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#ファンタジー
138
ロクシャとの奇跡の勝利の後——
泣く者がいた。
笑う者がいた。
ユイ軍の者たちは、それぞれ胸に熱を抱きながら、城へと帰還した。
だが、
その中心に立つべき主は、誰一人を労うことなく、私室へと姿を消した。
血に染まった兜を外し、
鎧を脱ぐ。
ユイは、それらを一つひとつ、丁寧に拭った。
「ユイ様、それは私が——」
ばあやが声をかける。
「いい。俺がする」
静かな拒絶だった。
「……祝杯には、顔を出されますか?」
「出ない。下がれ」
それ以上、言葉は交わされなかった。
ばあやは振り返り、名残惜しそうに一礼して部屋を出た。
血の痕をすべて拭い終えると、
ユイは鎧架に鎧を掛けた。
その動きが、ふと止まる。
「……兄様……」
声は、掠れていた。
二人で使っていた私室に、
ユイの嗚咽だけが落ちていく。
鎧に触れ、
そこに残る気配に、在りし日のセイカを重ねる。
「……よく、やったよね……俺……」
言葉は続かない。
「だから……また……会いにきて……」
嗚咽が、声を引き裂く。
その夜、
私室に響いていたのは、
ただ一人の主の、すすり泣きだけだった。
いつまでも。
いつまでも。
「兄様っ……!!」
毎晩、ユイは同じ夢を見る。
目覚めるたび、セイカはもういない現実に引き戻され、嗚咽する——
セイカの着物を着て、
セイカの布団で眠り、
肌身離さず、セイカの髪を懐に忍ばせる。
明るくなり始めた庭へと視線を向けると、
涙で滲むその先に、あの番いがいた。
「……お前たちは、絶対に離れるなよ……
死ぬまで、一緒にいろ……
死ぬ時も……一緒にな……」
それは、祈りにも似た、消え入りそうな声だった。