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ロクシャとの奇跡の勝利の後——
泣く者がいた。
笑う者がいた。
ユイ軍の者たちは、それぞれ胸に熱を抱きながら、城へと帰還した。
だが、
その中心に立つべき主は、誰一人を労うことなく、私室へと姿を消した。
血に染まった兜を外し、
鎧を脱ぐ。
ユイは、それらを一つひとつ、丁寧に拭った。
「ユイ様、それは私が——」
ばあやが声をかける。
「いい。俺がする」
静かな拒絶だった。
「……祝杯には、顔を出されますか?」
「出ない。下がれ」
それ以上、言葉は交わされなかった。
ばあやは振り返り、名残惜しそうに一礼して部屋を出た。
血の痕をすべて拭い終えると、
ユイは鎧架に鎧を掛けた。
その動きが、ふと止まる。
「……兄様……」
声は、掠れていた。
二人で使っていた私室に、
ユイの嗚咽だけが落ちていく。
鎧に触れ、
そこに残る気配に、在りし日のセイカを重ねる。
「……よく、やったよね……俺……」
言葉は続かない。
「だから……また……会いにきて……」
嗚咽が、声を引き裂く。
その夜、
私室に響いていたのは、
ただ一人の主の、すすり泣きだけだった。
いつまでも。
いつまでも。
「兄様っ……!!」
毎晩、ユイは同じ夢を見る。
目覚めるたび、セイカはもういない現実に引き戻され、嗚咽する——
セイカの着物を着て、
セイカの布団で眠り、
肌身離さず、セイカの髪を懐に忍ばせる。
明るくなり始めた庭へと視線を向けると、
涙で滲むその先に、あの番いがいた。
「……お前たちは、絶対に離れるなよ……
死ぬまで、一緒にいろ……
死ぬ時も……一緒にな……」
それは、祈りにも似た、消え入りそうな声だった。