「元貴、ちょっと相談なんだけど」
「あ、ついに?自覚した感じ?」
放課後の屋上で元貴は嬉しそうにそう言って先生のことでしょ?と付け加えた。
「まだなんにも言ってないけど」
「若井は昔から面倒見いいし、可愛いものが好きだから。それに寂しがりやなとこもあるから懐かれると弱いよねぇ」
「···相談するのやめるわ」
「そんなこと言っていいの?先生が好きで困ってどうしたらいいかなって思ってるのに?」
ぐうの音も出ないというのはこのことかもしれない。
なんでお見通しなんだよ、と思いながらも今は元貴しか相談する相手がいないわけで、素直に認めることにする。
「···このままだとただの先生と生徒で終わる気がする」
「そうだねぇ、とりあえずあぁいうタイプは押しに弱いと思うから、迫っておけばいいと思う、好意に弱い」
「押す、ねぇ···」
「あと男だからどうとか思ってるかもしれないけどたぶんそこも大丈夫」
「元貴のその自信はどこからくるのよ」
自信ありの表情に思わず笑ってしまった、元貴が鋭いところがあるとはいえどこからそんな自信が湧いてくるんだろう。
「わかるもんなのよ、俺もそうだから。たぶんね」
「そうって?」
「男が好き」
「···は、えっ?」
「お前はわかんないけど、俺はきっと昔から。今は、風磨くんに絶賛片思い中」
確かに元貴から誰かと付き合っているとかいう話は今まで聞いたことがなかった。っていうか風磨くんって···。
「まさかめちゃくちゃチャラい元貴の大学生家庭教師?!」
「そう、そのまさか。ごめん、黙ってて。やっぱりこういうこと言うのは気が引けて」
「いや···、今までなんにも知らなくて···嫌なこととか無意識に言ってたら、ごめん」
俺のために言わせてしまったみたいで申し訳なくなる、何にも知らないでこんな風に相談までして。
「若井はやっぱり良いやつだよ。だからこそ、もっと愛されて大切にされるべきだ」
元貴は俺がずっと一人だったのをしているから。きっと、心配してくれていたんだろうってわかって少し泣きそうになった。
「とにかく先生に迫って距離縮めて意識させちゃえ、そしたらきっと上手くいく」
「···ありがとう、元貴も上手くいくといいな」
「まぁね、お互いね」
元貴のおかげで少し前向きになれた。
とりあえず先生もっと仲良くなりたい、もっと知りたい···そう思って俺は家に帰った。
「ただいまぁ、あ、今日カレー?」
「そ、手作りの」
とりあえず胃袋を掴む、というのが効果的かどうかわからないけど嫌な気にはならないだろうと夜ご飯を作る。
「結局仕事が遅くて家事とかさせちゃってごめん···」
「いいよ、元々してたし。それに食費とかほとんど先生が出してくれてるじゃん、外食とかも」
「そんなの当たり前だよ···こんなに美味しいご飯作ってくれてるのに」
もちろんいつも作れるわけじゃないからデリバリーも利用するし、お惣菜も買う、だからそこまで大変じゃなかった。
それより先生が喜んでくれるのが嬉しくてなんか褒められるのっていいなって思えたし。
「先生、宿題教えてほしいところあるんだけど」
「珍しいね、もちろんいいよ」
お風呂上がりテレビを見てた先生に声を掛けるとすぐに隣に座って教えてくれる。
本当はわかるけど、少しだけ残しておいた問題を先生は丁寧に教えてくれる。 そういうところが、好きだと思った。
「ありがとう、わかった」
「ううん···他には大丈夫?質問とか」
「先生、恋人はいないの?」
「そういう質問?!どうしたの急に···いないよ」
びっくりしたぁ、と言いながら先生はペンを片付けている。
その返事に少しほっとした。
「別に···気になったから」
「んー、ふふ、若井くんもそんなことが気になるんだねぇ」
気になるよ、そりゃ。
それに『も』ってなに?
「他にも聞かれるの?」
「まぁねぇ、若い子はそういう好きだもんね」
若い子って先生のことが気になってる女子たちのこと?そんな恋バナ好きなのと一緒にしないでほしい。
だって俺は本当に先生のことが好きなのに。
先生はじゃあお先に寝るねって部屋に戻っていった。
俺は急いで宿題を片付けて布団を持って先生の部屋のドアを開ける。
「今日もここで寝る!」
「え、あ、どうぞ···?」
びっくりしている先生を無視して隣に布団をひいて毛布をかぶった。
もっと動揺してよ、俺のこと意識して。
コメント
7件
最初の若井からしたら想像もできない発言…
寝落ちして反応遅れた!うーん、若井さんは好意を自覚してるけど、藤澤さんは全く意識すらしてなくて、完全なすれ違い模様が継続中⋯⋯。物理的な距離が近いと、精神的な距離はいつでも近くにいるって安心しきって、却って縮まらない感じかな?
制作お疲れ様です!! もう若井くんが恋する乙女(?)すぎてかわいすぎてむりーー!!! ゆっくりでいいので続き楽しみにしています!!