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『都合よくお父様の跡取りが死んであんたが当主になるなんてことないでしょ、この人殺し!!』
『兄を殺してまで得た継承権を無下にするような働きだな。そこまでして名声が欲しかったか?』
『あの子ったら大して戦闘も出来たもんじゃないくせに、お兄様を殺して当主に成り替わる様な真似をするくらいの悪知恵や野心だけはある出来損ないなのよ。こんなのに殺されたお兄様が可哀そうだわ』
『何電車止めてきてんだよ!!天神家に泥を塗る様なことをするな!!』
『外出届を出してきたから何かと思えば自殺に逃げるのか。そんなんで当主が務まるわけないだろ』
「ーーって、葉泣。ちゃんと話聞いてた?」
「いや、全く?」
「ちょっと!!今回はあなたが居ないとだめだから!今回の敵は相当強いから、主戦力には頑張ってもらわなきゃ」
眠気覚ましに置いてあったコーヒーを飲み、何の話だっけ、と続ける。
咲は呆れたような表情をしながらも、葉泣向けにもう一度説明をした。
今回の討伐対象はエイリアン。よくある宇宙人の姿を想像してもらえばよく、黒い大きな瞳に触覚を持って、肌は薄いエメラルドグリーン。
そして、特徴として肌と同じ色の髪を持っていて、口や鼻の形、そして体つきが人間に酷似している。人間の言語は習得しておらず、独自の言語(ギーだとかピーだとかいう音が多かった)を扱うようだ。
一番の特徴は、とにかくデカいこと。ざっと7mはあるらしい。規格外の大きさをしている。
そんな大きさならどこかにはまりそうだが、と言った所、咲によればはさまって動けなくなっているらしい……きさらぎ駅のホームに。
そう、あのきさらぎ駅。
ネット掲示板に現れた「はすみ」というペンネームの人物によって書き込まれた、証拠のない体験談。
電車に乗っていたら突如見知らぬ駅に着いていた。名前はきさらぎ駅。
周辺の人々は眠っていて、起こそうとしても起きなかった。
降りてみると、そこは田舎の無人駅と言った印象で、しばらくはすみは帰宅のために線路を伝って歩き始める。
道中、謎の高齢男性に「線路の上を歩くと危ない」といった趣旨の注意を受けるが、はすみは歩くのをやめない。
やがて、はすみは車に乗せてくれるという親切な男性に会い、ご厚意に甘えることにしたと書き込み、その後消息を絶った。
真偽は不明だが、体験談の7年後にはすみを名乗る人物からの生存報告も別サイトに書き込まれている。
結局、この話はよくできた創作だとされたが、時間等の正確さから今でも信じられている都市伝説だ。
なので、きさらぎ駅が怪異として実在するのも納得はする。
……しかし、きさらぎ駅にエイリアンとはこれ如何に。
何がとは言わないが、「駅」にトラウマがある葉泣としては非常に腕が鳴らない依頼だ。
しかも、本家きさらぎ駅通りに行くなら線路上を歩かないといけない。
駅や踏切に行くと、たいてい葉泣は過呼吸を起こして、声が出なくなる。喉からかひゅっだとかいう間抜けな音がたくさん鳴る。
本部に移動してきたときは、周りと距離を置いていて普段一言もしゃべらなかったから黙っていてもなんとも思われなかった。
しかし今回はそうは行かない。どうするべきだろうか。
「ね、結構面白い話してたっしょ?これからはちゃんと話聞くんだよ」
「まぁ、考えておく」
「お願いだからおっけーと言えよ……」
すると、遅れた謝罪を述べつつ久東が現れた。
「いやー、ちょっと討伐依頼が立て込んでてな、代わりに咲ちゃんに説明してもろてたわ。んで、どや、きさらぎ駅のエイリアンは?」
「”どや?”と言われましても……。なんか異色のハイブリッドすぎて、脳の理解が追いつかなくて」
「この討伐依頼に関しては前からあってん。これの正式名称は『なんできさらぎ駅にエイリアンがおんねん?!さっさとぶっ飛ばしてやー♡』やで」
