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第十二章 新任教師降臨 ~融合の狂気と生物の鬼教官~
一、戻った平穏 束の間の日常
神無島サバイバルが終わってから、三週間が経過していた。
高木暸にとって、この三週間は文字通り「夢のような平穏」だった。朝はゆっくりとFランク寮のボロベッドで目を覚まし、Fクラスで白銀雫の冷たい授業をボーッと聞きながら机に突っ伏して眠り、放課後になれば猫世話部の古びた部室で二十匹以上の猫たちと精霊猫のシロに囲まれて、ただひたすらにゴロゴロ喉を鳴らす彼らを撫でながら日が暮れるのを待つ。
兄の高木暁の話題も、最初の一週間こそ校内で持ち切りだったものの、さすがに三週間も経てば下火になり、今では「伝説の美形最強兄」として語り草になる程度で、誰も暸本人に詮索する者はいなくなっていた。一千万円の賞金はとっくに銀行に預け、学園費用三年間免除の書類も届き、旅行券は部屋の引き出しの奥にしまい込んで、存在すら忘れかけていた。
「…あー、最高だわ。これ以上の幸せはない。誰にも邪魔されず、誰にも疑われず、ただ猫と一緒にいられる。このまま卒業までこの調子でいければ、文句なしだよな、シロ。」
放課後の猫世話部で、暸は部屋の真ん中で寝そべり、腹の上でシロが気持ちよさそうに丸くなっているのを眺めながら、ぼんやりとつぶやく。
シロは「にゃー」と小さく鳴き、暸の胸元に顔を擦り寄せる。この三週間、シロの驚異的な潜在能力は一度も表に出ることなく、ただ可愛いだけの普通の猫の精霊として振る舞い続けていた。翠が時折「この子は本当に不思議だわ」とつぶやくことはあっても、それ以上踏み込むことはなく、ひまわりはただただシロの可愛さに夢中になっている。
部屋の隅では、緑川翠が植物の本を読みながら、時折窓の外を眺めては、静かに何かを考えている様子だった。彼女はこの三週間、暸とシロの秘密を自分だけの心の中に抱え込み、誰にも話すことなく、ただその側で見守り続けていた。
「高木くん、お茶入れたから飲む?」森下ひまわりが可愛いティーカップを持って、にっこりと近づいてくる。「今日はミルクティーだよ! 猫たちもみんな、おやつの時間だよー!」
猫たちが一斉にご飯の時間だと気づき、ぞろぞろとひまわりの足元に集まってくる。暸はにっこりと笑みを浮かべ、シロを抱き上げて立ち上がる。
「ありがとう、ひまわりさん。じゃあ、俺もおやつのお手伝いするか。」
この時の彼は、まだ知らなかった。
この上なく続くと思っていた平穏な日々が、たった一度の校内放送によって、再び打ち砕かれることになるとは――。
その瞬間だった。
校内のスピーカーが、ガリッというマイクテストの音を立てた。
二、悪夢の放送 体育館への集合
「――全校生徒、教職員の皆さん。おはようございます。突然の放送で失礼いたしますが、ただいまより全員、体育館に集合してください。新しく着任する先生方の紹介式を行います。――繰り返します。全員、至急体育館に集合してください。」
ガチャッ。
放送が切られた。
暸はおやつ用の猫缶を持った手を止め、虚ろな瞳で天井を見上げる。
「…あーあ。来たわ。また来たわ。新しい先生の紹介って、きっとまためんどくさい人たちが来るんだろうな…。俺の平穏は、いつまで続くんだよ…。」
隣でひまわりが「え、新しい先生? 楽しみだね!」とウキウキしているのが、暸には非常に羨ましく思えた。翠は静かに本を閉じ、薄い緑色の瞳に微かな警戒の色を宿らせる。
「…新しい先生が、このタイミングで二人も同時に着任だなんて。きっと、ただの先生じゃないわ。」
その言葉通り、体育館に集まった全校生徒と教職員の前に現れた二人の新任教師は、見た瞬間から「普通じゃない」オーラを全開に放っていた。
壇上には、相変わらず穏やかな笑みを浮かべた天城蒼校長が立ち、その隣に二人の男が並んでいた。
