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リオがアンと走り回って遊んでいる間、ギデオンとゲイル、ケリーとアトラスは地図のような物を広げて頭を寄せていた。何かを話し合っているようだ。ここへはアンを遊ばせる以外にも、目的があったのか。少ししてケリーが皆から離れる。 四人を横目で見ながらアンを追いかけていると、どんよりと曇った空から、ついに雨がぽつりと落ちてきた。どこかで雨宿りしなければと空を仰ぎ、流れる雲を見た。
リオが強い魔法を使えても、さすがに天気は操れない。自然を操れてしまったら、それはもう神の領域だと村の誰かが話していた。そんなことを思い出しながら「アン」と声をかけて視線を戻したリオは、恐怖で固まった。アンがいない。姿が見えない。つい先程まで、すぐ目の前で、揺れる花を前足でつついて遊んでいたのに。
「アン!どこだっ。濡れるから戻って来い!」
リオは声をはりあげて、アンが隠れていそうな茂みや岩や木の後ろを探し回った。
すぐにギデオンとアトラスが来た。
「どうした?」
「アン、どこかに行っちゃった?」
リオは泣きそうになりながら二人を見た。
アンはまだ小さい。いろんなことに興味がある。だから、少し遠くに行ってしまっただけで、すぐに戻って来る。そう思うけれど、心配で胸が|潰《つぶ》れそうだ。
「俺が…ちゃんと見てなかったから…。どうしよう、アンに何かあったら!」
「リオ、大丈夫だ。アンはリオのことが大好きだろ?必ず戻って来る」
「そうだよ!俺、向こうを探してくるっ」
ギデオンに背中を撫でられ、リオは少し落ち着く。知らずに握りしめていた両手が震えている。怖いのだ。アンを失うかもしれないことが、こんなにも怖いなんて。
走っていくアトラスの背中を見て、リオはギデオンを見上げた。
「ギデオン達は、仕事の途中だったんだろ?中断させてごめん。俺、もう少し遠くまで見てくるから、仕事の続きしててよ」
「仕事のことは気にしなくていい。俺もアンが心配だ」
「…ありがとう。じゃあさ、俺は右側を探すから、ギデオンは左側を頼んでもいい?」
「わかった」
リオは頷き、走り出す。
後ろから「気をつけろよ」と声をかけられて、もう一度頷き林の中に飛び込んだ。
「アン!どこにいる?雨が降ってきたから帰るぞ。出てこいよっ」
大きな声で呼びかけながら、見落としがないようにアンが隠れそうな場所を丁寧に探す。しかし声も聞こえないし姿も見えない。
「アン…どこだよ。まさか、ここに魔獣がいるのか?襲われたりしてないよな」
恐ろしいことを考えて、一気に胸が苦しくなる。
俺が傍にいたら守ってやれるのに。どんなことからも守ってやるのに。なんで目を離したんだよ、俺のバカっ。
手のひらに爪が食い込むほど強く握りしめて、|己《おのれ》の行動を深く悔やむ。頬に雫が流れ落ちてくる。雨なのか涙なのかわからないが、シャツの袖で無造作に拭く。
そして再びアンを探すために走り出したリオの前に、いきなりケリーが現れた。