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「……ねぇ、」と、手持ち無沙汰に声をかける。
仮にも接客業なんだし、ホストなら普通はそっちの方から話題を探して振ってくるものだと思うのだけれど、銀河はシートに深くもたれてずっと押し黙ったままでいた。
「……うん? 何だよ?」
「……どうして、なんにも喋らないのよ?」
「おまえがあんまり話したそうでもないからな」
離れている座席の空間分だけ、なんだか彼の方から距離を置かれたような気もして、
「……。……だけど、普通はホストって、自分から話しかけてくるものなんじゃないの?」
どうしてだか、ふと寂しくなってくる。
「普通って、どこの普通なんだよ? 俺は、俺のやり方でやるだけだからな。普通なんて、初めからねぇよ」
「……えっ、でも……、」
銀河のようなホストって、お客にはもっとリップサービスをするものだとばかり思ってたのに……。
この人って、チャラいばっかりなのかと思えば、さりげなく握手を求めたり、こんな風に突き放してみたりとか……。
なんだか銀河の本性が、まるでわからなくなる。
「……。だいたいどうして、そっちはいつもサングラスしてるのよ?」
彼のことがちょっと知りたくなって、ずっと気になっていたことを思い切って尋ねてみた。
「ああ、これ?」と、銀河がサングラスのテンプルに手をかける。
そのまま外すのかと少しばかり期待をしたのに、彼は指先でブリッジをついと押し上げて、また掛け直しただけだった。
「俺がサングラスを取ると、みんなに惚れられちゃうからな」
……聞かなきゃよかったと思う。
「はぁ──……」と、大げさにため息をつく私に、
「ハハ……、嘘だよ」と、銀河が声を上げて笑う。
「サングラスは店に行ったらはずすから、その時に理由は教えてやるよ」
相変わらずの軽そうな笑い顔で言って、
「それと、俺も”そっち”とかじゃなくて、銀河だから…な、理沙?」
そう付け加える銀河の濃いサングラスの奥の目が、なぜだかひどく優しく見えたようにも感じて、胸が一瞬トクンと跳ね上がるのを覚えた。