その日、いつもの日常が壊れた。
高1の夏、いつも通りの学校からの帰り道の事だった。
信号が青に変わり、歩き出す。
その時だった。
「あぶないっ!!!」
何だろう。
そう思いながら後ろを振り向く。
その時にはもう遅かった。
こちらに迫ってくる大きな影。
トラックだとすぐに気付いた。
「ころちゃん!!!」
声がする。
(避けなきゃ…)
そう思ったものの体が動くはずもなく
その衝撃に意識を手放した…
はずだった。
「大丈夫ですか!?」
声がして目を開く。
身体には僅かな痛みしかない。
僕はなぜか歩道にいた。
(なんで…事故にあったはずじゃ…)
「誰か!救急車を呼んでください!」
後ろから大きな声がして後ろを振り返った時だった。
(血だ…)
後ろには赤黒い海が広がっていた。
たくさんの人に囲まれていて、誰がいるのかはわからなかった。
でも、人の隙間から見えたのは…
金色の髪の毛___
さっきまで一緒に歩いていた…
「るぅとくん!!!!!!」
全てを察した。
あのドンっという衝撃はるぅとくんに背中を押された衝撃で、
るぅとくんが庇ってくれたから僕には怪我がなかった。
(僕のせいだ。)
叫び、駆け寄ろうとした。
「動いちゃダメ!」
横にいた人に止められた。
「なんで、離して!僕のせいでるぅとくんが…」
言い争っている間に救急車が到着し、るぅとくんを乗せていった。
救急隊員の焦った顔を見るに、かなりまずい状況なのだろう。
すぐに救急車はサイレンを鳴らして走りだし、僕はただそれを見つめる事しかできなかった…。
僕も救急車を追ってすぐに病院へ向かった。
病院に着くとるぅとくんのお母さんがいた。
「ころんくん!!!大丈夫だった!?」
僕を見つけるとそう声をかけてくれた。
目のふちが赤くなっていて泣いていたことが見て取れる。
「…はい。僕は無傷です。でも、るぅとくんが…僕を庇って…僕の、せいで…」
「ごめんなさい、ごめんなさい、本当に、ほんとに、ごめんなさい…」
ただ、謝ることしかできなかった。
「謝らないで。トラックの信号無視だったって聞いたわ。ころんくんは何も悪くないじゃない。」
「でも…」
「それにるぅとならすぐに戻ってくるわよ。」
そう言って僕の手を握る彼女の手は震えていた。
「はい…。」
そう言うのが精いっぱいだった。
それから僕は、毎日るぅとくんの病室に通った。
「あ、ころちゃん!来てくれてたんですね!!」
そう言って笑顔で手を振る君。
その姿を何度想像したかわからない。
でも、現実の彼は青白い顔をして、目を閉じたままだ。
いっそ、「もう、目は覚めません」とか言って、希望を粉々に打ち砕いてほしい。
「ねぇ、るぅとくん。はやく、帰ってきてよ。まだ大切なこと、伝えられてないんだよ___」
(好きだって_)
ずっとずっと、歩いている。
どこなのかも、どこに続くかもわからない見渡す限り真っ暗な闇の中を。
どれだけ歩いても、走っても疲れもしないし、一向に光も見えない。
自分が進んでいる実感さえ得られない。
ねぇ、ここはどこ?
怖い、怖い_
会いたいよ、ころちゃん___
どれくらい時間がたったのだろう。
ほんの数分なのか、何日もたっているのか、全く分からない。
そんなことを考えていた時、僕の耳がかすかな音を拾った。
「___ん、___来て_」
はっと胸を突かれた。
誰の声かなんてすぐに分かった。
大好きなころちゃんの___
なぜだか無性に泣きたくなった。
あふれそうな涙をこらえて、大好きな声が聞こえるほうへ一目散に駆け出した…
ころちゃんの声に耳を澄ますと、花を飾ってくれているようだ。
「今日の花は水仙。黄色の。るぅとくんにぴったりでしょ?」
水仙。どうやら今は冬らしい。
事故が夏だからもう半年ほどたっているようだ。
毎週、ころちゃんは花瓶の花を変えてくれていた。
春には__
「今日の花はスズラン。花言葉は【希望】。」
夏には__
「今日の花はアヤメ。花言葉は【良い便り】。」
秋には__
「今日はね、カエデ。るぅとくんの誕生花なんだって。花言葉は【大切な思い出】。なんか、ロマンチックじゃない?」
冬には__
「今日はね、チョコレートコスモス。ほんとにチョコレートのにおいがするの。花言葉は【移り変わらぬ気持ち】。」
「ねぇ、るぅとくん。____。ボソッ」
なんて言ったの、ころちゃん、聞こえないよ__
何だろう、さっきから
「眩しい」
あれ、ずっと闇の中を歩いてたはずなのにいつの間に光が____
あぁ、君の声と花の甘い香りがずっと僕を導いてくれていたんだね___
もう少しだ。
待ってて、ころちゃん。
もうすぐ君の元へ帰るから____
「るぅとくーん。来たよー。」
いつものように花瓶の花を変える。
もう2年以上毎週やっている、僕の習慣だ。
今日の花はアネモネ。
赤やピンクの可愛い中に白がはいることできれいさが増している。
花瓶の水を新しいものに変え、花束を挿し、振り返りながら言う。
「今日の花はね、アネモネ。花言葉は…」
僕の言葉はそこで途絶えた。
振り返った時、君と目が合ったから___
「…ぇ__ポロッ」
あぁ、この瞬間をどれほど待ち望んだことだろう。
言いたいことは沢山あるのに、のどがつっかえて言葉が何も出ない。
涙ばかりがあひれてくる。
「ころ、ちゃん?」
ブンブンと首を縦に振る。
「ただい、ま。」
そう言って笑う君。
その姿に、とめどなく涙が溢れた。
「おそい、おそいよ。どれだけ、待ったと思っ、てん、の。ポロポロ」
「ふふ。ごめんね__ポロ」
「おかえり、おかえり、もう、どこにも行かないでよ____」
強く強く、抱きしめた。
「く、くるしいよ。ころちゃん。」
「…ねぇるぅとくん。」
「なんですか?」
お互いを確かめ合うように、2年の月日を埋めるように、きつく、きつく、抱き合った。
僕らの後ろでは、アネモネの花びらが風に吹かれてそよそよとなびいていた_____
END…
どうだったでしょうか。
*アネモネの花言葉は、*赤 「君を愛す」 白 「真実」「期待」「希望」 ピンク「待ち望む」です。
一回花言葉でつくってみたかったのでかいてみました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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