テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第20話「声をかける、夜」
病室の明かりは、落とされていた。
小さな間接灯だけが、らんの横顔を照らしている。
ベッドの上で、らんは眠っている。
胸が、ゆっくり上下しているのがわかる。
「……寝てるな」
なつが、小さな声で言った。
「……ああ……」
いるまが頷く。
「ちゃんと……呼吸してる……」
その事実だけで、胸が少し楽になる。
みことは、ベッドの横に立ったまま、動けずにいた。
「……らんらん……」
名前を呼ぶ声は、震えている。
「……聞こえてるかも、って……」
「……思っちゃって……」
すちは、椅子に腰を下ろし、視線を落とす。
「……起こさないように……」
「……でも……」
言葉が続かない。
こさめは、ベッドの近くにしゃがみ込み、
そっと手を伸ばした。
触れない。
でも、近くにいる。
「……らんくん……」
小さく、優しく。
「……今日はね……」
少し笑って、
「……楽しかったよ……」
誰も止めなかった。
「……写真も……いっぱい撮った……」
「……変な顔のやつ……」
「……あとで……見せたかったな……」
声が、少し詰まる。
「……らん……」
なつが、らんの反対側に立つ。
「……聞いてなくてもいい……」
「……返事も……いらない……」
深く息を吸う。
「……ここにいる……」
「……それだけ……伝えに来た……」
らんのまぶたが、わずかに揺れた気がした。
「……今の……」
みことが、息を潜める。
「……気のせい……?」
「……どっちでもいい……」
いるまが、低く言う。
「聞こえてると思って、話せばいい」
すちは、そっと続けた。
「……らんらん……」
「……無理しなくていい……」
「……眠ってていい……」
その声は、
どこか自分に言い聞かせるみたいだった。
しばらく、誰も喋らなかった。
機械の小さな音だけが、規則正しく響く。
「……夜って……」
なつが、ぽつりと。
「……こんなに長かったっけ……」
「……今日は……」
こさめが答える。
「……こさめが大好きならんくん……だから……」
すちは、静かに頷いた。
「……呼んでれば……」
「……戻ってきてくれる気がして……」
らんは、眠ったまま動かない。
それでも。
その場所には、
確かに温度があった。
声があった。
名前があった。
夜は、まだ終わらない。
——眠るらんのそばで、
誰も、立ち去らなかった。
♡150
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!