宵の雨、紙燈りうすくにじみて、
来ぬ人を待つほどに、簪も冷ゆ。
わが胸ばかり、あたたかし。
手文一葉、薄香のこりて、
読み返すたび、文字の端より頬の紅さす。
会はずとも、恋は燃ゆる。
つれなき君よ、笑みひとつ惜しまずば、
この袖の露も乾かまし。
月は高く、心は低く。
朝霧の橋、わたる足取りたしかならず、
名を呼べば、霧のみ応ふ。
それでも君へ、と口の内。
簾おろして、昼のさびしさ隠すとも、
風は知る、わが熱を。
指さきに、君の名の癖。
市の喧しさに紛れ、袖触れ合へば、
世界いっそ静まりぬ。
小さき奇跡を、人は恋と呼ぶ。
帰り路の影ふたつ、長くのびて、
重なりてまた離るる。
これぞ契りの稽古か。
秋の灯、畳の目まで冴えわたり、
言へぬ言葉だけが増えてゆく。
「好き」と書けば、筆が震ゆ。
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すき