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始まりの場所で待ってる
病室のベッドの横で、俺は長い足を小さく折り曲げて、パイプ椅子に腰掛けていた。
「ラウ、またちょっと背伸びた? ベッドの横に立つと、お前本当に天井に届きそうだな」
ふっかさんは、鼻につけた酸素チューブを気にすることもなく、いつものあの、ちょっと気の抜けた優しい声で笑った。
頬はすっかり痩せて、肌も白くなってしまっているのに、俺を見つめるタレ目は、あの15歳の頃に出会った時から何も変わっていなくて、それが余計に胸を締め付けた。
「伸びてないよ。ふっかさんが小さく見えるだけ」
俺はわざとぶっきらぼうに言った。そうでもしないと、声が震えてしまうから。
右も左もわからず、グループに加入して、批判の嵐に晒されていた15歳の頃。泣いていた俺をいつも車に乗せて、美味しいものを食べさせてくれて、「ラウールは今のままで最高だから」ってずっと守り続けてくれたのが、最年長のふっかさんだった。
そのふっかさんが、もうすぐいなくなる。
医者から告げられたタイムリミットは、もうすぐそこまで迫っていた。
「なぁ、ラウ」
ふっかさんが、布団からゆっくりと細い手を伸ばし、俺の手をそっと握った。
「俺さ、お前がSnow Manのセンターで、本当に良かったよ」
「……急に何、言ってるのさ」
「だってさ、最初はあんなに小さくて、すぐ俺の後ろに隠れて泣いてた男の子がさ、今じゃこんなにかっこよくなって、世界中のランウェイ歩いたり、グループを引っ張ってくれてる。俺、本当に誇らしいんだよね」
ふっかさんは誇らしげに、でも少し寂しそうに目を細めた。
「だからさ、俺がいなくなっても、ラウールは絶対に立ち止まっちゃダメだよ」
その言葉に、ずっと堰き止めていた感情が溢れ出した。
「……無理だよ! 立ち止まるよ!」
俺はふっかさんの手を両手で握りしめ、子供みたいに大粒の涙をボロボロと流した。
「ふっかさんがいないSnow Manなんて、僕、どうしたらいいかわかんないよ……! 最初からずっと、ふっかさんが僕の後ろにいてくれたから、僕は安心して前だけ見て走れたんだよ。お願いだから、置いていかないでよ……!」
泣きじゃくる俺を見て、ふっかさんは困ったように笑って、自由になる方の手で、俺の頭を優しく撫でてくれた。昔、何度もそうしてくれたみたいに。
「置いていかないよ。俺はさ、ラウールが15歳の時に出会った、あの『始まりの場所』にずっといるから」
「始まりの場所……?」
「そう。お前が不安になった時、いつでも戻ってこられるように、俺は心の中でずっと待ってる。だから、怖くなったら思い出して。俺はお前の絶対的な味方だから。……最年長からの、最後の命令な。胸張って、その長い足で、もっともっと遠くまで進め、ラウール」
ふっかさんはそう言って、俺の涙を親指でそっと拭い、満足したようにゆっくりと瞳を閉じた。
まるで、大仕事を終えて、深い眠りにつく父親のような、本当に穏やかな横顔だった。
その数日後、ふっかさんは静かに旅立った。
最期まで、メンバー全員に見守られながら、いつもの優しい顔のままだった。
それから、数年が経った。
東京ドームのステージの上、割れんばかりの歓声の中で、俺はセンターに立っている。
ふと横を見ると、あの優しい最年長の姿はそこにはない。
でも、プレッシャーで押しつぶされそうになった時、胸の奥でふっと、あの優しい声が聞こえる気がするんだ。
『ラウール、お前は最高だから。胸張っていけ』
「ふっかさん、見ててね」
俺は涙を拭い、客席の紫色のペンライトの光を見つめながら、一歩を踏み出した。
悲しくて立ち止まることは、もうしない。
俺の後ろには今も、あの優しくて、誰よりも頼れる最年長がいて、ずっと俺の背中を守ってくれているから。
コメント
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もう、読んでて胸がぎゅーってなりました……。ふっかさんの「始まりの場所で待ってる」って言葉が、優しすぎて、強すぎて、涙が止まらなかったです。最後のステージでふっかさんの声が聞こえる描写、あれがもう、存在がそのまま祝福になってるみたいで。ラウールが小さかった頃の思い出と、今のドームの景色が重なる構成がすごく綺麗でした。明星宵さんの、キャラへの愛がじんわり伝わるお話、大好きです。
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