テラーノベル
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病院の最上階、突き当たり。その個室だけは、外の世界と時間の流れが切り離されているようだった。 無機質な機械音と、刺すような薬の匂い。その中心で、一ノ瀬さんは点滴のチューブに繋がれながら、依然として「女王」のまま座っていた。
「遅いわよ、佐藤君。……今日の小テスト、私の代わりに解いてきた?」
彼女の肌は透けるほど白くなり、その下を走る血管が青い毒のように浮き出ている。けれど、僕を射抜く瞳の鋭さだけは、以前よりも増していた。
僕は彼女の指示通り、彼女の筆跡を完璧に模倣した解答用紙を差し出した。一ノ瀬さんはそれを満足そうに眺め、冷たい指で僕の頬をなぞる。
「いい子。……あなたは、私がいなくても私になれる。私がここで壊れていっても、あなたの脳の中では、私は完璧なまま保存されるのね」
彼女は、自分が衰えていく姿さえも、僕を支配するための「教材」にしていた。
ある日、彼女は震える手で僕の制服の袖を掴み、ベッドの方へ引き寄せた。
「ねえ、佐藤君。……私に触れて。点滴の液じゃなくて、あなたの熱を、私の中に流し込んで」
それは、弱々しい懇願ではなかった。
僕が彼女に触れずにはいられないことを知っている、確信犯の誘いだった。
僕は彼女の細い手首を握る。かつては鉄のようだった彼女の鼓動が、今は怯える小鳥のように速く、不規則に跳ねている。
「……一ノ瀬さん、怖いんですか?」
僕が問いかけると、彼女はゾッとするほど美しい、狂気じみた笑みを浮かべた。
「……怖い? いいえ、逆よ。あなたが私の『欠陥』を目の当たりにして、それでも私に跪いているのを見るのが、……最高に愉しいわ」
彼女は、死の恐怖さえも「愛のスパイス」として消費し、僕の執着を極限まで煽っていく。
「いい? あなたの人生の解答欄に、私以外の正解を書くことは許さない。……私が死んでも、あなたは一生、私の亡霊を抱えて生きていくのよ」
彼女の唇が耳元で囁く。
その言葉は、救いでも愛でもなく、僕の未来を永遠に封印する「防腐剤」だった。
僕は、彼女という欠陥品を、この白い檻の中に閉じ込めておきたかった。
たとえ僕自身の心が、彼女に食い尽くされて空っぽになったとしても。
コメント
2件
美しい
めっちゃくちゃ歪んでるうううう最高!!!!!!!