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二つのグラスにワインを注いで、「乾杯」と、縁を軽く合わせた。
「……今日は、ありがとうございました。本当にうれしくて……」
「君がうれしいと思ってくれたなら、私も甲斐があったと……」
「ええ……」
「ああ……」
もしかしたら彼も私と同じような気持ちを抱えていてか、ワインを少しずつ口にしながらの、どことなくもどかしげな会話が続いた。
「……貴仁さん、その、ワインを飲んだら、今日は……後は、どうされますか?」
共に夜を過ごしてほしくて、だけどそれを敢えて言い出すこともできなくて、ちょっとだけ遠回しに尋ねてみた私に、
「もう少しいっしょにいようか。君さえ良ければ」
と、好意的な返事が戻った。
「……はい、いてください。もう少しだけ……ううん、もう少しだけ長く……」
心の内を恥じらいつつ口にする。
「ああ、もう少し長く……いや、もっと長く、ずっと君といたい」
彼の声から伝わる温かな愛情に包まれると、ワインが急にまわったみたいに頬が赤らんだ。
グラスに残るワインの一口を飲み終えてしまうと、いざ夜を共にとは乞うたものの、どうモーションを起こせばいいのかも考えつかなくて、いつまでもうつむいてグラスの底をじっと見ていた。
すると彼が席を立ち、私の頬にふっと手の平で触れた。
「どうした? うつむいたりして。もう酔ったんだろうか?」
「ううん」と、首を振る。もし酔ったとしたら、あなたに……とは思うけれど、無論そんなことが口に出せるわけもなく、
ただもう一度、無言で首を振った。
「酔ってはいないのか? うん?」
椅子の脇に片膝をついた彼が、下へ向けた私の顔を覗き込む。
ああそんな真近で見つめられたら、ますます顔が火照って……。
「顔が、熱いな」
両手で頬が挟まれ、それこそ顔から火が出そうにも感じつつ、
「……だっ、て……近、い……」
ようやくか細く声に出した。
「私の、せいか?」
そう彼に問われ、コクっとだけ頷くと、
座っている椅子から、やおら身体が抱き上げられた。