テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
224
48
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ねぇ、蓮さーん。ナギ君一体どうしたの? なんか最近変なんじゃない? 何か悪い物でも食べたのかな?」
美月が不思議そうな顔をして近付いてくる。
どうやらナギから朝っぱらからやたらと熱烈な励ましを受けたらしく、困惑しきった様子で助けを求めてきて蓮は思わず苦笑を浮かべた。
「あぁ、気にしないで。……この間、すっごく嫌な女に会ったんだってさ。それで逆にやる気に火が付いたみたいなんだ」
「嫌な女?」
「そう。性格の悪さが、無茶苦茶顔に出てる……」
「えー、何よそれ」
「一般人の方でしょうか?」
近くにいた弓弦も不思議そうに首を傾げる。
蓮は一瞬、答えに迷った。あまり詳しく説明し過ぎれば、ナギと二人でこっそりホテルを抜け出したことまでバレかねない。それだけは流石にまずい。
「んー……どうだろうね? でもまぁ、ウチのリーダーがやる気を出してくれたんだし、僕らも残りのロケを頑張らないと」
軽く笑って話をそらすと、弓弦が真面目に頷く。
「確かにそうですね。今日を乗り切れば、予定通り明日には戻れそうですし」
よかった。どうやら疑われてはいないようだ。
撮影スケジュールは今のところ順調だ。後は天候さえ崩れなければ問題ない。
「そういや今日は、昼飯はロケ弁じゃなくて棗さんと美月の料理対決だろ? サクサクっと午前中の撮影終わらせようぜ? 飯抜きだけは勘弁だしな」
東海が意気揚々と言うと、蓮が頷いた。
「あぁ、前に話してたキャラ弁対決だよね?」
「えっ!? そうなの!?」
ナギが驚いた声を上げ、皆の視線が一斉に彼に集まる。
「小鳥遊さん。ちゃんと毎日スケジュール表を確認してくださいって、何度も言ってるじゃないですか」
呆れたように弓弦がツッコむと、ナギは「へへっ」と苦笑して誤魔化した。
「まったく……しっかりしてくださいよ、リーダー」
「ごめんって。でも大丈夫。今日は俺、なんだかノーミスでやれそうな気がするんだ」
胸を張るナギを、弓弦が疑わしいとばかりにじっと目を細める。
「……なんだか今日は随分ご機嫌ですね。何か、あったんですか?」
「なっ、何も! 何もないよっ!」
視線を外せない弓弦の眼差しに、ナギはたちまちアワアワと慌てだし、ついには助けを求めるように蓮の方へ視線を投げてきた。
その必死な様子に、蓮は思わず吹き出しそうになるのを堪える。
――本当に、隠し事が下手な奴だ。
そんなやり取りを微笑ましく見守っていたその時、ふと強い視線を感じて蓮は振り返った。
そこには、雪之丞がじっとこちらを見ていた。目が合った瞬間、彼はぎこちなく視線を逸らしてしまう。
――もしかして……何か気付いたのか?
胸の奥に不安が過る。しかし問い質そうとしたその刹那、マスクを被ってしまった雪之丞の顔は表情を読み取れなくなっていた。
雪之丞がぎこちなく視線を逸らしてしまい、蓮は問い質すタイミングを逃してしまった。
「みなさーん。撮影再開しますよーって、あれ? どうかしたんです?」
モニターの前で銀次がマイク越しに呼びかけてくる。おどけた調子の声に、一瞬張りつめかけていた空気がほどける。
「……いや、別に。何でもないよ」
蓮が軽く取り繕うと、銀次は「ふーん?」とわざとらしく首を傾げながらポテチを齧った。
その気楽さに救われる部分もあれば、逆に余計な勘繰りをされそうで少し冷や汗が滲む。
完全にタイミングを失ったまま、真相を確かめることはできず、結局そのままスタートの合図が響き、現場は再び慌ただしく動き出した――。
――その日の午前中は驚くほど順調に撮影が進み、予定より早く休憩時間が取れることになった。
ホテルの一角に組み立てられた簡易式のミニキッチン。そこを舞台に、美月と雪之丞の料理勝負の幕が上がる。
「――さぁ! 視聴者の皆さんお待ちかね、本日の特別企画!
《美月 vs 雪之丞☆料理対決》スタートです!」
派手に声を張り上げたのは銀次だ。普段からにぎやかな彼だが、司会進行役を任され、更にテンションが高い。マイク代わりの木べらを振りかざし、場を盛り上げる。
「なんだか緊張するな」
軽やかに包丁を動かす雪之丞の横で、美月は料理本片手に四苦八苦。
蓮、弓弦、東海の三人はその様子を遠巻きに見守っていた。
「……あのさ」
カメラを回していたナギが急に足を止め、怪訝そうに首をかしげる。
「ゆきりん顔出しNGなのはわかるけど……マスクしたまま料理って、手元が見えないんじゃない? 絵面的には普段着にマスクって中々シュールで面白いんだけど……包丁で手とか切らないかちょっと心配だよ」
「む……」
雪之丞はしばらく考え込み、渋々といった表情でマスクに手をかける。
「……分かった。編集で誤魔化してくれるなら」
「もちろん! そこは俺に任せてください!」
すかさず銀次が胸を張る。
「映像はきっちり加工するから。大丈夫、バッチリ編集で上手くやります!」
「へぇー。雪之丞は外すんだ?」
ちらりと横にいる東海へと視線を移せば、ピンクのマスクの下から「うぅっ」とくぐもったうめき声が聞こえた。
「な、なんだよっ! 俺は絶対やだからな! 顔出しなんて!」
「そんなに拒絶することなくないかい? はるみんも結構かっこいい分類に入ると思うんだけど」
蓮は首を傾げて、東海の顔をマスク越しに覗き込んだ。
「……い・や・だ! 俺は絶対死んでも見せたくないの!」
「えぇー?」
「まあまあ、本人が嫌がってるんだから強要することないですよ」
弓弦が苦笑しつつ仲裁に入り、そのとなりで銀次が不思議そうにコテンと首を傾げた。
「でも……。試食の時とか、マスク被ってたら食べれなくないです?」
「……っ」
東海はぐっと詰まった。
確かに、と誰もが思った瞬間だった。
「ぐぬぬ……」
「俺、頑張って編集しますから! ね?」
「……はるみん、なんでそんなに顔出し嫌なの? アタシ好きだけどな、アンタの顔」
美月が少し残念そうな表情で、卵を混ぜながらさりげなく口を挟む。
「ちっ……しゃぁねぇな。じゃぁ、今回だけだからな!!」
しばし葛藤の末、東海は観念したようにマスクを外した。
「おおーっ!」
蓮とナギが同時に拍手を送る。
雪之丞はどこかホッとしたような表情を浮かべ、弓弦は苦笑いを浮かべる。
「了解! 俺の編集に死角なし! ちゃんと編集でなんとかしますから!」
銀次が親指を立てて宣言すると、現場にクスッと笑いが広がった。