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#首輪
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「ま、でもそのうち“伝説のNG集”とかやったら面白そうじゃね? 草薙君の意外なNGシーンとか貴重なの結構あるっしょ」
「マジですか! それ、ファンにとっては絶対見たいヤツ! 俺、編集頑張っちゃいますよ!」
「いやいや、銀次君。頑張るとこそこじゃないから。まぁ、どうしてもやりたいって言うならそれでもいいけど? どうせこれからNG増えるのはキミだろうし?」
「っ、何気にプレッシャーかけんでくださいってば!」
「お前ら、何を遊んでるんだ? ――早くマスクを被って準備したらどうなんだ」
低く鋭い声が割り込んだ瞬間、場の空気がピンと張り詰めた。
さっきまで笑い声に包まれていたスタジオが、まるで氷点下に落とされたように一気に凍りつく。
ひゃっと全員の肩が揃って竦む。
黒いボディスーツに身を包み、小脇に黒いマスクを抱えた凛の姿は圧倒的な威圧感を放っていた。
ただ立っているだけなのに、まるで画面から飛び出した怪人か何かのようで、先ほどまでポテチ片手に爆笑していた銀次ですら、思わず背筋を丸めて椅子に縮こまる。
「っ、ひょえー、怖いっ。り、凜さんっお疲れ様です! すみません、俺がみんなを引き留めたばっかりに!」
わたわたと謝る銀次の横で、蓮が慌てて取りなすように声を上げた。
「ぎ、銀次君は悪くないんだ。 だから、そんなに怒らないでよ兄さん」
しかし、凛は何も答えない。ただ薄く目を細め、無言でその場の空気を制圧していた。
「ほ、ほら蓮君! 準備しよう」
「あ、あぁ。 わかってる。じゃぁ、行ってくるよ。兄さん、あまり彼を虐めないでやってよ?」
マスクを被り、蜘蛛の子を散らしたようにそれぞれの持ち場へと駆け出していく3人の背中を、凛はしばし黙って見送る。
やがて、その大きな体から長い溜息がひとつ零れた。
「……全く。騒がしい奴らだ」
吐き捨てるような声だったが、どこか呆れ混じりの優しさが滲んでいた。
黒いマスクを抱えなおし、撮影が再開された現場をしばらく黙って見つめていた凛は、ふと隣に立つ銀次へ低く声を落とした。
「……どうだ。現場は……少しは雰囲気を掴めそうか?」
突然の問いかけに銀次はビクリと肩を跳ねさせ、慌てて背筋を伸ばす。
「へっ? あ、あぁハイ……! 出来る限り頑張りたいと思います。けど、凛さん……本当に俺でよかったんっすか? 幻のブラックなんて結構すごい役じゃないですか。俺てっきり、通行人Aくらいだと思ってたのに……」
声が尻すぼみになっていく。自分の場違い感に押し潰されそうで、思わずモニターを見つめながら苦笑いを浮かべた。
凛は黙って聞いていたが、やがて腕を組み直し、短く問う。
「……自信がないのか?」
その声音は責めるでもなく、ただ事実を確認するような響きだった。
「そ、そりゃまぁ……。だって俺、ただの配信者っすよ? そりゃテレビで見る皆さんの姿を年甲斐もなくずっと追いかけてましたけど。正直まだ、実感がわかないというか……」
しどろもどろに言葉を重ねる銀次に、凛は小さく鼻を鳴らした。
「フッ……それでいい」
「……え?」
「上手くやろうなんて思わなくていい。お前は顔が知れている。視聴者が“えっ!? ブラックって銀次君なの!?”と注目してくれさえすれば、それで十分だ」
「……あぁ、なるほど。俺に客寄せパンダになれって言いたいんですね?」
気恥ずかしさをごまかすように軽口を叩く銀次に、凛は視線を外さず淡々と告げた。
「そういうことだ。だが……」
わずかに間を置き、低い声が続く。
「俺は、お前の動画を全部見た。作品一つ一つに対する考察、キャラへの目線……。どれもリスペクトがあった。くだらない遊びに見えても、その根底に愛があるのは伝わってきた」
「っ……!」
思いもよらぬ言葉に銀次は言葉を失った。まさかこの寡黙な男が、そんな細部まで自分の動画を見ているとは想像もしていなかったからだ。
凛は少しだけ目を細め、ほんの僅かに口角を上げた。
「……俺の弟に負けないくらい、作品愛はあると見込んでる」
「え、い、今さらっと弟さん基準出しましたよね!? ハードル高すぎません!?」
「さぁな」
短くかわすと、再び現場に視線を戻してしまう。その横顔に、銀次はただ呆気に取られるしかなかった。
――不器用すぎるだろ、この人。
けれど、胸の奥にじんわりと熱が広がっていくのを銀次ははっきりと感じていた。