【 となりにいたくて 】: smkn
kn視点
kn「付き合って、ください」
sm「あの、その…」
sm「ごめん」
sm「別に同性愛とかはあっていいと思うけど、あくまで俺の恋愛対象は男じゃない。」
鮮やかに彩られた銀杏並木の下、俺の恋物語は幕を閉じた。
ただただ去っていく彼の背中を見つめる。
心にぽっかり穴が空いたような感覚と優しく背中を押してくれる乾いた風。
うーん、でも
まあ、いっか。
こんな気持ち、寝て起きたら忘れてる。
なんで。ふざけるなよ。
最低。人の気持ち考えてない。
わけわかんない。馬鹿なのか。
俺のことはどうでもいいんだ。
俺じゃだめなんだ。
昨日に置いてきたはずの感情。
小柄で髪の長い人と手を繋いで歩く彼をみて、簡単に蘇る。
ほんと、ありえないよね。
なんで俺は男として生まれてきたんだろ。
もしこれが女として生まれてきてたら?
結ばれたのかな。
俺の気持ちは理解して貰えたのかな。
そうか、
あの人みたいになればいいんだ。
それからというもの、圧倒的な行動力で目指すべき姿に少しずつ近づいていった。
たくさん時間をかけた。
たくさんお金をかけた。
たくさん力を借りた。
たくさん愛を込めた。
そして、たくさんのものを得た。
5年間ケアを頑張って綺麗に伸ばした黒髪。
清潔感のために通い続けた全身脱毛。
教室に通って、インターネットで調べて、自信になったメイク。
通帳の数字が何桁か無くなったけど、理想に近づけた整形と陰茎切除。
体型を作るために乗り越えた食事管理。
身体を綺麗に魅せるために通ったピラティス。
それらの費用を貯めるために頑張ったすごく儲かる仕事。
辛かったよ。
でもすまいるのためなら、なんだって頑張れる。
周囲から見て違和感のないように作り声だって頑張って練習した。
これでやっと結ばれるんだ。
数年ぶりに彼に一通のメッセージを送る。
『3丁目の銀杏並木で会える?』
楽しみだなぁ。
かわいいねって、言ってくれるよね。
綺麗になったねって、言ってくれるよね。
頑張ったんだねって、言ってくれるよね。
付き合ってっていったら、いいよって言ってくれるよね。
kn「久しぶり!」
sm「ぁ…えっと、どなたですか?」
kn「きんとき!…覚えてるよね?」
sm「…は?」
kn「俺ね、振られてから頑張ったんだよ! 」
sm「適当なこと言わないでください、俺人待ってるんで 」
kn「だから俺だってば」
信じられない、なんて顔する彼に笑いが零れる。
やっぱすまいるって面白い。
kn「ね、俺だって」
いつになっても疑いの目を向けてくる彼に俺の元々の声を聞かせてあげる。
びっくりするだろうな。
sm「え、お前ほんとにきんときなの?」
kn「そうだよ!」
そう、俺が見たかったのはその顔。
目を見開いて、びっくりして、
でもどこかキラキラした眼差しを俺に向けるその表情。
やっとその顔がみれ
sm「お前馬鹿なの? 」
kn「…ぇ、?」
sm「…それは流石に無理だわ」
kn「ど、ういうこと…?」
sm「今になってまでお前が告白してきたら前向きに考えようとか思ってたのに。」
kn「ほんと!?」
やった。やったよ。
やっぱり俺のこと大好きなんだ。
あの時はまだわからなかった愛が今では伝わるんだね。
sm「いや、まだ終わってないから」
sm「前向きに考えようとは思ってたけど、今のお前とは付き合う気ない」
kn「…なんでよ」
sm「随分変わったな」
sm「方向間違えたんじゃねぇの」
sm「じゃあな」
ねぇ、すまいるはさ、
何度俺を捨てるの。
何度俺を傷つけるの。
どうしてそんなにも俺が嫌なの。
どんな俺だって愛してよ。
昔は今の俺みたいな人が好きだったのに、
今では昔の俺がいいなんて理不尽だよ。
あぁ、酷い世界だね。
じゃあ、俺は今日までなんのために頑張ったの。
なんのために時間を、お金を、労力を、使ったっていうの。
裏切った当の本人はそれを返してくれないじゃん。
無駄だったってことなの。
数年間の人生を否定されたってことなんだよね。
今の俺は全部がだめなんだ。
なんでだめなの。
こんなにも頑張って自信持てて、理想だって叶えたのに。
どうしてそれが否定されてしまうの。
簡単に否定ができるの。
俺はなにも間違ってない。
正しい道を選んできたの。
例え間違った道を選んだとしても、その道を正解の道に変える努力はいっぱいした。
なのにそれらはなにも見てくれない、感じてくれない。
君に受け入れてもらうために頑張ったのに。
変わったのに。
今、俺はすまいるの恋人じゃない。
今、俺はすまいるの横にいない。
今、俺はどんな姿をしている。
今、俺は何故ここに立っている。
今、俺は昔の俺とは変わった。
今、俺は
誰なんだ。
俺じゃない誰かがいて、
俺はどこにいったんだ。
どこに置いてきたんだ。
私、なのか。
俺は、なにだ。
俺は、どこにいけばいいんだ。
私は、なにをすればいいんだ。
これからって、どうするの。
今から0に戻すなんて、できないよ。
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