テラーノベル
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春の朝。
少し冷たい風が吹く中、いるまは一人で歩いていた。
「……ねむ」
小さく欠伸をする。
いつも通りの朝。
何も変わらないはずだったのに――
「いるまくーん!」
その声で、全部崩れる。
振り返ると、こさめが走ってくる。
息を切らしながらも、嬉しそうに笑っていた。
「一緒に行こ!」
「……朝から元気だな」
「だって、いるまくんと登校できるもん!」
そう言って、当たり前みたいに腕に抱きつく。
ぴったりとくっつく距離。
「おい、近い」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
離れる気はないらしい。
むしろ、少しだけ強くしがみつく。
(やっと、2人きり)
そんな小さな願いは――
「はい、そこまで」
あっさり壊される。
「……あ」
腕が、外される。
「いるまちゃん、行こ」
すちが自然に隣に入り込む。
高い身長でこさめの視界を遮るように立つ。
「……邪魔しないでよ、すちくん」
こさめの笑顔が、少しだけ歪む。
「邪魔?俺が?」
すちは笑う。
けど、その目は冷たい。
「だって、こさめが先に――」
「関係ないでしょ」
一歩、近づく。
「俺のだから」
――空気が止まる。
「……は?」
こさめの声が、低くなる。
さっきまでの甘さが消える。
「今、なんて言ったの?」
「聞こえなかった?」
すちは肩をすくめる。
「いるまちゃんは、俺の」
軽く言っているのに、重い。
絡みつくような独占。
「……ふざけないで」
こさめの手が、わずかに震える。
「勝手に決めないでよ」
視線が鋭くなる。
「こさめだって――」
一瞬、言葉を飲み込む。
でも、もう止まれない。
「……好きなんだけど」
静かに、落とす。
その一言で。
空気が完全に凍る。
「へぇ」
すちは一瞬だけ目を細めた。
驚きはない。
ただ、確認しただけ。
「やっぱりね」
「……なにその余裕」
こさめの声に、苛立ちが滲む。
「余裕じゃないよ」
すちは笑う。
「確信してるだけ」
「は?」
「最後に選ばれるの、俺だから」
その瞬間。
何かが、切れる。
「……ふざけんなよ」
声が変わる。
“こさめ”じゃない。
「俺の前でそれ言う?」
空気が一気に重くなる。
圧が違う。
「別に?」
すちは一歩も引かない。
「俺も同じこと思ってるし」
「……」
「いるまちゃんは、俺の」
「だから、俺のだって言ってんだろ」
視線がぶつかる。
完全に、敵。
――その横で。
「……お前ら、何してんの?」
いるまの一言。
全部、止まる。
「朝からうるせぇんだけど」
「……」
「……」
2人とも、何も言えなくなる。
この空気の原因が、目の前にいるのに。
当の本人は、何も分かっていない。
⸻
教室。
「お、いるまじゃん」
らんが手を上げる。
「今年も一緒とか運命すぎだろ」
「は?きも」
「相変わらず冷てぇな〜」
その横で、なつが自然に肩をぶつける。
「まぁでも、いるまと一緒のが楽だわ」
「だな」
軽く返すいるま。
距離が、近い。
それを見た瞬間。
「……」
「……」
すちとこさめの視線が揃う。
空気が変わる。
「ひまちゃんさ、距離近くない?」
すちが笑いながら言う。
「そうか?」
なつは気にしていない。
「いつもこんなもんだろ」
「ふーん」
(無自覚かよ)
すちの中で、静かに黒い感情が広がる。
こさめも同じ。
(なつくん……邪魔)
胸の奥が、じわっと濁る。
⸻
「ねぇ、いるまくん」
こさめが袖を引く。
「今日、放課後あいてる?」
「んー、まぁ」
「じゃあ――」
「俺も行くけど」
即答。
すち。
「……また?」
「何回も言わせないでよ」
「こさめ、2人で行きたいの」
笑顔のまま、目だけ冷たい。
「俺は3人がいいな」
すちも同じ。
一歩も引かない。
「……めんど」
いるまが呟く。
「じゃあ来たい奴、全員来ればいいだろ」
その一言で。
「じゃあ俺も行くわ」
らんが笑う。
「俺も」
なつが続く。
「……俺もいい?」
みこちゃんが静かに言う。
空気が、また変わる。
「なんで、みこちゃんが?」
すちが低く聞く。
「相談、したいことあってさ」
穏やかな声。
でも。
その言葉に。
(相談?なんで?)
こさめの中がざわつく。
「別にいいんじゃね?」
いるまがあっさり言う。
その瞬間。
胸の奥が、ぐちゃっと歪む。
(こさめは?)
(こさめは、特別じゃないの?)
⸻
放課後。
オレンジに染まる教室。
笑い声の中で。
2人だけ、笑っていなかった。
(絶対、渡さない)
(こいつだけには)
同じ想い。
同じ独占欲。
同じ“俺の”。
なのに。
――選ぶのは、いるま。
そして。
そのいるまは、まだ何も知らない。
コメント
1件
無自覚モテモテ男子らぶい🫶💕︎︎ まじで書くの上手くて尊敬だー‼️