「なげぇ……」
「ま、これを連呼するには使い勝手が悪いって評判やな。私としては分かりやすい方やと思うんやけど。みんなはきさらぎエイリアンとか駅エイリアンって呼んでるみたいやで」
「きさらぎエイリアン、語感いいしいいわ。みんなも使って」
「略しても長いんだな……」
「ただのエイリアンじゃよくないのか?」
「んー、あんたらが当たるかは分からんけど、エイリアン自体はよく信じられとる都市伝説やから、いっぱいおんねんな。個体の区別はつけたいってことや」
「なるほど」
「この討伐依頼はポイントがあってな。まず、相手は動いてこんってこと。ホームにみちっとはまっとるから、微動だにせぇへんけど……如何せんサイズが規格外やからな。瓜香のハンマーとかでホームを破壊してもうて、こいつが動ける状態にするようなことがないように」
「7mが暴れまわったら制御できるわけないな」
「私レベルやないとまず無理や。私もその日は別の討伐依頼があるせいですぐには動けへんし、最低でもあんたらの犠牲は確定やと思う。エイリアンは嵌め殺しにするんや、わかったな」
「後、このエイリアンが動けへんのっぽやってだけならこんなに放置されてへん。こいつはエイリアンがしてきそうな『目からビーム』を持ってんねん。撃ってくる間隔は長めやけど、一発一発がでかいから、撃ってる間はうかつに近づかんで避けに徹した方が賢明やと思う。ま、葉泣の銃があれば話は別やけどね」
全員の注目が葉泣に集まった。最悪だ。
今めちゃくちゃモチベが下がってる状態なのに。というか、過呼吸の発作で声が出なくなった時に正確な狙いを定めて銃を撃つなんて不可能に近い。必中を使うにしても、それも急所に当たるかは決められてないし、できれば自分で狙って撃ちたいのだが。
何か言ったほうがいいか一瞬悩んだが、葉泣はそれとなく苦言を呈することにした。
「そのビームが俺が狙ってる間に来て、避けれなかったりしてな?」
「怖い事言うのやめてよ!!」
「ま、避ける自信がないなら無理せず攻撃せんのがええんとちゃう?」
「……これ勝てるんですか?」
今日、初めてハンマー女が発言した。
この疑問は葉泣も感じていたところだった。
まず、話を聞いた限り近づかないと攻撃できない無光とおそらくハンマー女は役に立たなそうだ。無光は葉泣を圧倒するスピードを誇っているしテレポートも出来るので手の攻撃には当たらないかもしれないが、避けた先にビームがあって事故る……という展開が想像に難くない。
咲は能力が覚醒したばかりで謎が多いらしい。もし花びらで敵を消失させることが可能なら瞬殺だろうけど、7mの巨体に花びら一つで消失ができるかと言えばできない可能性が高い。
となれば、おそらく頼みの綱は葉泣になるだろう。しかし、彼も近距離の戦闘でやらされていたのはせいぜい対人戦。天神家は怪異の存在を予知したトレーニングを組んでいないので、リーチの長い大ぶりな攻撃を銃を構えている最中に避けるなど無理な話だ。
しかも、先述した通りの理由で銃をいつもみたく撃てない確率が高い。ただでさえ強敵の予感がするのに、全員お荷物からのお陀仏が目に見えている。
「うーん、まぁ簡単には勝てへんやろけど、咲が覚醒してたりしてるしな。ま、苦勝もしくは惜敗ってところやろ」
「惜敗って……負けるじゃんか!!」
「あんたらの頑張りと奇跡次第やな。正直無理な相手に運勝ちしたっていうケースもある……逆も然りやけどな」
「やけに脅すじゃねぇか……」
「ちょっと自信ないくらいがちょうどええ。手加減せず全力をぶつけられるからな。……うし、頑張ってや」
そんなこんなで、さっさと解散となった。
*
昨日、久東から連絡があった。
