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「沖田くんねえ、馬鹿だね。ダチョウが同情して涙流すくらい馬鹿」「…流石に目玉より脳みその方が大きいですよ」
やっぱり言われた、だが想定していた声色より幾分か軽蔑は含まれていなく、説教をされる雰囲気でも無かった。
「その保護者達ねえ、多分、お姉さんの事で押しつぶされちゃった沖田くんが、自傷行為としてオーバードーズしちゃったんだと思ってるんだよ。…まあ、沖田くんの様子見る感じ、不眠の原因は近いところにありそうだけど、」
「帰ってあげた方がいいんじゃない?多分あいつら、沖田くんの事が心配で心配で、泣きべそかいて待ってるよ。沖田くんが辛くて歩けないなら、1泊させてあげてもいいけど。その場合はパフェ追加ね」
「土方さん達が…」
辛くなってしまったのかと土方達に心配されている…イマイチ現実味を帯びない。だが、旦那に茶化しているような雰囲気は一切なく、この人のこの目こそ、俺を心配している様な色を持っていた。
「旦那と違って金なら持ってるんで、1泊させてくだせェ、明日、帰ります」
「…はいよ」
その夜、俺が布団についた後。奥から微かに土方の声が聞こえた。「総悟は居るか」そう旦那に焦ったように聞いていた。
それに対し旦那は「少しだけアイツに時間を与えてやってくれ」とそれだけ、安心するような低い声でそう言っていた。何故だか心がざわめいて、声を出さないよう唇をギュッと噛み締めた。
旦那がそう言った後、扉が閉まる音がして、それからは旦那の足音と布の擦れる音以外、何一つ聞こえてこなかった。安心と申し訳なさでいっぱいで、今すぐにでも飛び出していきたい気分だった。それでも、ほんの少しの恐怖がやけに目について、安っぽい布団がやけに重たく感じた。
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「旦那、ありがとうございやした」
「支払い忘れんなよー」
旦那の声にわかってやすよ、と手を振りながら返事をした。また迷惑料としてパフェと一緒にタバスコもプレゼントしてあげよう。新しいイタズラを思いつくも、屯所へ向かう足取りは重たかった。
屯所の扉の前、ここまで来る間は土方さんにも、近藤さんにも会わなかった。きっと旦那が話をつけてくれたからだろう。今回の件に関して、旦那には頭が上がらない。
重い扉を開け1歩踏み出す、しばらく通りを歩いていくと見慣れた顔が柱の端から覗いた。周りからはゴリラと称される、その男らしい顔は頼りなくしょぼくれた表情をしていた。
俺を見つけるとその弱々しい目を大きく開け、俺の名前を呼びながら、太く大きい腕で抱きしめてくれた。俺は驚いて返事を返せなかった、この人はよく笑い、よく泣く人だ。この姿が特に珍しい訳でもないのに、これまでに無いほど胸が痛くなった。
「そ、総悟ぉ!大丈夫か?…帰ってきてくれて、良かった…本当に良かった…!!」
嗚咽混じりの声が鼓膜に響く、その言葉の意味に込められた暖かさを、強く強く感じた。心配されている。旦那が言っていた通り、この人達は俺を心配している、守ると決めた人を今、俺が泣かせてしまっている。
全ては俺のワガママで勝手な行動、下手すりゃ組織が被害を被る可能性すらあった。それなのに俺は今、責められるでも無く、失望されるでも無く、ただただ抱きしめられている。その事実に情けないやら恥ずかしいやらで、俺の瞳が潤み始めた。
「…すいやせん、俺、弱くて、近藤さんのこと、こんな風に泣かせちまって、情けねェ」
泣き出してしまわぬよう、小さな声でゆっくりと、言葉を丁寧に置くように話し出した俺の事を、近藤さんは俺が言い終わるまで優しく待っていてくれた。
「違ぇよ、総悟、お前のダメだった事はそこじゃねぇ、頼らなかったことだ。ここには仲間が沢山いる、トシも俺も、お前のことが大切なんだ。辛いなら頼っていいし、お前が頼ってきて笑って無視する奴なんてここにはいやしない」
「総悟、お前は一生大切な仲間だよ」
近藤さんの言葉に、俺はとうとう泣き出してしまった。涙を拭うと泣いていることを認めてしまうことになる。鼻まで赤くしている時点でそんな強がり意味の無いことは承知の上ではあったが、それでも俺は意地を張った。
俺のせいで涙をこんなにも流す人がいるのに、今の今まで薬なんて物に負け、全て棒に振るおうとしていた事が恥ずかしく感じる。思えばあの店主にも、土方さんや山崎にも、ずっと俺の弱さはバレてしまっていたのだろう。
ガキのように外聞もなく泣き喚き始めた俺の背中を、近藤さんは泣き止むまで撫で続けてくれた。
「あーその、なんだ…すまなかった、責めるような言い方になっちまって…」
その後、一日中歩き回っていたのか薄く汗をかいた土方さんが、俯きながら話しかけてきた。プライドの高いこの人が素直に謝りに来た事に若干の優越感を覚えつつも、真っ赤になった目元を見られたくなくて目を合わせることはしなかった。
横から見ていた近藤さんは「仲直り出来て良かったなトシ」なんて言っていたが、元々仲がいい訳でもないし悪いことをしたのは自分なのでその数分間、俺は居心地の悪さを感じる羽目になった。
「今日くらい一緒に寝てみないか?総悟も3人で川の字つくれば眠れるかもしれねェしよ!」
近藤さんのそんな一言に、俺達は最初こそ難色を示したものの、最後は枕を寄せ合った。俺を真ん中とし、右に近藤さん、左に土方さんという並びで。なんて甘ったれた状況。それでも、俺みたいなやつでも、今日くらいはこの人達に甘えてみたかった。
久しぶりにおやすみ、なんて素直に言ってみたりして。ちなみにこの挨拶は近藤さんに言ったのであって土方には断じて言っていない。他愛のない会話を繰り返し、それでもさり気ない気遣いが見えて、どうにもくすぐったかった。
急にすんなり寝れるなんてことは無かったが、俺の上に置かれた2人の腕が布団よりよっぽど暖かく、薬を使った夜より数十倍は健全で、暖かくて、良い夜だった。
おわり