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💛ちゃん視点、めちゃくちゃ良かったです!!! 魔王からの愛情を本能的に受け取りドキドキしてるとこも可愛いし、💙の1ヶ月で態度が軟化して、もう恋人ととしての💙には会えないと悟る悲しみだったり、作者様のおっしゃる浪漫と絶望盛り沢山で🤭💕 幸せでした~🫶
皆様が魔王派なら全力で💙様を応援したくなる天邪鬼心が働いたんですが、公式様の供給がスゴすぎて色んな意味で魔王強ぇってなりました🤣委ねバックハグとお姫様は驚きでしたね笑結婚式かなって🫠 話が逸れた💦💛ちゃん絶望を感じてるのにギュンとなりましたが、1ヵ月も観察したら💙様絶対また惚れると思うのでめくるめくドロ沼の世界へ✨となるんじゃないかとニマニマしてます🤭
お?!若様もしや?と思ったらそういうことですか... うわー!続きが気になります!!
さて、いよいよドロ沼に突入かもしれない。
りょさん視点。
1ヶ月だけ頑張ってくれない? と言われたとき、本当は無理だって言いたかった。
イライラしている若井を見るのも辛かったし、今の彼の中に“僕の恋人”を探してしまう自分も嫌だった。自分では気をつけているつもりだけど、どうすることもできなかった。だって、見た目が変わったわけじゃない。口調が変わったわけじゃない。多少子どもっぽいなと思う振る舞いがあるにせよ、大体において僕の大好きな恋人そのものだったから。
若井にとって僕の目や態度がプレッシャーになっているだろうってことがわかっているのに、どうしようもなかった。
「……ごめんね」
元貴の家のリビングのソファに横になりながら、スマホのホーム画面の若井に謝る。僕にだけ向けてくれた甘い笑顔の若井の写真は、この数日間の僕を支えてくれる大切な宝物だった。僕が愛し、僕に想いを捧げてくれた愛おしい人は、確かに存在したのだという証拠だった。
「ごめんね、若井……」
叩いてしまった。拒絶してしまった。不安に揺れる目をした、やりきれない感情を抱えて途方に暮れている若井を独りにしてしまった。
やらせてよと迫る若井が、僕を傷つけようと、僕に嫌われようとしていることはすぐに分かった。僕との生活がそれほどまでに苦痛で、僕から向けられる友情を超えた愛情がそれほどまでに嫌悪されているなんて、覚悟はしていたとはいえ胸に迫るものがあった。
あのまま受け入れてあげれば若井は楽になれたのだろうか。苦痛に満ちた現状から、少しでも救われたのだろうか。
でも、どうしても、あんな投げやりな、やけになったような若井に触れられることが嫌だった。僕にしあわせなを与えてくれるはずの行為を、僕に愛を教えてくれた記憶を、他でもない若井自身に踏み躙られるような気がして耐えられなかった。
それならすぐにでも別れを切り出して解放してあげられるかと訊かれたらそれは無理だった。だからといって、今の若井ともう一度恋に落ちるよう努力できるかと訊かれてもそれも無理だった。手放すこともできないのに、向き合うこともできない。
たとえばゼロから始められたなら、若井が僕らの記憶を根こそぎ失っていたならそれもまた可能性としてあったかもしれないけれど、そうなると今度はMrs.の活動に支障が出るし、誰も知らない、何も分からないなんていう、世界中から取り残される孤独を味わって欲しくなんかなかった。
いっそ僕のことだけをすっかり忘れてしまっていたなら違う道もあったかもしれないと思うのに、もしそうなっていたら耐えられなかっただろうなと自分の都合ばかりを考える勝手な自分が本当に嫌だった。
照明を落としたリビングに、僕のスマホの画面がぼんやりと光る。若井から連絡が来るんじゃないかって期待して、どうもに寝付けなかった。
結局、家に独りにしてしまった若井のことが気になりすぎてそっと起き上がる。もう電車はないけどタクシーなら捕まるだろうし、最悪歩いても帰れる距離だ。泊まっていきなと元貴は言ってくれたけど、これから最低1ヶ月は一緒に過ごすなら今日という日も乗り越えなければならない。
元貴にはきっと何か考えがあって1ヶ月という具体的な数字を告げたのだろうから、若井がどうしてもと言わない限りは1ヶ月は耐えなければならない。その間に記憶が戻ってくれたら嬉しいがそんな期待は捨てたほうがいい。希望を抱くから失望するんだから。
自分の部屋に籠った元貴の邪魔にならないように荷物をまとめる。スマホと財布くらいしか持ってこなかったから、元々着ていた服くらいなものだ。ビニール袋一枚で事足りる。
勝手に帰ったら心配させちゃうだろうから、と何か書くものを探していると、元貴が部屋から出てきてしまった。帰り支度をしている僕を静かに見て、
「……行くの?」
と首を傾げた。
元貴の目を見て頷くと、元貴は眉間にしわを寄せて頭を掻いて溜息を吐いた。元貴が呆れたときにやる仕種のオンパレードを見せたあと、
「俺が行く」
そう宣言をした。
「……へ?」
俺も行く、じゃなくて、俺が行く?
