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クォンにソルジャーギアを案内された一同は、話の流れでソルジャーギアの施設内に宿泊をする事になった。
顔合わせは済み、部屋の準備も手伝えるような事は無いので、一旦ソルジャーギアから出る事にした。
「なんか得しましたね」
「リージョンシーカーとのコウリュウだからな? あとでシゴトしろよ」
サイロバクラムの治安を守っている組織という事で、同じくリージョンのトラブル解決の仕事もしているリージョンシーカーと提携する計画が進んでいた。
今回は王女もいるので、せっかくだから大々的に交流会をしようという話になったのだった。ソルジャーギアの上層部は結構ノリノリである。
「でもダンスパーティーの企画まで出されるとは思わなかったわ」
「テリアって、おどれるのか?」
「ちょっとだけなら出来るけどねぇ。暴れる方が得意かな」
「だよなぁ」
「現実のお姫様って、ノベルとは違うなぁ……」
ネフテリア達の会話を聞いたクォンは、後ろで現実と空想のギャップに悩まされていた。
他にも貴族らしさをイメージした挨拶や、大き過ぎるテーブルでの食事会など、色々企画されていたが、王女からの不思議そうな視線で大部分が無かった事にされた。特に『貴族らしさ』を重視しまくったダンスパーティーの催しには、苦笑いしか浮かばなかった。
そもそもエインデル王国は貴族制度を廃止済みなのだ。ダンスパーティーはあっても、民間の伝統好きが集まる趣味の世界でしかない。
「だって、ホールでドレス姿のお披露目は一応王族だからやった事あるけど、このリージョンに無い文化で頑張られてもねぇ。そもそもドレスっていう服が無いでしょ。それにメイド役をやろうって人が、なんか頭に木のブロック乗せて歩いてたし。そんな無理しなくてもいいよ……」
「時代遅れなのよ?」
「……一応他の国ではダンスパーティーとかやってるよ? だいぶ閉鎖的な国だけど」
「へぇ……」
ファナリアの貴族社会が廃れていったのは、他リージョンとの交流がきっかけである。ハウドラントにしろラスィーテにしろ、貴族という考え方が無かったので、権力など一切通用しなかった。
もちろんそれだけが理由ではない。万能な魔法に比べて一点特化の異能力は、魔法を物理的に防ぎ、高速で空中を動き回り、簡単に魔法使い達を捕縛していった事もある。そんなやり方で血を流さずに1国を制圧し、ニッコリと友好を求めたリージョンシーカーの創立者に、当時のエインデル国王は首が取れるかと思われるような勢いで縦に振ったという。
「ノベルにあるような横暴な貴族とか、期待してたのになー」
「なんでそんなものに期待するかな。そのノベルってのは、ちょっと気になるけど」
「そういえば毎日が楽しくて、ノベルの事を話してませんでしたね。今度教えますよ」
「うん、楽しみにしてる」
後ろの甘い雰囲気になった2人に呆れながら歩いていると、ソルジャーギアの入口へとたどり着いた。
「よーし、それじゃあまた後で」
「ピアーニャちゃん、良い子にしてるのよ。テリアの言う事よく聞いて──」
「おまえ、ちょっとだまれ」
ここからは別行動である。クォンは半分仕事としてピアーニャやネフテリアを案内し、少しだがサイロバクラムを知ったムームーがミューゼ達を案内する事になっていた。
ここぞとばかりにピアーニャを心配する……フリをしていじっている。1人以外は。
「ぴあーにゃ、いいこ。てりあ、だいじょぶ」
「うん、うん。よく分からないけど、ピアーニャちゃんの事はまかせて」
「てりあ、まかせて、ぴあーにゃ!」
「うん、大丈夫よ、大丈夫。よしよし~……ミューゼ、おねがい、ほんやく」
「うつってますうつってます。まぁたぶん、ピアーニャちゃんの事をよろしくって意味で合ってます」
アリエッタとネフテリアの間で、諦めにも似た表情のピアーニャが俯いている。ワナワナと震えているが、アリエッタには寂しがる妹分にしか見えていない。
(可哀想だけど、てりあに任せれば安心安心。僕は僕でこの新天地をしっかり見なきゃいけないし。こんなどこかのゲームみたいな世界、なかなか無いだろうしな!)
今回アリエッタは、サイロバクラムを観察し、ミューゼに許可を貰って絵を描く事を目標としている。それほどまでにブロックで出来たような世界に衝撃を受けたのだ。
文句を言いまくりたいピアーニャだったが、何か言うとアリエッタと同行させられてしまう危険性があった為、今はひたすら我慢している。後でネフテリアを殴る気満々である。
「それじゃ、夕方までにここに戻ってくること。食事は豪勢らしいからね」
「はーい」
「また後でなのよー」
別れた2組は、早速それぞれ別方向へと歩くのだった。
「行ったか?」
「はいっ」
窓からネフテリア達を見ていたソルジャーギアの一員は、急いで上司である隊長の元へと戻り、報告した。
その隊長の前には、男女問わず数十名の隊員が整列している。
「知っての通り、本日ファナリアから本物のお姫様が来て下さった!」
もはや絶叫となっているその言葉に、隊員たちが騒めく。
「お前達の言いたい事はよーく分かる! 我々が愛読していたノベルとはギャップが凄すぎて理解が追い付かなかった者もいるだろう! だが正真正銘本物だ!」
騒めきは徐々に大きくなっていく。
「そして、なんとこのソルジャーギアにお泊りになられるそうだ!」
ここで騒めきから叫びへと変化した。
負けじと隊長も声を荒げる。
「お前ら! 全力でもてなすぞ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
建物が震える程の大絶叫。ネフテリアの影響で、テンションが無駄に爆上がりしているソルジャーギア隊員達。
この後、受付嬢によって近所からの苦情を伝えられ、全員テンションをがっつり落として準備に励むのだった。
「なんか遠くから野太い叫び声が聞こえたのよ?」
「気持ち悪い野獣でもいるのかしら?」
アリエッタ達4人は、のんびりとコロニー内を歩いていた。
先頭を歩いている姿を見て、ムームーが案内をしてくれているという事を理解したアリエッタは、ちゃっかりムームーの隣で歩いていた。
「周りに興味深々だね。ほら危ないよ」
「ぁう? ありがとなのっ」(むーむーも優しいなぁ。親近感もわくし、なんだか仲良くなれそうな気がする)
「ふふ、どういたしまして」(不思議だなぁ。なんでこの子は他人な気がしないんだろう?)
