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ズキン、ズキンと脈を打つように頭の血管が波打つ。痛みで意識がぼんやりと明るくなってきた。
「っつー……頭痛い、二日酔いかな」
どんなに二日酔いでもキチンと起きる時間に目が覚める。習慣って凄い。
「水野さん、おはようございます」
「うん、おはよう。ーーはあっ!?」
身体が飛び起きた。いや、あり得ない。幻覚と思いたい松田くんの姿が私のベッドに、しかも隣に寝転んでいる。
しかもどうしたことだろう、布団の隙間から見える松田くんの素肌は一体どう言う事だ。
「昨日の夜は凄かったですね」
ニヤニヤしながら松田くんは私を見る。
(昨日の夜……凄かった?)
ハッと自分の姿に顔がサーッと青ざめる。
下着しか付けていない……
「ままままま、まさか……」
驚きと動揺が隠せない。布団をバッと奪い取り身を隠す。
自分の身体を隠した事により松田くんの肌が露わになった。
松田くんは紺色のボクサーパンツしか履いていなく、無駄に引き締まった身体が目に焼き付く。
「どうだと思います?」
酔ってヤッちゃうなんて今まで一度もあり得ない。むしろ人前で酔う事が滅多にないのだ。
「ない! あり得ない!」
「はははっ、当たりですよ、俺は理性保つのに必死でしたよ」
あぁ、よかった……一安心した。
でも何故自分が下着姿なのか、全く身に覚えがないのが一番怖い。
「なんで私こんな格好なの? って顔してますね。昨日水野さん急に寝ちゃって部屋まで運んだんですけど、俺の腕離してくれなくて、仕方なくしばらく待ったら離してくれるかな~と思ってたらまさかの急に起き上がって、熱い! とか言いながら自分で脱いでベッドにダイブしてましたよ」
「……で、なんで松田くんが一緒に寝てたの?」
「下着姿で寝てるから布団かけて部屋を出ようとしたら水野さんが俺の事引っ張って離してくれなかったんですよ、そりゃもう凄い力で。俺も諦めてスーツがシワになるの嫌だったんで必死で脱ぎましたよ」
……やってしまった。100%私のせいだ。
「本当にごめんなさい……」
「いいですよ、俺は水野さんの下着姿見れてラッキーでしたから」
クシャッとした笑顔でベッドから立ち上がり松田くんは床に落ちていたワイシャツに袖を通した。その仕草が完全に事後の行動みたいで恥ずかしくなる。
にしても、ピョンっと跳ねた寝癖が可愛い……
(ってなに、可愛いとか思っちゃってるのよ、私!)
「じゃあ俺一度帰って出勤するんで」
「あ、うん……本当にごめんなさいね」
自分のやってしまったことを再認識し、ズーンと落ち込む。いい歳の女が何やってんだかと自己嫌悪。
下を向いていた顔がグイッと松田くんの両手によってあげられた。
バチッと目が合う。
松田の顔が近い。
五センチもしたら唇がくっついてしまいそうな距離。
「酔うのは俺の前だけにして下さいね?」
「違! 普段はこんな酔い方しないから!!」
「はいはい、じゃあ今度お詫びにデートしてくれますか?」
「え……」
「駄目って言ったらキスする」
頬を包む松田くんの手が燃えるように熱い。
ジッと見つめてくる真っ黒な瞳は眼鏡をかけていないせいかいつもよりもさらに力強さを感じ逸らすことが出来なかった。
「わ、わかったわ、する! するからっ!」
「楽しみです」
わざとリップ音を鳴らし一瞬だけ私の唇に触れるくらいのキスをした。
「あ、あ、あ、キ、キスしたっ!!」
「つい、水野さんが可愛くてしちゃった」
憎めない笑顔を見せる。
プンスカ怒っている私を面白がっているのか、ニヤニヤしながら「また後で」と松田くんは外していた眼鏡を掛け直し、部屋を出て行った。
松田の奴め〜、とイライラしつつ、滅多にならない二日酔いと戦いながら出勤すると涼しい顔で既に松田くんは出勤していた。
ピョンと跳ねていた寝癖もきちんと直っておりいつも通りビシッと髪型が整えられている。
「水野さん、おはようございます」
「お、おはよう」
(いつも通りすぎて逆に怖いくらいだわ……)
頭痛に耐えきれずこっそり鎮痛薬を飲み、松田くんも特にこれといって絡んでくる事はなくあっという間に一日が終わった。
その日家に帰っても松田くんからの連絡はなく、次の日出社してもデートの事に触れる事はなくあっという間に就業時間になった。
いつも通り一人で電車に乗り家に帰る。暗い夜道なんてもう慣れっこだ。
鍵を開けて部屋に入る。もちろん真っ暗、それも慣れっこだ。
(あんなこと言っておいて、やっぱりその場のノリって感じだったのね〜)
ドサっとソファーに雪崩込みボヘーっと天井を見上げる。
(なんだか疲れたわ……)
シャワーを浴び、冷凍パスタをチンして夜ご飯を終わらす。女の一人暮らしなんてこんなもん。
またソファーにぐだぁっと身を任せてぼへーっと天井を眺めていると、テーブルの上でスマホがブーブーっと震えている。
二日間なんのアクションもなかった松田くんから夜の十九時頃に急にメールが届いた。
“明日の十時にアパートの前に迎えに行きます”
(んなっ、全然デートなんて言ってこなかったくせに、なんて急な……本当にデートするのね……)