涼ちゃんにあの言葉を聞いてから、僕の世界は少しだけ色を変えた。
「若井は君をただの幼馴染として見てない」
その一言が、頭の中でぐるぐると響き続けていた。
翌朝。
教室に入ると、若井がいつも通りの笑顔で手を振ってきた。
「お、元貴! 今日ギター部、部室の鍵取っといてくれた?」
「え、あ、うん……」
慌てて答えながら、僕は涼ちゃんの言葉を思い出していた。
——若井は、君をただの幼馴染として見てるわけじゃない。
その瞬間、胸がざわつく。
「どうした? まだ寝てんのか?」
若井は笑って僕の肩を軽く叩いた。
その何気ない仕草にまで、僕の心は敏感に反応してしまう。
放課後、ギター部の練習。
若井が僕の指を取って弦の押さえ方を直してくれる。
前までなら当たり前に受け入れていた距離感なのに、
今日は息が詰まりそうになる。
「な? ここはちゃんと押さえねぇと音ビビるから」
「……わ、わかってる」
指先が触れただけで、妙に熱い。
顔をそらしても、耳の奥がじんじんしている。
若井は気づかずに笑う。
「ほんとお前、昔から不器用だよな」
その笑顔に、なぜか心臓が跳ねる。
帰り道。
並んで歩く足音はいつも通りなのに、僕は目を合わせられない。
「なあ、元貴」
「……なに」
「文化祭のとき、泣いてたお前見て思ったんだけどさ」
若井はふいに真剣な声を出した。
「俺がずっと一緒にいてやんなきゃなって、改めて思ったわ」
「……っ」
言葉が出なかった。
心臓がうるさすぎて、呼吸の仕方さえ忘れそうだった。
——若井の目。
涼ちゃんが言っていたとおりだ。僕を見つめるとき、どこか特別な光がある。
気づいてしまった。
もう、見ないふりなんてできない。
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