以前からお互いに何かを感じていて、2人はすっかり仲良しだったりする。その様子には、ミューゼとパフィが時々嫉妬する程である。
「なんであんなに仲が良いのよ……」
「クォンという女がありながら、あたしからアリエッタを奪うとは……」
仲が良い理由など、他人どころか本人にも分かっていない。ミューゼとパフィは悶々としながら、どうやったらアリエッタの気を引けるのか、真剣に悩んでいた。会話があまり分からない事を良い事に、本人の後ろで堂々と相談し合っている。
「まずは穏便に……ムームーを闇討ちするのよ」
「そうね。肉食系の植物を出せば、証拠も残らないわ」
(ちょっと後ろ! 何怖い話してんの!?)
ムームーは背中に刺さる視線が怖くて、後ろを振り向けないでいる。しかし最初の目的地が近づいてきたので、振り向かざるを得ない。
「あ、あのー…ふたりとも? ヒッ」
恐る恐る振り向いてみたら、思わず悲鳴がちょっと漏れた。それもその筈、2人は急接近し、表情の抜け落ちた顔でムームーを見ていたのである。
しかし、アリエッタを撫でようとすると、一瞬でデレッとした顔になった。
「だ、大丈夫だから。アリエッタちゃんを盗ったりはしないから。ただの友達だから」
それで一応納得はしたのか、2人は警戒を解いた。表情は普通に戻り、いつも通りムームーに話しかける。
「で、どこに案内されたのよ?」
「あーうん、パフィは食材が気になるかなと思って、近くのそういう店に来たんだけど」
「へぇ~、全部四角なのよ。美味しいのよ?」
野菜、果物は全て四角。飲み物も容器は四角。大小様々な四角の物体が、所狭しと並んでいる。
「……収納には困らない形なのよ」
「うん、綺麗に並ぶよね」
棚には色とりどりの箱が並んでいるようにしか見えない。隣にいるアリエッタも、口を開けてポカンとしていた。
肉類は元々が動物だからなのか、ファナリアと変わらない状態で置いてあるので、妙な安心感を感じている。
「これはクリムのお土産に買っていくしかないのよ。帰りに寄るのよ」
「りょーかい、キープだね」
サイロバクラムならではのお土産を発見し、ご機嫌のパフィ。売っている食材がこれなら、今夜の食事は何が出てくるのだろうと、楽しみになっていた。その前に昼食も気になる所ではある。
「んじゃ、次は花屋さんに寄ってみようか」
「もしかして四角の花? 楽しみ~」
ここに来る途中にも、何度か花は見かけていた。その全てが小さな四角で構成されており、その形は植物として成り立っているのか、疑問に思っていたのである。
すっかり気分を良くしたミューゼとパフィは、先程の嫉妬が嘘のようにムームーと喋りながら歩いていた。それでもアリエッタからは絶対に離れようとしないが。
「ん? なんだろ?」
目的地に向かって歩いていると、前方に集団が言い争っているのが見えた。
通り道を塞がれているので、一旦離れた場所で立ち止まり、様子を見る事にした。
「おーっほっほっほ! その程度の事でこの私が揺らぐとでも? やはりあなた方はしょうもないですねぇ」
「んだとコラぁ! テメーのその頭引っ張ってヒィヒィいわせてやろーかこのクソ女!」
「あ~ら野蛮ですねぇ。そんな事でしか強く出られないのでしょうか?」
「もう許さねぇ、テメェらいくぜぇ!」
様子を見始めた途端に、挑発合戦が終わり、大喧嘩が始まってしまった。
「……なんでこうなってんの?」
「巻き込まれる前に逃げるのよ」
高飛車な雰囲気のツインテール少女と、見た目は頭が良さそうな口の悪い眼鏡少年が、取り巻きを従えて衝突。取り巻きの殆どは男性で、クォン達SG程ではないが、全員1つ2つ武装をしている。
いきなりコロニー内で人が飛び、ビームを撃ち、防ぐ。周辺の人々は逃げ始め、当然ミューゼ達も避難しようと動きだす。
「危なそうな武器なのよ……」
(あれアニメで見た事ある! ビームガンとビームシールドだ!)
争いの中でも特に激しい動きをしていたのが、言い争っていた少年少女の2人。高速で飛び、エーテルを纏って近接戦を繰り広げている。実力は拮抗しているようだ。
少年からの高速飛行タックルを防ぎ、そのまま衝撃を利用して距離を取ったツインテール少女が、目に付いた人物に向かって手招きをした。
「あら、援軍かしら? ちょっとそこの貴女。手伝ってくださいな」
それはアリエッタと手を繋いだままのムームーだった。
「え、わたし?」