テラーノベル
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窓の外は、数日前から降り続く雨のせいで、灰色に霞んでいる。
伊達工業の重厚な校舎も、どこか湿っぽく冷えて見えた。
「……最悪。今日に限って傘忘れるとか、ありえないんだけど」
放課後の昇降口。
麗奈は、激しく地面を叩く雨粒を眺めて立ち尽くしていた。予報を見落とした自分にため息をついた、その時だった。
「……麗奈さん。あんた、意外と抜けてますよね」
背後から聞こえてきた、聞き慣れた生意気な声。
振り返ると、肩に部活のバッグをかけた二口が、片手にビニール傘を持って立っていた。
「二口くん。部活は?」
「自主練。……ってか、そんなことより、これ。使えば?」
二口は無造作に傘を差し出したが、麗奈が受け取ろうとすると、ひょいとそれを高く掲げて避けた。
「……でも、これ一本しかないんでしょ? 一緒に入ってあげてもいいっすよ。……あ、嫌ならいいですけど」
「ふふ、そんな言い方しなくてもいいのに。……じゃあ、お願いしようかな」
駅までの帰り道。一本の傘の下、二人の距離は必然的に近くなる。
麗奈の右肩に、二口の左肩が時折ぶつかる。そのたびに、雨音をかき消すほど大きな鼓動が、二口の胸の中で暴れていた。
「……二口くん、傘。私の方に寄りすぎじゃない? 左肩、濡れてるよ」
「……別に。俺、体格いいんで。麗奈さんみたいな細い人が濡れたら、すぐ風邪引くでしょ。受験生なんだから、体調管理くらいちゃんとしてくださいよ」
ぶっきらぼうな物言い。けれど、二口の持つ傘は、明らかに麗奈の方へと大きく傾けられていた。
麗奈は少しだけ足を止めて、彼の濡れた肩にそっと手を添える。
「……ありがとう、堅治くん。優しいね」
「……ッ、だから! 優しくなんかないって言ってんでしょ! 掃除当番代わってもらうための貸しだから!」
名前で呼ばれた瞬間、二口は傘を持つ手に力を込めて顔を背けた。
雨の冷たい空気の中で、彼の一番星のような耳だけが熱を帯びて赤くなっている。
二口は、麗奈を雨から守るように、空いた方の手で彼女の肩をそっと抱き寄せた。
(……小さ。こんなに細いのに、なんであんなに余裕なんだよ)
「ねえ、麗奈さん」
「なあに?」
「……雨、止まなければいいのに」
ボソリと呟いた本音は、激しい雨音に紛れて、麗奈の耳には届かなかったかもしれない。
けれど、二口は繋がれた足跡を見つめながら、この湿った静寂がずっと続くことを、心のどこかで願っていた
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コメント
2件
ニロやっぱお前かわいいよ
続き楽しみに待ってます!