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第1章 交換日記の始まり
放課後の教室。
窓から差し込む夕陽が、机の上に長い影を落としていた。帰り支度をしていた私の前に、突然ノートが差し出される。
「……これ」
差し出してきたのは吉沢亮くん。クラスの女子たちがこぞって見つめる存在で、でも本人はそんなこと気にも留めない。無口で、冷たく見えるくらいクールな人。
「え? なに?」
恐る恐るノートを受け取ると、表紙には小さなシールが一枚だけ貼られていて、妙に目立っていた。
「開けてみろ」
促されてめくった最初のページ。大きな字でこう書かれていた。
『今日から交換日記しようぜ』
「……は?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「なんで私と?」
「……たまたま」
そっけなく答える亮くんの横顔。窓の外を眺めていて、こっちを見ようともしない。
だけど
その口元がほんの少しだけ、笑ったように見えた気がした。
ページをめくると、さらに数行。
『ウソでも本音でもいい。書きたいことを書け。どうせ誰にも見せないから』
(……ウソでもいい?)
その一文に、胸がざわつく。
「……意味わかんないんだけど」
思わず言うと、彼は少しだけ肩をすくめて返す。
「じゃあやめるか?」
「……やめない」
気づけば、そう答えていた。
私はペンを取り、震える手で一行目を書き込む。
『ホントはこういうの苦手だけど……よろしくお願いします』
書き終えて顔を上げると、亮くんがじっと私を見ていて。
その真剣な視線に、心臓が跳ねた。
「……ちゃんと書いたな」
「う、うん」
「じゃあ読む」
ノートをひょいと奪うようにしてカバンへ入れると、彼は何事もなかったかのように立ち去った。
取り残された私は、胸の奥がざわざわして仕方がない。
翌日。休み時間。
「ねえねえ、昨日なんで吉沢くんと一緒にいたの?」
友達の美咲が、にやにやしながら机に身を乗り出してきた。
「べ、別に! なんにもないってば」
「うそ〜!あの吉沢亮が、わざわざ〇〇に声かけるとかありえなくない?」
顔が熱くなる。思い出すのは、昨日のノート。
まさか日記を始めたなんて、言えるはずがない。
そんな私の視線の先で、亮くんが教室に入ってきた。
女子たちの視線が一斉に集まるのに、本人は知らん顔で席に 周りの視線が一気に刺さる。
「なになに〜?交換日記?」「え、やばくない?」とひそひそ声が聞こえてくる。
顔から火が出そうになりながらノートを開くと、昨日のページの下に文字が追加されていた。
『昨日はちゃんと書いてて、意外だったな』
『まじめすぎて笑った』
(……意外ってなにそれ!)
心の中で叫びながらも、口元が緩む。
そして最後の一行。
『まあ……悪くない』
胸がドクンと高鳴った。
「ウソでもいい」と言ったはずなのに、この一言だけは――ウソじゃないような気がした。