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─────雪が溶けて、段々と暖かくなる季節。
そんな様子を『春の足音が聞こえる』とも言う。
そんな中。1人の少女が毎年現れる。
薄桃色の綺麗なロングヘアと透明感のある同じ色をした目。彼女の周りからはいつも
【桜の香り】がした。
彼女は穏やかで、包容力のある女性だった。
…
彼女と出会ったのは今から何年も前。小学生の頃だった。近くの丘に桜の木が植えられ、そろそろ咲く頃だ。と祖父に言われ、この日が来るのを楽しみにしていた。私は好きなお菓子を持って家を出た。
丘に上がるとそこには何本もの桜が植えられていた。人が多く、これじゃあのんびり出来ないと私は奥へ奥へと進んだ。だが、気づけば周りには誰もいなくなっていた。あるのは桜の木だけ。
私は怖くなった。帰れなかったら、と。
すると、私はある1本の木が視界に入った。
その桜の木は、何処と無く違った。今年植えられたばかりとは思えないほどの大きさで、その上、どの桜よりも美しかった。
私は『こんなに綺麗なの見たことがない!』とすぐ様にその木に近寄った。
うっとりと眺めていると、ある声が聞こえた。
『ねえ、ぼく?迷子?』
私はとても驚いてしまい、きょろきょろと辺りを見渡した。人影なんて無かったはずなのに、何処に居たんだろうと。
『ばっ!』
突然1人の女の子が桜の枝の上から降りてきた。
私は思わず『うわぁ゛!?!』と情けない声をあげてしまった。
その女の子は私の反応を見て『あら、失礼しちゃう。』と言った後、くすくすと笑った。
見た感じ、自分よりは…年上…?身長も自分より高いし、何より……
『ちょっと~…?どこ見てんの?』
その声に私はびく、と体を揺らしすぐ様に顔を背けた。その反応を見てまた女の子はくすくすと笑った。
私は顔を真っ赤に染めた。恥ずかしい…と。
女の子は笑い終えれば私に手を差し伸べ
『おいで?君の家族のいる所まで連れて行ってあげる。』
私はそれを聞きすぐ様に手を取り、彼女の跡をついていった。
彼女は道を歩きながらふと、こんな事を言っていた。
『桜ってね、綺麗でしょ?咲いたら皆大はしゃぎですぐにお祭りだの、なんだので楽しいけど、すぐに散っちゃうから、少し寂しいよね。』
当初の私にはあまり意味が分からず頭の中には疑問符を浮かべた。顔にも出ていたのだろう。少女は私の顔を見たら
『まだぼくには早いかな〜』
なんて事を言われ、少しむっとした。
数分歩いた。彼女との話はとても面白かった。
いつの間にか、最初の場所に戻っていて、家族も花見に来ていたのだろう。母は私を見つけるや否やすぐに駆け寄ってきて『何処に居たの!』と怒られた。私は直ぐに『ご、ごめんなさい…でも!!このお姉さんが連れてきてくれたんだよ!』と母に言うも『…誰のこと?』と首を傾げた。私は『だから!!この……あれ?』私が振り返った頃には彼女はいなかった。その後母に不審者!?みたいな事を言われたが絶対に違う!!と言い返した。
そのあとは家族で花見を楽しんだ。私は売店に行くと言い、あの少女を探したが、何処にも居なかった。帰ってしまったのか…と少し残念だった。
ちょうど祖父も売店に酒を買いに来ており、此処に長く住んでいる祖父に彼女のことを聞いたが、
『…ピンクっぽい髪の毛の女の子〜…?いやぁ、…そんな子…儂は知らんぞ?』と言われてしまった。
祖父には幽霊でも見たんじゃないか?と聞かれたが、私は首を横に振り否定した。だって、実際に手を繋いでいたし…なんて考えて。
その日からだった。彼女のところへ通い始めたのは。
……
あの桜の木に蕾がつき始める頃に彼女はぽつんと桜の木の下に居た。
彼女に『どこから来たの』と聞いても微笑まれ、『ふふ、どこだろうね』と結局教えてはくれない。
桜が満開になる頃には彼女は何時も楽しそうにしていた。風になびく薄桃色の髪の毛は本当に『美しい』という言葉が良く似合う。
だが、桜の花弁が落ち始める頃。
彼女はどとこ無く元気がない。いつも通りに話をしていると少し咳をしている気がした。
風邪だろうか…。
季節の変わり目ということもあってか毎年、彼女は風邪をひいていた。
『家まで送ろうか?』と聞くと『大丈夫〜…』とまた微笑まれておしまい。
私は彼女の家を知らない。毎日、夕方になると帰されてしまう。
桜の花弁が少ししか残らなくなると彼女はあの場所にあまり来なくなる。体調が悪化したのだろうか…お見舞いに行きたい、と毎年考えるも結局家を教えて貰えずに終わる。
毎年そんな状況になっても彼女は1度だけ来てくれる。そんな時に彼女はこれだけを言って帰ってしまう。
『また来年』と。
桜の花弁が全て落ちる。すると、彼女はいなくなる。寂しい、けど深くまで知ってはいけない気がする 。
私は春が好き。彼女に会えるから。
桜の匂いが好き。彼女と似ているから。
桜が好き。薄桃色が好き。
私は、
ううん。やめておこう。
だけれども、少し春が嫌いでもある。
彼女が居なくなってしまうから。
なんて、変な感情。
だけどやっぱり
彼女と過ごせる春が好き。