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普段、一緒に寝る時は行儀良く小さく丸まって寝るくせに、今日は僕の寝る場所を無くすように、一人で寝るには少し大きいベッドに手足を大の字に放り投げて寝ているのが、拗ねた子供のようでとても愛おしく思った。彼の脚に蹴散らされた毛布を肩までかけ直した後、少しだけ空いていたスペースに腰を下ろし、彼の柔らかい髪を撫でる。昨晩、どうしても終わらせないといけない仕事があり、「まだ寝ないの?」と眠気と少しの寂しさを含んだ声で問いかけてきた彼の誘いを断ったことに対する謝罪と、今日は一緒に寝よう、ということを少し口を開けて寝ている彼に伝える。当然だが返事は返ってこず、彼の小さな寝息と僕の声だけが、静かな寝室に響いた。
かれこれ15分くらい髪を撫でていただろうか。カーテンの隙間から明るい光が差し込み、薄暗かった寝室を優しく照らす。15分も髪を撫でていたにも関わらず、全く起きる気配のない彼はよっぽど深い眠りについているようだ。どれだけ疲れてるんだ、と心配になり顔を覗き込むと、しっかり閉じられた目の下には薄く隈ができており、また無理をしたな、と少し呆れ、彼が目を覚ましたら注意しようと決意する。ここ最近は僕も彼も忙しく、同棲しているものの、一緒にいれる時間は多くなかったため、寂しい思いもさせていただろう。たしか今日は僕も彼も予定がなかった筈だから思う存分甘やかしてあげよう、と考えていると彼が少し身動いだ。起こしてしまっただろうか、と少し申し訳なく思っていると、しっかり閉ざされていた目が薄く開き、ネオンのような綺麗な瞳が見えた。眠たそうな目をしぱしぱと瞬かせながら「かいだ、?」と普段より更に緩い滑舌で名前を呼んでくる。「おはよう」と声をかけると、んぃ、と言葉ですらない音を発した。
もう一度、昨晩の件について彼に謝罪し、今日はたくさん甘やかしてあげるね、と声をかける。昨晩、誘いを断られたことを思い出したのか彼は不満げに、じとっと僕を見つめてくる。 「最近、構ってあげられなくてごめんね、寂しかった?」と彼に問いかけてみると不満と少しの嬉しさを含んだ声で「別に、」と曖昧で素直じゃない言葉を返される。寂しがっていたことなんてわかりきっているのに、未だ誤魔化そうとする彼がいじらしくて、抱きしめたくなる。「寂しくない」と言っていたくせに、未だ彼の柔らかい髪を撫で続けている僕の手に擦り寄ってくる様が気分屋な猫のようで、つい甘やかしてしまう。
かわいいな、と思っていると、ふと目に入った彼の耳が薄い赤色に染まっているのが見えた。どうやら口に出てしまっていたようだ。そんないじらしくて愛おしい彼を見ていると、つい意地悪してしまいたくなり、「照れてるの?かわいいね」と少し笑いながら聞いてみる。彼はさっきよりも赤色が濃くなった耳を柔らかな髪の隙間から覗かせながら「照れてない、かわいくない」と拗ねたように口を尖らせて抗議してきた。「素直じゃないところもかわいい」と伝えると、少し悲しそうな声で「そんなわけない、素直な子の方がかわいいやろ」と、自身が素直でないことを理解していて、それでいて諦めているような様子で伝えてくる。「気にしてるの?」と問いかけてみると返ってきたのは沈黙で、こんなにもわかりやすい反応をする彼が愛おしくて堪らなくなる。
彼の様子を見に来たときよりは少し明るくなった寝室で、布が擦れる音だけを静かに響かせながら相変わらず髪を撫で続けていた。「俺はさ、素直じゃないから」不安が混じった独り言のような彼の声が静かに部屋に響いた。「好きとか、かわいいとか言われても、否定しちゃうし」そう言いながら、少しこちらに顔を向けた彼の目は不安で揺れていた。「ほんとは、素直じゃないの気にしてるし……構って貰えないと寂しいし。でも、そういうの言うのなんか恥ずかしくて嫌で」彼の指が僕の服の端をぎゅっと掴む。その仕草があまりにもいじらしくて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。「……だからさ。俺が素直じゃないの、面倒じゃない?」そう問いかけてきた声は不安を強がりで隠そうと少し震えていた。「面倒じゃないよ」と即答すると驚いたように目をぱちりと瞬かせる。「言葉にしないだけで、ちゃんと伝わってるし。それに僕は不破さんの素直じゃないところも含めて好きだよ」と先程からずっと思っていたことを伝える。彼はしばらく黙り込んだ後、顔を逸らせた。「そういうのずるい、」安堵と嬉しさを含んだ声で小さく呟いた彼の柔らかな髪から覗く耳は真っ赤に染まっていた。
「……別に、甘えたいわけじゃないから」と言い訳のような言葉を小さく零しながら、彼がベッドから起き上がり、控えめに抱きついてくる。「……ちょっと、こうしてたいだけ」声は小さくて、照れが隠しきれていないのに離れようとはしない。相変わらず素直じゃなくて、甘えるのが下手な彼の不器用さが堪らなく愛おしくて僕もそっと抱きしめ返した。