「涼ちゃんはここにいて」
「え、え?」
俺の手から荷物を奪うと、そのまま手を取って元貴の寝室へと引っ張っていく。ぼすっと僕をベッドに座らせると元貴は床にしゃがみ、僕の手を包み込んで苦しそうに笑った。
「……もっとちゃんと若井の話を聞くべきだった。俺のミスだ」
元貴の言葉に息を呑む。元貴にこんなことを言わせるつもりなんてなかったのに……! 僕がもっと上手く立ち回れば、もっとちゃんとできていたら、こんなことにならなかったのに!
「そんなことない!」
慟哭するように言うと、元貴がふるふると首をゆるく振った。
「そうなんだよ。涼ちゃんの気持ちももっと考えるべきだった」
立ち上がった元貴が僕をゆっくりと抱き締め、ごめんね、と謝った。せっかく止まっていた涙がまたあふれてきて、元貴の服を濡らしてしまう。そんな僕の頭を撫でながら、元貴が続ける。
「……若井とちゃんと話してくるからさ、涼ちゃんは今日ここにいて?」
僕がいないほうがちゃんと話ができるの、と嫌なことを言ってしまいそうで唇を噛む。僕らのことやこれからのことを必死に考えてくれている元貴に、言ってはいけない言葉たちが出てきそうになるくらい卑屈になっている自覚があるから、これ以上何も言わないためにも小さく頷いた。
「ここで寝ていいから。明日は9時に迎えにくる」
「ん……」
身体を離して僕の目を覗き込む元貴の目はやさしくて、いつもこうやって助けてもらってばかりだなと反省をする。考えなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに、僕のことで迷惑をかけてしまって申し訳なさが募る。
「迷惑とか申し訳ないとか思ってるなら怒るよ?」
「ぅっ」
まるで心の中を見透かされたように言われて言葉に詰まる。呆れたように眉を上げた元貴が、僕の濡れた頬をやさしく拭う。
「……涼ちゃん」
「ん? んぇッ!?」
元貴の可愛らしい唇が、僕の頬に触れた。びっくりしてじわじわと熱のこもる頬に手を当てて元貴を見ると、いたずらっ子みたいに目を細めて、だいすき、と笑った。
「いってくるね。おやすみ」
「へ、ぁ、お、おやすみ……」
なにもなかったかのように僕からするりと離れて、元貴が部屋を出ていった。
しばらく呆然としていたが、力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。元貴のこだわり抜いた枕に顔を埋めると元貴のにおいがして、落ち着くけれどそわそわして、心臓がドキドキと高鳴った。
元貴が寂しくて苦しいって僕を呼び出す夜も一緒に寝ているけれど、こういった接触をしたことは一度もなく、ただ抱き締めて眠るくらいなものだった。いつもだったら頬にキスくらいなんでもないことなのかもしれないけれど、辛くて苦しいことが続いてささくれだった心にはあまりにダイレクトな衝撃を僕に与えた。
元貴は普段から好きだって言ってくれるが、それはメンバーとしてのものでしかない。それが分かっているはずなのに、元貴のことはもちろん好きだけど、そういった意味で好きなのは若井なのに、なんでこんなにドキドキするんだろう。そのくらい弱ってるってことなのかもしれないが、浮かれてる場合じゃないのに、って考えて、ふと正気に戻った。
「……なんの話するんだろ……」
たとえ7年分記憶をなくしていたって、元貴との付き合いは7年か8年あるわけだから、僕と話すよりはよほど話しやすいし気兼ねしないだろう。話のネタなんていくらでもあるだろうから、そんな昔話でもしながら今後の話でもするのだろうか。
「いいな……」
仮に僕じゃなくて元貴と付き合っていたなら、あんな拒絶もなかったんだろうと思うと、どうしようもなく寂しくて苦しかった。
ぎゅっと目を瞑って身体から力を抜く。元貴のにおいに包まれて、いつの間にか寝落ちしていた。
翌朝、9時少し前にスマホに連絡が入り、準備を済まして元貴の家を出る。施錠の確認をして車に向かうと、眠そうに項垂れる元貴と若井が先に車に乗っていた。
