昔から絵を描くのが好きだった。
好きなキャラクターだったり物を描いたりして、身近な人に褒められたりするのはとても気分が良かった。
いつからだったろう、私の絵がつまらなくなったのは。
毎日血を流す想いで描いた絵も周りにとっては絵の具を塗りたくったゴミでつまらなくてありふれた現存物、そんな物しか作り出せない私はいわゆる凡人でしかならない。
天才とは有り余る才能を存分に使い独自の世界観を作り出し、そこに引き込む、それが私の弟だった。
悔しさより、諦めが先に来た。
ああ、神は欲しい人に欲しいものを与えてくれるくらい無神経で優しい存在じゃないんだって。
物にあたった。弟本人にもあたった。
なにかに当たるたび自分は醜い人間だと、小汚い存在だと自己嫌悪した。
この気持ちを絵にぶつけた、何故かその絵はいつもより上手くできてその日は気分が良くて普段より早く起きて久しぶりに健康的な生活を送った。
だから、聞いてしまった。
“歌がしたい”
だいっきらいな父親にそう猛抗弁していた弟の言葉を。
歌、歌。
歌は私にとって唯一と言っていい程の得意分野で本気でやりこまないにしろ趣味程度の物。ああ、分かった。だから私が歌うときあんたはそんな苦しそうな諦めかけるような顔をしたんだ。
神様って本当に残酷だ。
怒りがふつふつと湧いてくるのが自分でもわかった。
ムカつく、ムカつく、ムカつく!!!
才能なんてクソ喰らえ、有り余る怒りに筆を任せべちゃべちゃと目の前のキャンバスに塗りたくった。
どろ、べちゃ、ぺた、ぐちゅ、べた。
思いつく限りの色を全て乗せ、怒りにまかせた。
寒色だとか暖色だとか見た目が悪いだとか関係ない、今はひたすら自らの感情に身を任せ筆を動かすだけ。そうすればきっといつかは報われる、出来るはず。
そんなわけないと分かっていても期待してしまう、救われたいと願ってしまう。
ああどうか神様、哀れな私に救いを。
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