瓜香は咲と会いたいくらいだと話していたから、せめて部屋を分けるなんてことをせずに同じ部屋に戻ればいいじゃないかと話された。
なるほど、瓜香は世間体だけでも取り繕うために仲直りしたという体でいったらしい。別に、それに関しては構わないと思う。
まだ荷ほどきすらやっていなかった荷物を再び上階に移動する。
瓜香と話したことは事実だ。話す前は瓜香と仲良くなりたいと思っていたが、改めて事実を整理して行くと怒りが込み上げてきた。なんだか情緒不安定な人みたいになってしまったけれど、瓜香には自分の本心を伝えるとあらかじめ言っておいたから大丈夫なはず。というか、あいつの為に何かするのは癪だとまで感じて来た。
一応、友達でいたいという気持ちはある。でも、それはあくまで世間体だとか表面上そうした方が聞こえがよさそうだとかという理由で、自分の気持ちとしては友達のままで居るなんて不可能だと思う。
部屋に入ったら、瓜香はどういう表情をしているのか。少しばかりそんなことを考えながら入室した。瓜香は真顔である。まぁ何か感情を表す顔をしていたら怖くはある。
「結局顔合わすことになったな」
「そうね。久東さんの神采配のおかげね」
これが皮肉なのか計り知れない。
咲は、瓜香に会ってから今まで知らなかった人間の黒い感情を色々知った。
こんなに人に怒ったのは初めてだ。あの時の体の温度は忘れられないだろう。
「明日」
「何?」
「せいぜい足手まといになんないようにな」
「……そうね」
*
「なぁ、葉泣」
「どうした?」
「何かあったのか」
「……なぜそう思う?」
「いや……なんとなくだけどさ、珍しく嘘吐いたなって」
「嘘?」
「だって咲に話聞いてた?って言われた時のお前、話聞いてなかったって返してたけど、絶対聞いてたよな?」
「あー……」
無光こそ全く喋らないから話を聞いていないようにも見えていたが、どうやらちゃんと見ていたらしい。
実際咲が任務について話していた時は真面目に聞いていた。でも、”駅”とか”電車”とかのワードが聞こえてきたとき、自動的に脳内で自殺直前の光景ショーが始まって、上手く話に集中できなかった。それでも聞くこと自体は諦めてなかったが。
正直頭に入ってこなかったのもあったし、あんまり自分に話を振られたくない状態だったから話聞いてなかったことにしていた節はあるのだが、見抜かれていたらしい。
「まぁ、そうだな」
「やっぱりか。どうしてそんなことしたんだ?」
「……」
話すべきだろうか、なんて問いを掲げる前に、葉泣は肯定の意を示す。
「絶対に引くなよ?」
「え?」
「絶対に え?とか は?とか おい嘘だろお前……とか ”死神”のくせに……とか言うなよ?」
「いやそんなにならないと思うけどな……」
「約束してくれよ?」
「お、おう」
「もし言ったら、一本ジュース奢り生活一週間」
「お前それが目的だろ……」
「俺、電車が怖いんだ。だから怖くて仕方がなくて、話が頭に入ってこなくて。聞いてなかったことにしてもう一回説明を聞こうと」
「は?」
「「あ」」
「言うと思った!!」
「嵌めやがって……」
「で、でもなんだよ電車が怖いって」
「……ちょっと長くなるけど、いいか」
「まあいいけど」
「俺の家は戦闘に特化してる家だった。なんだかまるでこの異世界を想定しているみたいだが、別にそういうのを想定してやっているわけではなくて、自衛隊だとか警官になることを目指す教育方針の家だ」
「そして、いわゆる地主だったからか知らんが当主制が採用されてて、要は家の長を決める制度があった。俺は三男だったから別に継ぐわけでもないし、結構戦闘はサボり気味だったな」
「サボり気味でその強さなのか……」
「これでも弱い方だ。だけれど、ある日、外出していた長男と次男が水難事故で死んだ。あれほど真面目に取り組んでいた奴らが簡単に死ぬんだ、海って怖いよ」
「……それは災難だな」