二列シートの後ろに座る若井が一瞬だけ僕を見るが、すぐに目を閉じてしまった。嫌がると言うよりただただ眠たそうだ。乗り込んだ僕に元貴が、目を閉じたまま、おはよと口を動かした。
「おはよ」
挨拶を返しながら元貴の横に座り、マネージャーにお願いしますと声をかける。僕がシートベルトを締めたのを確認して、マネージャーが車を発進させた。
どれだけ忙しくてもこんなに疲れた様子を見せない二人に、心配になって声をかける。
「眠そうだね?」
ちら、と僕を見た元貴が、ふわ、とあくびをひとつして、
「寝てないからね」
とさらっと言った。あくびで涙が浮かんだ目を僕に向け、
「朝まで勉強してた」
と笑った。
受験生じゃないんだからなにを言っているのかと眉を寄せると、その疑問には答えてくれず、ちょっと寝る、と言って元貴は目を閉じて僕の肩に頭を乗せた。すぐに聞こえてきた寝息を感じながら後ろを窺うと、僕を見ていた若井と目が合った。
起きているとは思わなくて慌てて目を逸らすと、若井の方が腰を浮かして顔を寄せてきた。
え、なに、ちかいちかいちかい……。
「……昨日はごめん」
囁き程度の謝罪に驚いて顔を後ろ向けるとすぐ横に若井の顔があって再び顔を前に向ける。苛つかせちゃうかも、と後悔したがもう一度後ろを向く勇気はなかった。舌打ちくらいされるかなと思っていたら、小さく吹き出す音が聞こえた。
意外な反応に結局また後ろを振り返ると、座り直した若井がおもしろそうに目を細めていた。
昨日とはあまりに違いすぎる若井の態度に、元貴はどんな魔法を使ったのだろうかと思うのも仕方がない話だと思う。
本当にどんな魔法を使ったのよ、元貴……。
昨日とは打って変わって、若井はずっと僕の傍に居た。そして何も言わずにただただ僕を見ている。視線を感じるってレベルじゃなくて、観察していますってくらいに目を向けてくる。僕が若井を見れば当然のように目が合って、背けられないし嫌な顔もされないし、なんなら少し笑いかけてくる。
別人かってくらいの変貌ぶりだ。サポートメンバーを含め、スタッフさんたちの名前を確認していたから、記憶が戻ったわけではなさそうなのに。
挙げ句の果てには若井の方から話しかけてくる始末だ。レコーディングに関することであったり、スタッフさんたちとのやりとりで疑問に思うことであったり、内容は仕事のことなんだけど、元貴じゃなくてなぜか僕に訊いてきた。無視するわけにもいかないし、僕でも答えられる範囲のものだったから応じることはできたけど、頭の中はだいぶパニックだった。
他の人の目があるからかなと思わなくはないけれど、取り繕った感じもしない。元貴に助けを求めたくても、若井が抜ける穴を埋めるために奔走している彼の邪魔もできない。
嬉しいはずなのに喜びよりも戸惑いが勝って、変な対応していないといいなと思うばかりだ。
そうして1日の仕事を終え、まだ仕事が残っている元貴と別れて僕と若井はマネージャーに家まで送ってもらった。
「ただいまぁ」
「……おかえり。それでただいま」
「お、おかえり」
独り言くらいの気持ちで言った言葉に反応が返ってきて、きょどりながら答える。若井は小さく笑ってさっさと部屋に上がっていく。拒絶されるよりはずっといいはずなのになんだかやりにくさを感じて苦笑する。自分のワガママさに辟易しながら僕もリビングに向かった。
リビングに入ると若井がキッチンに立っていた。
「涼ちゃん、ご飯ありがと。美味しかった」
「ヘぁ?」
一瞬なんのことか分からなくて変な声を出すと、何その声、と若井が笑う。それはこっちのセリフですよ、なんでそんな甘い声出すのさ……。食べてくれたんだ、こちらこそありがとうだよ。
「今日は俺が作るから、お風呂でも入ってきたら?」
冷蔵庫を開けて食材を取り出しながら若井が言う。なんだか共同生活を送っていたときみたいな会話だなと思いつつ、朝眠たそうにしていた姿を思い出して、仮眠も取ってないんじゃないかと心配になる。
