テラーノベル
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乱闘が終わり、静けさを取り戻した路地裏。
ベンチ代わりの階段に腰を下ろしたこさめは、鼻血をティッシュで押さえながら笑っていた。
「うわー、めっちゃ出てんじゃん俺!でも今回はマジでいい動きしたと思わん?」
「……何が“いい動き”だよ、バカ」
低く呟く声。
横からスッと差し出されたのは、綺麗に畳まれたハンカチだった。
「……らんくん」
「じっとしてろ」
らんはしゃがんで、こさめの顔を覗き込みながら、そっと鼻血を拭った。
その手は荒っぽく見えて、驚くほど優しい。
「ったく、おまえ……どんだけ怪我してんだよ」
「へへ、だってさ、あいつらめっちゃしつこかったし……俺も頑張ったでしょ?」
自慢げに笑うこさめに、らんはため息をつきながらも、目を細める。
「……ああ。よく頑張ったな、おまえは本当に」
その声は、本当に心からのものだった。
こさめが一瞬、黙る。
そして少し照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。
「らんくんに褒められるとさ、なんか変な感じするな。くすぐったい」
「……おまえさ」
らんの手が、そっとこさめの頬に触れる。
「俺がどんだけおまえのこと大事に思ってんのか、わかってねぇだろ」
「……え?」
「怪我するたび、心臓が止まんじゃねぇかってくらい焦んだよ。ふざけんなよ……ほんと」
その声は、怒っているというより――不安を押し殺すような、かすれた声だった。
こさめは不意に真顔になり、らんの手を自分の頬に当てたまま、ぎゅっと目を閉じた。
「……ごめん。でも、俺、らんの隣にいたいんだ。だから、がんばりたくて」
「……バカ」
そう言って、らんはこさめの頭を乱暴に撫でる。
でもその手には、決して怒気も苛立ちもなかった。
「がんばんなくていい。おまえが無事で笑っててくれりゃ、それで十分だ」
「……うん」
こさめは小さく頷いて、らんの胸元にそっと顔を預けた。
夜の静けさの中で、
2人の距離は、確かにひとつになっていた。
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