「全くだ。そしたら後継ぎは俺になる。でも、俺は兄を後継ぎ争いで殺害したと思われて、かなり下に見られてた。俺は真面目にやってなかったしな。そんなこんなで、当時の俺はかなり病んでた。病んでる人間の最終目標ってなんだと思う?」
「え」
「……いや、答えにくいだろうしいい。まぁ、要は俺は自殺しようとしたんだ、電車で」
「なんか悪い」
「俺が勝手に過去の話を始めたくらいの認識でいてくれないか。お前に罪悪感を感じさせるようならやめる」
「……余計にどう反応すればいいか分からなくなったぞ……」
「聞いてくれるだけでありがたいから、大丈夫だ」
「あー……そ、そうか」
「で、結局俺は自殺に失敗した。負傷したのは」
葉泣は、今まで誰にも見せてこなかった右足の長ズボンの裾をめくった。
その下からは、黒い機械で出来た脚が出現する。流石の無光もかなり驚いたようだ。
「え、それ……」
「右足だけ。今では義足だ」
「義足……?」
「……中々世間知らずな所があるよな、君は」
「え、は、そ、そそんなことないと、思う、けど」
なんだかやけに動揺しているが、特に気にしないことにした。そろそろ長話も終わる。
「義足ってのは、事故等で足を失った人が、人工的に追加する足のことだ。家が金持ちだったからできた所業だな。でも俺の家は戦闘一家だろ?だからこの義足に改造が施されてる」
「改造?」
「この足もビームを出せる」
「は?!」
葉泣は義足を変形させて見せる。やけに重厚な造りをした義足は小さくウィンウィンと音を立て、外側の金属と内側の金属が入れ替わる形で動いた。そして、くるぶしのあたりに開いていた丸い形の穴の部分が押し出される。要は、ここに核エネルギー的なやつを溜めて撃つ。
「何だそれ?!」
当然の反応。記述式反応テストが存在するなら100点じゃないだろうか。
「マジで……撃てんの?」
「撃てるぞ。流石にここで撃ったら火事待ったなしだから撃たんが」
「ど、どういう理屈で?」
「ふともものあたりにスイッチがあって、そこを押したら撃てる。核エネルギー的なやつを溜めてるらしいが、よく知らん」
「えええー……」
「俺の必殺技みたいなものだが、正直……これを使ったら義足だとバレる方が嫌だ」
「別にバレてもよくないか?」
「バレたらなんで義足になったか追及されるだろ?そこで俺が自殺未遂したことを話したくない。これはお前だけに話しておきたいからな」
「そうか」
「……つまり、お前にそれを使わせないくらい頑張ろうってことだな!」
ここまで重い話を振られておいてそれほど明るくなれるメンタルがあったなら、葉泣は生身の足で歩けていたんだろうか。
少し羨ましいと思った。思わず笑みが零れた。無光の顔はまるで「なんで笑ってるんだ」と書かれているかのようだ。
困惑するような、恥ずかしいような表情を浮かべている無光に、葉泣は抱き着いた。予想外すぎたのか倒れそうになったが、なんとか重力に逆らえた。
「きゅ、急にどうした……?」
「……思えば、この話他の誰ともしてこなかったなと思って。本当は誰かに話したかったのかって気づいて。……今日、俺の話聞いてくれてありがとうな」
「え、あ……別に、ただ聞いてただけだろ」
「嬉しい」
「……」
葉泣が少しばかり涙声になっているのに気づいてか、無光は黙ってしまった。
葉泣も、このままだと本当に泣いてしまいそうだと思い、声のトーンをワンランク上げた。
「ま、それはそれとして約束は守ってもらうけどな。……今日はファンタの気分だ」
「げ、あの時の奢り一週間ってまだ生きてたのかよ……」
「今の俺は気分がいいからなー。俺からも奢ってやろうか?」
「……さっきまで泣いてたやつに奢ってもらうほど薄情者じゃねぇよ……」
「あ、あと、今日話したことは秘密。誰にも言うなよ」
「分かった」
「明日、頑張ろう」
「おう!」