テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ネルとティナをフェリスさんに預け、私たちは帰宅の途についた。ふたりは事件が解決するまで児童養護施設に帰ることは出来ないだろう。皆で仲良く懇親会の準備をしていただけ……それがこんな展開になるだなんて想像もしていなかったはず。別れ際に見た彼女たちの心細そうな姿を思い出すと居た堪れない気持ちになってしまう。
あのふたりを事件に巻き込んだ『予言者』……一体どんな人物なんだろうか。ネルとティナが実際に会っているので、簡単に正体を突き止められると思っていたのに――――
「ルーイ様。早くレオンたちに報告しに行きましょう。今回は長くなりそうです」
「そうだな。とりあえず俺がメインで喋るから、クレハはフォローを頼む」
「はい」
「はぁ……これからどうなっちゃうんだろうなぁ」
「まずは殿下のご意見を聞いてみないことにはね。私たちだけで悩んでいても仕方ないから」
クラヴェル兄弟も神妙な面持ちをしている。彼らにはまだ『予言者』についての詳細を話していない。それでも私とルーイ様のただならぬ雰囲気を察して心配してくれている。
「姫さんが帰ってきたってのにボスが出てこないし……」
ルイスさんがため息混じりに呟いた。そういえば、今回はレオンのお出迎えが無かった。彼の振る舞いを大袈裟だと笑っていたけど、いざそれが無くなってしまうと落ち着かない。
たまたま手が離せなかっただけだろう。彼は捜査の責任者で忙しいのだ。分かっているはずなのについ嫌な想像をしてしまう。まさか……こちらでも何かあったのだろうか。
歩き慣れているはずの自宅の廊下でさえどこか恐ろしく見える。安全な場所なんてどこにもない。そん風に感じてしまう。ある程度覚悟はしていたが、『予言者』という存在の発覚に、私の心は相当に乱されていた。
レオンの部屋の前まで到着すると、紺色の軍服を着た兵士たちが慌ただしく退室していく所に遭遇した。竜胆の襟章が見えたので、彼らは一番隊の隊員だ。
レオンが出迎えに来なかった理由が分かった。きっと一番隊も私たちと同じで調査報告をしに来ていたのだろう。レオンはその対応をしていたのだ。
一番隊の兵士と上手い具合に入れ違いになったので、私たちも彼らに続いてレオンに報告を行うことにしよう。私は部屋の扉をノックした。
「レオン、クレハです。聖堂での調査を終えて、ただいま戻りました」
室内に向かって呼びかけると、目の前の扉はすぐに開いた。扉を開けてくれたのはセドリックさんだ。現在部屋の中にいるのは、彼とレオンのふたりだけのようだ。
「失礼致します」
「おかえりなさい、クレハ。出迎えができなくて悪かったね。さあ、こっちにおいで。先生たちもどうぞこちらへ」
レオンはソファに座っており、そこで書類に目を通していた。さっきの兵士たちが提出したものだろうか。やはり立て込んでいたみたいだ。テーブルの上に広げていた書類を手早く片付けると隅の方へ移動させた。私たちに見せないためだろうか……
「今日のクレハはずいぶんと雰囲気が違うね」
「あっ、えっと……これは」
私はまだ『ラリー』の格好のままだった。報告をすることに意識を持っていかれ、着替えるのをすっかり忘れていたのだ。
「この子は俺の助手のラリーだよ。急ごしらえの変装にしては上出来だろ。レオン」
何故かルーイ様は得意げに『ラリー』の紹介を始めた。黒色のウィッグに眼鏡をかけただけなので変装というほどではないが、『ラリー』の姿を鏡で確認した時、自分でも一瞬別人に見えたのでそれなりに効果はあったと思う。
「ええ。銀髪のクレハに黒髪を合わせるなんて思い切りましたね。でも、とても可愛いらしいです。眼鏡も似合っているよ。なあ、セドリック」
「はい。ガラリと印象が変わって驚きましたが、どちらのクレハ様も素敵ですよ」
「ありがとうございます。レオン、セドリックさん」
「こんな時でなければ、この格好のクレハとデートにでも行きたいところなんだけどね」
レオンの口からため息が溢れていた。私の変装の話題でちょっぴり空気が和んだけど、やはり雑談を交わせるほどの余裕はなさそうである。直前まで彼が確認していた報告書らしき書類にはどんなことが記されていたのだろうか。
854
ふらん
海の紅月くらげさん
「あの……先ほど廊下で一番隊の兵士たちとすれ違いましが、何かあったのですか?」
「はい。実は……」
「セドリック」
私の質問に答えようとしたセドリックさんを制したのはレオンだ。やはり彼は問題が起きたのを隠そうとしているのか。どうして……?
困惑している私に気付いたレオンは、自身の行動の理由を語る。
「あの兵らはバルカム司祭の動向を探るためにレンツェに派遣した者たちだ」
「バルカム司祭を……」
「ああ……だけど、現地で少々トラブルが発生したようでね。それで急いで知らせに戻ったらしい」
「そうだったんですか。どうりで……慌ただしくされているなと思っていたのです」
「不確定要素も多いから、まだクレハたちに詳細は伝えられないけど……確認が取れたらすぐに知らせるからね」
レンツェでトラブルか……
レオンは言葉を濁しながらも私たちにそう説明してくれた。隠しているというより、今はまだ言えないというのが正しいようだ。少々納得のいかない気持ちもあるけど、レオンを信じて待つことにしよう。
ルーイ様やクラヴェル兄弟もこの件について言及することはなかった。心なしか……彼らの表情は事態を察してるいるようにも見える。
「司祭のことは一旦置いておくとして……。今はクレハたちの話を聞かせて貰いたいな」
レオンは早々にバルカム司祭の話を終わらせてしまう。その後はこちらに話題を振ってきてくれたので、私たちも聖堂での出来事を報告するとしよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!