試合が終わり、医務室で目覚めたルイサ。 結構時間が経っているのか、周りには誰もいなかった。
ガ―レットは来てくれるかとも、少し期待していたが…
「…結局、勝てなかったんだね」
自分の力不足を嘆くルイサ。
彼女はベッドから起き上がると、ゆっくりとした足取りで部屋から出ていく。
と、そこにリオンが立っていた。
ルイサは一瞬、ビクッとするがすぐに平静を取り戻す。
彼女は努めて冷静に話しかけた。
「なにしにきたの」
「勝負は俺の勝ちだった」
「わかってる」
「そうか」
会話が続かない。
お互い、何を話せばいいかわからないのだ。
だが、そんな空気に耐えられなくなったルイサは…
「じゃあ、私はもう行くね」
「ああ」
そう言って、その場から離れようとした。
だが、そこで足を止めた。
「待ってくれ」
「どうしたの?」
「…ルイサは『本心から』ガ―レットのことが好きなのか?」
その問いに対し、彼女は首を縦に振った。
リオンは、先ほどシルヴィが言っていたことが真実かどうかを確かめに来たのだ。
兄(リオン)の問いに対し、妹(ルイサ)は答えた
「うん」
「…そうか」
その答えを聞き、納得するリオン。
彼女が本心からそう思うなら、もう何も言わない。
リオンは決めた。
この大会が終わったらもうガ―レットたちとはもう関わらない様にしよう。
どうせ元々流れの身だ。
またどこか別の場所へ旅立つとしよう。
だが、その前に一つだけやっておかなければならないことがあった。
それは…
——————–
ガ―レットたちの待つ控室に戻ったルイサ。
そこには、自身の試合を終えたガ―レットとバッシュ。
一回戦で敗北したキョウナ。
そしてガ―レットたちの手伝いをするメリーランがいた。
彼らはルイサを見て驚いた表情を浮かべる。
「ルイサ、もう大丈夫?」
「ええ」
心配そうな表情で声をかけるメリーラン。
それに対して答えるルイサ。
その様子に安心したのか、ほっとした顔になる。
一方、同じく参加していた少女バッシュ、彼女だけは様子が違った。
まるで親の仇でも見るような目でルイサのことを睨んでいる。
そして…
「へ、負けてんじゃないか」
吐き捨てるように言うと、そのまま部屋を出ていってしまった。
それを見て、心配そうに彼女の後を追いかけるミドリ。
二人はそのまま何処かに消えていった。
「あいつら、どうかしたのか?」
「さぁ?知らないわよ」
不思議そうに尋ねるガ―レットだったが、ルイサは適当に誤魔化した。
まあ、どうでもいいことだし、そう思ったルイサ。
それからしばらくした後、大会運営委員の一人が部屋に入ってきた。
「次の試合は大体3時間後に行われますので、それまでに準備をお願いします」
「ああ、分かった」
ガ―レットが代表して返事をする。
どうやらまだ時間があるらしい。
控室にこもっていても時間を持て余すだけ。
ガ―レットたちは暇つぶしに他の参加者の試合を見に行くことにした。
結局、ガ―レットとルイサの二人で他の参加者の試合を見に行くことに。
闘技場へと向かう二人。
ちょうど試合が始まったようだ。
「へー、結構強そうなやつじゃん」
「アナタより?」
「まさか!」
観客席からそう言い放つガ―レット。
その男は、背が高く筋肉質な体格をしていた。
以前、ガ―レットと言い争いになったゴルドという男だ。
パフォーマンスで木刀を振るうたびに、風圧が客席にまで届くかと錯覚するほどに。
一方の対戦相手は…
「ん、あいつは確かリオンのヤツの…」
対戦相手はリオンの仲間の少女シルヴィだった。
試合開始直後、シルヴィが先に仕掛けた。
怒涛の連続攻撃。
だが、相手はそれを簡単に捌いてみせた。
「強いのか、アイツ?」
「わからないけど…」
戦いは終始ゴルドが優勢のまま進んでいった。
シルヴィの攻撃を悉く防ぎ、隙あらば反撃を加える。
ゴルドの実力は本物であった。
結局、そのまま押し切られた形で敗北するシルヴィ。
