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「了解…っと」
響から、今日は帰宅が遅くなる…とメッセージが来た。
それなら…ということで、さっき電話で話した真莉ちゃんに再び連絡してみる。
「あー。いーよー」
と返事が来て、真莉ちゃんとご飯に行くことになったと響に伝えようか迷って…やめた。
遅くなるって言ってたし、ご飯いらないし。
問題なしと判断して、着ていたTシャツにイージーパンツ、マウンテンパーカーという軽装でマンションを出た。
…………………
「真莉ちゃん、武者小路グループに属して、響の手下になっちゃうんだね…」
「なにそれどーゆー妄想?」
真莉ちゃんが入社予定なのは、武者小路グループ1位の総合商社。
「そういえば真莉ちゃんのお父さんって有名な料理人なんだよね?いくつもレストラン経営してるんじゃなかった?」
「は?かんけーないし」
確かに関係ないけど、就職の話をしてたから思い出しただけで。
「いや…お父さんの会社、継がないのかなぁ…って思って…」
そのへんはすべて母からの情報だ。
レストラン経営がうまくいって、その味の良さも相まって急成長して、今では料理人を育てる専門学校まで運営するようになったとか。
「…継がない。なに琴音…今さらそんなことに興味が湧いてきたの?」
眉間にシワを寄せて嫌そうに言う真莉ちゃん。
「別にそうじゃないけど、せっかくお父さんの仕事上手くいってるのに…ってさ」
ふん…と鼻を鳴らして、真莉ちゃんは不機嫌を隠そうとしない。
「琴音は俺が社長の息子とか気にしないから友達付き合いしてきたのに。そういうこと言うようになったんなら、他の女と一緒だな?」
「…別に気にしてないよ?でも…うちの弟だってお父さんの会社が続いてたら跡を継ぎたいって言ってたから、男の子はそう思うものなのかな…思っただけじゃん?!」
…お父さんの話になると、いまだに感情的になる真莉ちゃん…
でも、中1で近所に引っ越して、見てきたから何となくわかる。
真莉ちゃんちは、両親とも仕事をしていて、いつも大きな家に妹と2人だった。
だから、台風のときとか怖くないか心配で、訪ねたこともあったなぁ。
両親の話になるとわりと機嫌を悪くするところを見ると、寂しかった子供の頃を思い出して、辛くなるからかもしれない。
2人で無言で少しお酒を煽りあって…「ごめん…」と言ったのは、ほぼ同時だった。
…………Side 真莉
つい、感情的になってしまったことを反省した。
相手が琴音だと、本当に何も隠さずに、すべての感情がモロに出るから、たまに自分でも困る。
特に…両親の話は鬼門だって、琴音ならどこかで理解してくれているなんて甘えまで持ってた。
でも琴音は、変にへりくだったり機嫌を取るようなことはしないから気が楽だ。
黙ってテーブルに向かい合ってても、気まずくない。
人嫌い…というか苦手な俺が、こんなに感情を出せる、琴音は唯一の友達だ。
ただ…
今日俺がこんなに感情をダダ漏れにしたのは、実はもう1つ怒りを隠していたからだった。
それを知らずに、琴音はおずおず話し出す。
「…実はこの前さ、1個下のバイトくんに、告白された上にキスまでされて焦って…」
…なんだと?なんの話だ…?
そう思った時には口にしていた。
「そんな話する前にさ…」
俺は目の前の琴音から視線をはずし、頬杖をついた顔を横に向けて言った。
「今日の服、ちゃんと確認してきた?黒ブラが透けてるんだけど?」
白Tだからかもしれないが、ちょっと危機感なさすぎないか?
俺だから、どんな格好でも許されると思った?
「…響さんにどやされるぞ?」
改めて向き直ると、真っ赤になった琴音と視線がぶつかる。
「…ご、ごめん」
片手で胸元を隠しながら、バッグの中にしまったマウンテンパーカーを取り出している。
なんか…見てはいけないものを見てしまった気になるのはなんでだ?
顔が…熱い気がする。
頬杖をついた手のひらが、なるべく頬を隠すようにして…俺は視線を下に向けた。
コメント
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琴音ちゃんと真莉ちゃんっていい関係だよね〜羨ましいくらい❗️ 琴音ちゃんはちょっと置いといてゴメン😅真莉ちゃんはほんとになーんとも思ってないのかな⁉️ 透けてる下着を見て、気付かなかった、気付かないようにしていた気持ちが出てきちゃったりした?