですよね」
「…うーん、しなかった、になっちゃったけどな」
「違います、主様はなにも悪くありません。……全部私が求めて望んだ事ですよ」
「でも、相手が俺じゃなければ、あんなことを求めさせずに済んだ、だろ」
……本当に、分かっていませんね。ラトは少しむっとした。キチンと伝えていたつもりであったから、まだ足りないのでしょうかと、そう思った。
「私は……主様、貴方だから許したんです。それとも、…私の努力を褒めては下さらないんですか?」
主様ははっとして、それからまた、あの不機嫌そうな……照れた顔をした。
ラトは嬉しくなってくふ、と笑う。
……主様の”かわいい”は、私の美しいものをぐちゃぐちゃに壊してしまいたくなる衝動と、よく似ているのだと思う。
その衝動は悪いもの、なんでしょうか
ーーー数秒間を開けて、主様は口を開く。
「らと、あいしてるよ」
ずるりと、暗く澱んだ土の上を這いずり回る悪夢の声だった。私の知っている愛している、とはどこか違う、質の悪いドラッグをキメた時の人工的な一瞬の快感と鮮やかな景色だった。けれど、それが酷く心地良くて、
「私も、愛していますよ」
主様は あは、と全てを押し殺した声で口角を上げた。サラサラと艶やかな黒髪が揺れて私を写した暗い目を隠す。そのまま口をふわ、と開けて重い煙を吐いた。
主様の吐いた煙が、じわりと体内を侵食する。
慣れなかった香りも今は無くては生きていけなくなってしまった、知らない全てで、この人が私をおかしくしていく。
ね、ラト、今日はこのまま一緒に寝ようか。そう言うと主様は、苦虫を噛み潰して味わうような、自罰的な顔で笑った。
そう、それがどうしようもなく”かわいく”て、
……愛おしかった。
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コメント
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すごく良かったです✨