「くッ…」
悔しそうな顔でその場から去るシルヴィ。
その後も、次々と試合が消化されていく。
二回戦最後の試合は、ガ―レットの仲間の少女バッシュ。
相手は細身の男だ。
「そういえば、バッシュのヤツの試合は見てなかったな」
そう呟いた後、ガ―レットは試合を観戦し始める。
開始早々、バッシュが攻撃を仕掛ける。
しかし、その一撃はあっさりと受け止められてしまう。
さらにバッシュの攻撃は続く。
だが、その全てが男に受け流されてしまう。
しかし…
「つあッ!」
カウンターで対戦相手の男を投げ飛ばすバッシュ。
細身の体から繰り出されたとは思えないほどの威力。
これには、観客たちも沸き立った。
その後も攻勢は続き、勝負はバッシュに有利になり始めた。
「おお!やるじゃねえか!!」
隣ではしゃぐガ―レット。
まさかバッシュがここまでやるとは思っていなかった。
その勢いは止まらない。
最後は相手の男を弾き飛ばし、そのまま場外へと吹き飛ばした。
これにより、バッシュの勝利が決まる。
「おめでとう、バッシュ」
「ふんっ」
戻ってきたバッシュを出迎えるルイサだったが、そっぽを向いてしまった。
そんな様子を見て苦笑するルイサ。
と、その時…
「あ、ガ―レット!」
「お、キョウナか」
「えへへ。あなたのために料理作ってきたの。勝って欲しくて」
控室に入ってきたキョウナ。
どうやら彼女は一回戦で負けた後、料理を作っていたらしい。
ガ―レットはキョウナの手にあるバスケットを見る。
中にはパンと肉料理が入っていた。
「食べてくれる?」
キョウナは嬉しそうな顔でガ―レットにバスケットを手渡した。
他のみんなにもあるから、そう言ってガ―レット以外にも配り始める。
受け取るルイサ、頭を下げて礼を言うメリーラン。
しかしバッシュはそれを断った。
「悪いがあたしはいいよ」
「そう?試合後だしきつかった?」
「いや、牛肉が苦手なんだ。それ牛肉使ってるだろ?」
「あっ…」
言われてから気づいたのだろう。
彼女は申し訳なさそうに俯いてしまった。
「ごめんなさい。気が付かなかったわ…」
「いや、別にいい。水だけもらうよ」
そう言ってバッシュは水だけを貰いその場から去っていった。
残されたのはルイサとガ―レット、メリーラン。
そしてキョウナのみ。
「うん、おいしい」
「ほんと!?」
キョウナの作った料理を褒めるルイサたち。
キョウナも笑顔になる。
「よかったぁ~!」
「けど香辛料が多いわね」
「私も少し気になりましたね…」
ルイサの言葉に同意するメリーラン。
味はいいが香辛料、特に匂いの強いニンニクなどが多く使われていた。
そのため、食べる際に注意が必要だった。
「あ…ご、ごめんなさい。つい入れすぎちゃって」
こうして、ガ―レットたちは次の彼らの出番の試合まで時間を潰していった。
そしてついに、その時がやってきた。
次の相手はリオン。
戦うのはガ―レットだ。
「がんばって、ガ―レット!」
「おう!」
応援してくれるルイサの声援に応えるように返事をするガ―レット。
控室を出て闘技場へと向かう。
その途中、通路の途中で見覚えのある人物がいた。
以前、街で見かけたあの黒マントの男と同じような恰好。
彼は壁に寄りかかり、腕を組みながら目を閉じていた。
「ん?」
ガ―レットの視線に気づいたのか、男がこちらを見た。
目が合うガ―レットと男。
一瞬、緊張が走る。
だが…
「…」
男は興味がないといった様子で再び目を閉じる。
あの時の人物と同一人物というのは自分の勘違いか。
ガ―レットはそう考えた。
「よし、行くか」
闘技場の控室で待つこと数分。
いよいよガ―レットの番が来たようだ。
扉が開かれ、係員の指示に従って入場していく。
リオンと戦うために…
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