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そして嫌な予感は悪臭処理では終わらなかった――
その後、結城悠哉――ユーヤさんはそのままリアフローデンに住みついたのだ。
それはいいのよ。
ユーヤさんは強いし、頼りになるし、魔獣討伐でシスターの負担と危険が激減するのだから。
だけど――
「む~~~」
――シエラはご機嫌斜めだった。
私もなんだけど……
「ごめんなさい。また、魔獣が出没しているのよ」
これは仕方がない。
後で一緒にお祈りをしましょうね、とシスターに言われれば素直なシエラは頷かざるを得ない。
「お待たせユーヤ」
「いや、俺もいま来たところだ」
なにそのデートの待ち合わせみたいな会話は!
今から魔獣を倒しに行くんじゃなかったんですか?
シスターはどうしてそんなにウキウキなんですか?
それにユーヤさんのシスターを見るあの目!
あれ間違いなくシスターに惚れてる目よね!
いや、落ち着け私。
これは仕方がないことなのよ。
シスター・ミレはこの町の老若男女を問わずに魅了しまくる天然たらしの魔性の聖女様。
彼女はとっても魅力的でユーヤさん惚れるのは自然の摂理だから不可抗力としておこう。
シスター・ミレの5歳年下のユーヤさん、そりゃあキレイなお姉さんは好きですよね……私も大好きです。
だけどシスター・ミレ!
どうしてあなたはそんなに嬉しそうなの!
彼女自身は自分の気持ちに気が付いていないみたいだけど、傍から見ればまるわかり。
シスター・ミレの恋を奥様連の皆様はきゃっきゃとはしゃいで噂をし、紳士協定を結んだ男共は陰から覗いて血の涙を流している。
当然だけど大好きなシスター・ミレを奪われて私とシエラは面白くない。彼女が帰ってくるまで頬を膨らませて不貞腐れてるのだ。
そう、認めよう……これはヤキモチだ。
だから私とシエラはシスターを奪われた恨みを晴らそうとしたが協力者がいなかった。
シスターを慕う他の孤児達の協力を得ようと思ったけど、意外にもユーヤさんは面倒見がよくって孤児達も彼を慕っている者が多かったのだ。
主に男子共が……
やっぱり男の子って力に憧れるものなのね。
強いユーヤさんを尊敬するのも無理ないかも。
カッツェなんか目をきらっきらにさせてユーヤさんを崇拝しているもの。
自分もユーヤさんみたいになるんだって、いつも木の棒をブンブン振り回しているのよ。
この裏切り者!
私がもう少しシエラに介入できればいいんだけど、幼いシエラ1人では何もできず諦めるしかない。
しかし、私とシエラって本当にシスター・ミレの事になるとシンクロするようで、最近では少しずつ行動に私の意識が介入してきている。
多分、少しずつ意識が同調してきているんだと思う。
まあ何にせよ、シスター・ミレの件は不本意だけどユーヤさんのお陰でリアフローデンは前以上に安心して暮らせる地になったわ。
だから行商人達もこの地に大勢やって来るようになって、色んな噂を耳にするようになった。ちょろちょろと動き回るシエラはそんな情報をあっちこっちから拾ってくる。
それらの情報を統合すれば――
魔王が復活し魔族にスターデンメイアという国が滅ぼされた。
魔獣が各地で急増しているのはその『魔王』のせいらしい。
魔王を倒すために王都では『勇者』が召喚された。
勇者が失踪してしまい、王都は大混乱になった。
悪い事ばかりしていた王太子妃が処刑された。
――とまあ、世の中は何か色々と大変みたいだ。
だけど、リアフローデンはシスター・ミレとユーヤさんのお陰で他所よりも安全らしいのよね。実際、ここではそれなりに毎日を平和に過ごせている。
そうして私とシエラは7歳になった。
それは私にとって運命の年だった……
その日、シエラはいつものようにシスター・ミレと礼拝堂で黙祷をしていたの。
そんなシエラとシスターの静謐な空間をいきなり壊す不埒な男がやってきたのよ。
ちょび髭のやらしい中年男で、シエラがすっかり怯えてしまった。
「シスター」
「大丈夫よシエラ」
シエラを庇う様にシスターが前に出て、無礼な侵入者をキッと睨んだ。
「お静かに。ここは神と対話する場、ここには神がおられるのですよ」
しかし、シスターの注意にも男は薄ら笑いを浮かべるだけ。
そして、男は貴族っぽい礼をした喋りだしたんだけど、その言葉で私の人生が動き出した……
「お久しぶりですミレーヌ・フォン・クライステル様。覚えておいででしょうかマルクス・ガーグでございます。この度は王命により貴女様をお迎えに上がりました」
『ミレーヌ・フォン・クライステル』!?
その名前がトリガーだったみたい。
突然、前世の記憶が一気に鮮明になったのだ。
乙女ゲーム『聖なる花に祝福を』
ゲームの舞台『アシュレイン王国』
『攻略対象』王太子アルス
『悪役令嬢』ミレーヌ・フォン・クライステル
辺境の地リアフローデンの孤児院
次々と頭の中に重要なキーワードが浮かんで私は全てを知った。
この世界は私が前世で遊んだ乙女ゲーム『聖なる花に祝福を』の中であり、私はその2作目の『ヒロイン』であるということに……