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「この情報は本当なんでしょうか? もし間違っていたら私は……」
暗い部屋の中、男は縋る様な声で言う。
「そんなにご心配なら信用して頂かなくてもいいんですよ。ただ、依頼料はご返金出来ませんけれど」
そう、静かな声が部屋に響く。
「い、いや。そんな……先生の紹介ですし、あんな多額の金を払っておいて……」
男は焦る。
「それなら、答えは一つでは?」
この声が男には蠱惑的に聞こえる。
「わ、分かりました」
そう言って男は唾を飲み込む。
男は覚悟を決めていた。
生き馬の目を抜く世界で天井を目指すために。
「この事は他言無用でお願いいたしますよ。あなたをご紹介した先生の為にも、あなたの為にも」
そう言われると男は、「ももも、勿論ですよ。こんな事がばれたら私の政治家としての人生もお終いだ」と慌てふためく。
「こちらも秘密は守ります。では、お気を付けてお帰り下さいませ」
男が去った部屋の中。
暗いその場所に明かりが灯る。
部屋には二人の少女がいた。
二人供、お揃いの黒いワンピースを着ている。
それは二人に良く似合っていた。
「姉ぇさん、お疲れ様」
妹がそう言うと「本当に疲れたわ。人と会うのは」と姉が答える。
二人は姉妹だ。
「そうね。私も疲れたわ」
そう言って妹がため息をつく。
そんな妹に、「しばらく仕事はお休みする?」と姉が言う。
妹は首を軽く振ると、「それは私が決める事では無いわ。全ては姉ぇさんの思うままに」と答える。
姉は、「ふふふっ」と可愛らしく笑った。
「ねぇ、退屈だわ」
姉の目がカーテンの閉まった窓に注がれる。
その視線に釣られて妹も窓の方を見た。
「この街も、この屋敷も。何もかももが退屈だわ」
窓に視線を向けたまま、姉は言う。
「そうね。じゃあ、また引っ越す?」と妹。
「いいわね。今度はどんな街がいいかしら」
声を弾ませて姉は言う。
姉は引っ越しに乗り気の様だ。
こうなったら本当に引っ越しをするしかない。
「じゃあ、これから二人で考えましょうよ。次はどんな街がいいのかを」
そう言うと妹は部屋の真中にあるテーブルへと移動してテーブルの上にあるスマートフォンを手にした。
妹は素早い手つきでスマートフォンを操ると、ある街の画像を姉に見せた。
スマートフォンの画像を見た姉の口角が上がる。
「気に入ったのね」
妹がニンマリと笑った。
「いつ引っ越すの?」
姉が問うと、妹は人差し指を赤い唇に持って行き、少し考えた後、「今月十には」と答えた。
「まだ二週間もあるじゃない」
不満そうに姉が言うと妹は少し困った顔をして「出来るだけ早くするわ。それまで我慢して」と言う。
「我慢する事ばかりでうんざりするわ!」
そう吐き捨てると姉はテーブルの花瓶に手を伸ばし、花瓶を勢い良く床に叩きつけた。
打ち付けられた衝撃で花瓶が割れる。
床には散らばった花瓶の欠片と水。
そして赤いバラの花が一輪。
その赤を見て、妹は何故か血を思い浮かべた。
赤い、真っ赤な血を。