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第2話 「転生のち性転換」
前回のあらすじ
死んで女神に会って、転生することになった。
「ん……んあ?」
まぶたを貫通し日光が眼球を焼き上げる。いつものように帰路で臭う血と生ゴミが混ざった悪臭とはかけ離れた馥郁たる香りが、鼻の辺りにまとわりついて離れない。草木が生い茂り、木を登るリスや空を優雅に飛ぶ見たことの無い鳥が、久凪を迎えてくれた。
「ここが異世界…森に召喚されたのか?」
辺りを見渡し、その新鮮さに胸を踊らせる久凪。5メートルを軽く超えて見える巨木が何本も何本も広がっていて、その枝からは元の世界では見た事のない果物がいくつも成っている。
「何メートルあるんだ?それにしても、さすが異世界って感じだな。何もかもがデカイ…」
大きい。辺りで1番小さい木でさえ、久凪の身長を超えている。近くの池は澄み切っていて、泳ぐ魚がはっきり見える。
そもそも魚のか?この変なの…
池はあたりの景色を反射しており、転生した久凪の姿を鏡のように写している。
「……は?」
そこに映っていたのは、黒いモサモサの頭をした高身長のイケメンではなく、腰辺りまで伸びた雪のような白い髪に、氷のような蒼い瞳と健康そうなツヤのある肌をした、それはそれは可愛らしい……
「女の…子?」
久凪?は、カエルのように大きく目を見開き口を開けて驚愕している。なぜなら、転生した自分の姿が、狐の耳と尻尾を生やした14歳くらいの小さな女の子になっていたからだ。性転換ものの小説で見たことがあるが、自分とは無縁と思っていた。が、どうやら異世界ではこんなことも起こりえるらしい。
「こここここれ、ほんとに俺か?」
肌を撫で、確認する。うん、自分だ。
転生後の肉体が、まさか女の子だなんて……
可愛らしい幼女には似合わない仕草であぐらをかき、久凪は自分のスカートを強く握りしめた。ん?スカート?
慌てて跳ね起き、 自分の体をもう一度確認する。さっきは顔の衝撃で見ていなかった自分の服装を、右、左、もう一度右と、それはそれは入念に… 純白の布に包まれた幼女らしい細い体、服の裾は可愛らしいフリルが巻かれており、青いスカートを目立たせる。細い足を守るように薄いタイツが履かされてある。靴は子供っぽいが高級そうな黒い靴、貴族が履いてそうなやつだ。
あの女神の趣味か?
1発殴ってやりたい気持ちを押し殺し、まぁいいかとため息だけで我慢した。
「とりあえず歩いてみよう…このままじゃ餓死するしな。」
ふさふさの草を踏みながら進む。ふさふさという音に、土同士が擦れ合う音が辺りに響く。
景色は変わらず木、木、木。風に揺られる葉っぱ達が1つの音楽となって、静かな森をにぎやかしている。枝に乗ったリスたちは、風の音楽に乗るように追いかけっこをしてはしゃいでいる。すると突然、自然の宴を押し止めるようにして、茂みのカサカサ、っという音が不協和音となりリスたちの顔色を変えさせた。それは久凪も同様であり……
「ひゃあ!!」
と、女の子らしい可愛い腑抜けた声で久凪は腰を抜かした。地面に尻もちをつき、茂みに目を向ける。茂みの奥からは、自分の身長を容易に超える巨大な影がゆっくりこちらへ向かってくるのが見えた。
ま、まままずい!もし魔物だったら……
最悪を想像していた久凪の心とは裏腹に、茂みの奥にいる2つの影が日光に照らされその姿を現した。
「だから悪かったって…フォキシーを逃がしたのは俺の落ち度だが、そっちにだって……」
「レブロンが油断してたから逃がしたんですよ!?わかってるんですか!?」
け、喧嘩?
どうやら人間の夫婦のようだ。魔法使いのような大きい帽子とローブを身にまとった女性……なら、右手に持っている杖は魔法の杖だろう。
ガタイの大きいマッチョな男、背中には見た目にあった巨大な両刃斧をせよっている。最初に口を開いたのは、マッチョ男だった。2人の顔つきは、日本人ではなさそうだった。さすが異世界、どちらも見目好い容姿をしている。
「あ!ほらいたぞクソフォキシー!」
は?フォキシー?なんだそれ
知らない単語がでてきたが、クソをつけているならいいものではないのだろうと久凪は異世界転生以来初めてムカつきを覚えた。
「へっへっ……もう逃がさねーぞぉ?」
両刃斧をこちらに向け、歯を見せニヤついている。それが初対面の少女を見た顔か?1発殴ってやりたい気持ちを、今回は男の隣にいた女性がその代役をしてくれた。マッチョ男の頭を強く叩いた。
「バカ!どう見ても孤族の女の子でしょ!」
孤族?またもや出てきた知らない単語に戸惑いつつも、まともな人間がいることに安堵し、胸を撫で下ろした。少し痛かったのだろう。頭を抑えたマッチョ男を無視し、女性がこちらに駆け寄ってくる。
「ごめんなさい…レブロンはデリカシーがなくて、許してあげてください……ほら!レブロンも頭下げて!」
あの男はレブロンと言うらしい。浅く頭を下げて謝意を示す2人。うん…悪くない。
「いいんです。それより、あなた達は?」
「あぁ…そうですよね…ゔうん!」
女性は咳払いをして、先程の険しい顔とは正反対の笑みを浮かべた。
「私はマーシャ・ネクロ、見ての通り魔法使いです。よろしくお願いします。」
「俺はレブロン!レブロン・ネルバーだ!よろしくな嬢ちゃん!」
レブロンが握手を求めている。ただ、今の久凪の身長は、せいぜい140程度…客観的に見れば、巨男がか弱い少女を誘拐しようとしているように見える。
「え、ああ…あの…」
やばい…長年人と話してこなかったから口が回らない……
人間とのコミュニケーション能力がおそ松なのは、転生前から変わらないらしい。
「あぁ…すまねぇなwそんで、嬢ちゃんの名前は?」
「久凪ない…」
待て、俺は今可愛い乙女なんだ。その乙女の名前が騎士じゃあダメだ。いつだって女の子は、騎士に守られる存在なんだ。
何かいい名前はないか…可愛い女の子にふさわしい名前…そう考えて最初に思い浮かんだのは……
「奏です!久凪奏…」
たった一人の妹…”久凪奏”の名前だった。
「ヒサナギカナデ?苗字はなんてんだ?」
「苗字は久凪です。」
「あぁ!カナデ・ヒサナギか!」
なんか初対面の男に改名されたんだが……
「カナデちゃん…もしかして一人です?」
どうやら、この2人の目には久凪のことが…奏のことが迷子の子どもに見えているらしい…
「まぁ…一応…」
「なら、一緒に来るといいです!私たち、今から王都へ向かうつもりでしたので。」
王都…このまま路頭に迷うより断然いいだろう。だが、ほんとにこいつらで大丈夫なのか?
そう考えた奏は、渋々この2人…レブロンとマーシャについて行き、王都へ向かうことにした…
第2話、これにて終了です。マーシャとレブロン…これから奏にどんな世界を見せてくれるのか楽しみですね。
次回第3話、「冒険者の街」