「や、若井、昨日寝てないんでしょ? 俺作るから、若井こそ……」
「入ってきなって」
強く言われると嫌だとは言えず、お湯を溜めるボタンだけ押して取り敢えず自室に引っ込んだ。
「あれ」
昨晩色々あった自室のベッドは、若井がやってくれたのか元貴がやってくれたのか丁寧に整えられていた。どっちも几帳面な部分があるから二人のうちどちらかは分からない。
ぼすんっとベッドに飛び込むと、自分のシャンプーのにおい以外に若井のにおいがした。僕のよく知るそのにおいに胸がぎゅっとなる。
全身で拒絶されていた昨日より、今日の方が距離を感じるのは何故だろう。物理的な距離は近づいたのに心理的な距離は離れたような、そんな違和感があって言いようのない焦燥感に駆られる。
「おふろ、はいろ……」
若井がせっかくご飯を作ってくれて、先にお風呂を勧めてくれたのだから。厚意を無碍にしてはならない。
お風呂の用意を持ってリビングに出ると、若井は手慣れた手つきで料理をしている。何を作ってくれるのか楽しみにしながらバスルームに向かった。
記憶がないと言っても日常生活に支障がないというだけあって、若井のご飯は美味しかった。こんなんうちにあったっけ? と言う材料もあったし、現在の若井とは違う味付けはなんとなく懐かしくて、やっぱり同居期間にもどったように錯覚する。
食後のデザートまであって、これは昨日元貴が来たときに持ってきてくれたものらしいけれど、コンビニのプリンを食べながら若井を見ると、やはり目が合った。
「……なんか、今日、ずっと見てくるね?」
流石に家の中でまでこの視線に晒されるのは耐えられなくて、嫌なわけじゃないんだけど、と困ったように口に出してみた。見ている自覚はあるらしく、ああごめん、と、サラッと謝られる。
「昨日元貴に、ライブとかレコーディング動画とか、事務所が保管するありとあらゆる映像を死ぬほど観させられたんだよね」
あぁ、お勉強って言ってたもんね。事務所保管って莫大な量あると思うんだけど。そりゃ寝ずに朝を迎えるわ。
「で、色々話して、1ヶ月はこのスタイルを変えるつもりはないって言われてさ。それで、どうせならこの1ヶ月、涼ちゃんのことをちゃんと知ろうとしてみろって言われたんだよね。まぁ1ヶ月だしそうしてみようかなって」
頭の中が真っ白になった。
若井に悪気はないのは分かっている。だけど僕には、もう記憶が戻らなくてもいいと思っている、と言っているように聞こえてしまった。
戻る保証なんてないから、もしも戻らなかったらこのまま若井は生きていかなくてはいけなくて。若井からしてみれば元貴と音楽ができればそれでよくて。
そうなれば僕との関係は清算されるだろう。だって若井の中には何もないんだから。
さっきの違和感の正体が分かった。僕が何に焦っているのかも分かった。若井の態度が180度変わった理由も分かってしまった。
いつまで続くか分からない苦行に終わりが見えたから若井は態度を軟化しただけで、僕を受け入れるつもりなんてないのに、受け入れているように見せられるのが違和感だったんだ。
そして、僕の恋人には二度と会うことができない予感が、僕に焦りを与えているんだ。
「昨日は本当にごめん。人としてどうかしてた」
静かに絶望の淵に身を落とす僕に気づかず、若井が心からの謝罪を述べた。
「ううん、若井もいきなりいろんなこと言われて困っちゃったよね。こっちこそ叩いてごめん。ご飯、美味しかった、ありがとう」
ちゃんと笑って言えていたらしく、若井がほっとしたように笑った。
あと1ヶ月、その1ヶ月で僕は、もう一度君に会えるのかな、滉斗。
あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな(和泉式部)
続。
魔王は魔王で種を撒くし、若様は若様で言葉が足りない。
それにしてもお花のりょさん、もはやお姫様ですね。