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第1話:予期せぬ誘い
若井side
「良いお知らせって、なんだよ。俺は今、写真部の課題で頭悩ませてるところなんだ」
「えー、若井って、夏休みでもそんな真面目に悩むんだね!でも、これ、その課題にぴったりだと思うんだ!」
涼架はそう言って、唐突に人差し指を立てた。その仕草すら、どこか抜けている。
「なんだよ、もったいぶらずに言え」
「うん、あのね!今年の夏、僕のおばあちゃん家に来ない?」
俺は一瞬、言葉の意味が理解できず、涼架の顔を見つめ返した。
「……は?おばあちゃんの家?なんで俺が」
「えー、だって若井、さっき課題で悩んでるって言ってじゃん?僕のおばあちゃんの家ね、すごく良い場所なんだよ」
涼架は目をキラキラさせて言った。
「良い場所って、どんなとこだよ。テーマが決まらないのに、場所言われても困る」
「んーとね、古民家がいっぱいあって、周りは山と海!すごく静かで、時間がゆっくり流れてる感じ。都会じゃ絶対撮れない写真、たくさん撮れると思うんだ!」
古民家、山、海。確かに、「都会の喧騒から離れた場所」という設定は、写真のテーマとして魅力的だ。
だが、涼架と二人で、しかもその祖母の家に泊まりに行くというのは、どう考えても突飛すぎた。
「待て待て、落ち着け。なんで俺なんだよ。お前、他にも友達いるだろ」
「いるけど、若井が一番いいんだもん」
涼架はあっさりと言い放った。
「なんでだよ」
「えーとね、まず若井は写真撮るの上手いから、僕の秘密の場所を撮ってほしいなっていうのと。あと、僕、おばあちゃん家に行くといつもだらだらしちゃうから、若井みたいなしっかりした人がいてくれたら、少しはシャキッとするかなーって!」
涼架は「だらしない」という自覚があることに驚いたが、その理由が俺を誘う根拠になっているこ とに、なんとも言えない拍子抜け感があった。
要するに、俺は監査役か世話係ってとこか。
「……ふざけんな。俺はお前の引率係じゃない」
「そんなこと言わないでよ!おばあちゃんも僕が友達連れてくるのすごく喜ぶと思うし、ご飯も美味しいし、犬もいるよ!」
犬、か。動物のポートレートも悪くないかもしれない。何より、涼架が言う風景への好奇心が俺の内に抱えていた閉寒感を少しだけ押しやった。
「場所はどこなんだ?」
俺はため息まじりに聞いた。
「うーんとね、電車を乗り継いで、最後はローカル線に揺られて……結構遠いよ。スマホの電波もちょっと怪しいかも」
スマホの電波が怪しい。それはつまり、俺が今抱えている進路や課題の焦りから、完全に切り離される時間が作れるかもしれないということだ。
俺は、カメラのストラップを握りしめ、しばらく考え込んだ。
このままここで悶々とするよりは、何か新しい環境に身を置いた方が、活路が見出せるかもしれない。
そして、涼架の言う通り、撮るべきものが見つかるかもしれない。
「わかった」
「え?わかったって、何が?」
涼架はきょとんとした顔で聞き返してきた。
「行く、って言ってんだよ。ただし、条件がある」
「やったー!何でも言って!」
涼架は飛び跳ねそうなほど嬉しそうだ。
「一つ。俺は写真部の課題で行くんだ。お前のだらけた生活の相手をするつもりはない。好きなように撮影させてもらう」
「もちろんだよ!若井が好きなだけ撮れるように、僕がサポートする!」
「二つ。俺が撮りたいものを撮る。お前が変なモデルごっこを強要するなら、すぐ帰る」
「しないしない!若井が撮りたいものがあればそれに付き合うよ」
涼架の満面の笑顔を見て、俺はなんとなく、このふわふわした提案に乗ってみるのも悪くないかもしれない、と思い始めていた。
俺の夏休みは、この天然な誘いによって、意図せず方向転換することになったのだ。
「じゃあ、いつ行くんだ?」
「えーっとね、来週の火曜日!チケット取っちゃうね!」
涼架は慌ててリュックからスマホを取り出し始めた。その動きすら、なんだか頼らなくて、俺はつい口を出してしまう。
「おい、待て。チケットは、ちゃんと俺に相談してからにしろ。本当に頼りにならねえな、お前は」
「ごめんごめん!若井が来てくれるなら、もう大丈夫な気がして!」
ため息をつきつつも、どこか期待している自分がいた。
この夏、この掴みどころのない「藤澤涼架」という存在が、俺のファインダーに、どんな景色を映し出すことになるのだろうか。
次回予告
[ローカル線に揺られて]
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コメント
2件
涼ちゃんが天真爛漫すぎるwいいコンビなこと
続きが楽しみですれ