最初は優勢やった。
「おらぁっ!!」
レオンの剣技はまさに神業や。さすがは【剣術】スキル持ちやな。敵の剣を紙一重でかわし、そのまま鋭い一撃を浴びせる。彼の剣が舞うたびに血飛沫が上がり、敵が次々と地に伏していった。彼の動きには無駄がなく、まるで風に舞う葉のように軽やかで、同時に鋼のように鋭い。
「【フレイムバースト】!!」
リリィも負けてへん。炎の魔法は広範囲を焼き払い、手下どもは熱に怯えて距離を取るしかない。炎の壁が、ワイらと敵の間に立ちはだかり、一瞬だけでも息をつく隙を与えてくれた。燃えさかる炎の熱気が肌を刺し、炎の揺らめきが戦場を歪ませて見せる。
「せいっ!!」
ケイナも見張り台の上から弓矢で援護に加勢しとった。彼女の矢は風を裂くように飛び、敵を射抜く。高所からの視界を活かし、ワイらの動線を確保したり、リリィの炎に追い込まれた敵を仕留めたりと、不慣れながらも見事に戦況をコントロールしてくれとった。
「ナージェ! 右からくるぞ!」
「分かっとる!」
レオンの声は、戦場の騒音の中でもはっきりと耳に届いた。ワイはその言葉に反応して、本能的に体をひねった。剣を構え、目の端に見えた敵の動きに合わせて、瞬時に振り抜く。剣同士が激しくぶつかり合い、鋼と鋼が擦れる甲高い音が響いた。腕に伝わる衝撃は、骨まで震えるようやったが、ワイは歯を食いしばって踏みとどまった。敵の剣は顔を掠めて、風が頬を切る冷たさを感じた。恐怖と紙一重の攻防や。
「っ、ここや!」
ワイはすかさず踏み込み、剣をカウンターで叩き込む。視界の端で、倒れた敵の体から力が抜けるのが見えた。足元には既に数人の敵が倒れとる。ブーツの裏で柔らかい肉が潰れる感触が、じわりと足に伝わり、胃の奥が重く揺れた。それでも剣を握る力は失わんかった。
「ハッ、これがお前の実力か? 見直したぜ!」
「お前こそ、腕を上げとるやんけ!」
レオンが笑い、ワイも笑い返す。笑顔の裏には、研ぎ澄まされた緊張感が見え隠れしてた。敵の数は多いけど、連携が取れてへん。奴らはただ群がってくるだけや。一人一人は脅威にならんかった。焦ったように動く敵の目は泳ぎ、足取りは重い。武器を持つ手も震えとる。今なら勝てる――そんな手応えが確かにあった。体の奥から沸き上がる高揚感、まるで全身に火が灯ったような感覚が、ワイの動きを速くしてくれた。
しかし、甘かったんや。
「お前ら、遊んでんじゃねぇ!」
チンピラ隊長が怒声を飛ばした瞬間、状況が一変した。奴は手下どもを蹴り飛ばし、前に出てきよった。倒れた手下の呻き声がかき消されるほど、彼の存在感は異質やった。その手には、見るからに禍々しい黒い剣が握られとる。剣の表面には不気味な模様が浮かび上がり、闇が滲み出しているみたいやった。剣の周りの空気が、ねっとりと重く、冷たい。
「見せてやるよ、本当の力ってやつをなぁ! 【闇の号令】!!」
隊長が剣を掲げた瞬間、空気が変わった。まるで世界そのものが息を呑んだように、周囲の音が一瞬消えた。次の瞬間、冷たい霧が四方八方から這い寄ってきた。霧は肌にまとわりつくたびに熱を奪い、息を吸うたびに胸の奥を氷の針で刺されるような冷たさを感じた。
黒い霧は地面を這い、じわじわと広がっていく。その中で、敵の手下どもが呻き声を上げて苦しみ始めた。身体は痙攣し、口からは泡を吹き、目は白目を剥いとる。そして、やがて彼らが立ち上がった時には、瞳はまるで命を失ったかのように濁ってた。
あれはもはや生き物やない。ただの操り人形や。血の気を失った青白い肌、垂れ流される涎、理性の欠片も見えへん。肉体だけがそこにある、そんな不気味な存在やった。
「こいつ……手下を回復させてるのか!?」
「違う……。傷はそのままで、無理やり操ってるのよ!」
レオンの言葉に答えるように、リリィが叫ぶ。彼女の炎が操られた兵たちを焼き尽くすが、奴らは痛みも感じてへんようで、動きを止めへん。焼け爛れた皮膚が剥がれ落ちても、まるでそれが無意味かのように向かってくる。ケイナの矢も命中するが、死者のような奴らは矢が刺さったまま、鈍い足取りで前進してくる。まともな敵より、遥かに厄介や。理性がない分、恐れもない。死への本能的な抵抗すらも消え失せとる。
「おいおい、冗談だろ……」
レオンですら、余裕が消えとった。彼の剣が一体を切り伏せるが、すぐに次が迫る。ワイも、剣を構えたまま後退するしかない。動きが遅くなってる分、敵の数がさらに増えたように感じる。炎も剣も矢も通じへん。まるで死者の群れに囲まれたような絶望感が、胸を締め付けるんや。背後に冷たい壁が迫ってくるような、逃げ場のない感覚に、呼吸が浅くなる。
「逃がすかよ……お前ら全員、ここで地獄に送ってやる!」
隊長が笑う。その声は、まるで死神のささやきみたいやった。彼の口元に浮かぶ笑みは、血を吸った蛇のように冷たく、目だけが暗い炎を灯してた。希望を飲み込むような、漆黒の渦がワイらを包み込んでいくような、そんな錯覚すら覚えたんや。
コメント
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【剣豪】とか来そう