一人目は、どこか不潔感の漂う白衣を着た、痩せぎすの男だった。ボサボサの黒髪に、分厚い眼鏡。眼鏡の奥の瞳は、常にキラキラと異常な輝きを放っていて、まるで獲物を見つけたハンターのような、狂気が滲み出ている。白衣のあちこちには、化学薬品のシミや、何かの生物の痕跡のようなものがこびりついていて、近くにいるだけで寒気がするような雰囲気だった。
二人目は、対照的に筋肉隆々の巨漢だった。身長は黒鉄剛をも超える二メートル近くあり、日焼けした肌に半袖のジャージが着こなされている。短く刈り込まれた髪に、太い眉。にっこりと笑うと優しそうな笑顔なのだが、その体の大きさと筋肉の迫力から、どこか圧倒されるようなオーラを放っている。
校長がマイクを叩き、全校生徒のどよめきを静めると、ゆっくりと二人の紹介を始めた。
「――それでは、改めまして。この度、天叢雲学園に新しく二人の先生が着任されることになりました。どちらも、世界的に見ても稀に見る実力者であり、皆さんの更なる成長のために、熱意を持って指導にあたってくださる方々です。」
校長はまず、白衣の男の方を手で示す。
122
#学園
そはるる
933
#幼馴染
猫塚ルイ

3,361
「まずお一人目は、能力科学担当教諭、神崎狂一郎(かんざき きょういちろう)先生です。先生は、能力の本質を解き明かす研究の世界において、誰もが認める天才科学者であられます。」
神崎狂一郎が、ゆっくりと一歩前に出る。彼はマイクを受け取ると、まず全校生徒をゆっくりと見渡し、そのキラキラと輝く瞳を、まるで標本でも眺めるように輝かせながら、低い声で話し始めた。
「…はじめまして。神崎狂一郎と申します。能力科学、つまり『能力とは何か』『能力はどうやったら更に強くなるのか』『能力の限界はどこにあるのか』、そういったことを研究するのが私の仕事です。」
彼はにっこりと笑う。その笑顔は、あまりにも不気味で、体育館の空気が一瞬だけ冷え切ったように感じられた。
「私の研究テーマは、ずばり『融合』です。異なる能力を融合させたらどうなるのか? 異なる生物を融合させたらどんな生き物が生まれるのか? はたまた、人間と人間を融合させたら、どんな新しい生命体が誕生するのか?――私は、その答えを、皆さんと一緒に見つけていきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。」
言葉の端々から滲み出る狂気に、多くの生徒が思わず身震いした。「人間と人間を融合」だなんて、普通の教師が口にする言葉ではない。
次に校長は、巨漢の男の方を示す。
「続きまして、体育担当教諭、剛田豪(ごうだ ごう)先生です。先生は、元・特殊部隊の隊長を務められた経験を持ち、肉体鍛錬と実戦指導のスペシャリストであられます。普段は非常に優しく、生徒思いの熱血漢ですが、一度指導に入ると鬼のように厳しくなる、通称『鬼の剛田』としても知られています。」
剛田豪が、どっしりと前に出てくる。彼はマイクを受け取ると、まずにっこりと優しい笑顔を浮かべ、大きな声で自己紹介した。
「おう! 剛田豪だ! よろしくな!!」
声が大きすぎて、体育館の壁が響いた。生徒たちは思わず耳を塞ぐ。
「俺は普段はみんなの良き相談相手になれるような、優しい先生を目指しているんだ! 悩み事があったら、いつでも俺のところに来い! 熱血で、何でも話を聞いてやるからな!!」
彼はにっこりと笑うが、次の瞬間、表情が一変して鬼のように険しくなった。
「――だがな! 体育の授業と実戦訓練になったら、話は別だ! 俺は容赦なく、お前たちを地獄のような厳しさで鍛え上げる! 弱音を吐く奴も、怠ける奴も、根性のない奴も、全員俺が叩き直してやる!! 覚悟しておけよ!!」
そのあまりの急変ぶりに、生徒たちは一斉に悲鳴を上げた。優しい笑顔と鬼の形相のギャップが、あまりにも激しすぎたのだ。
校長は再びマイクを取り上げ、にっこりと笑みを浮かべて締めくくる。
「――それでは、二人の先生に、これからよろしくお願いします。解散です!」
だが、解散の言葉の後、神崎狂一郎がもう一度マイクを奪い、全校生徒に向かって、キラキラと輝く瞳でこう付け加えたのだ。
「――あ、そうだ。皆さんの中には、とてもとても興味深い能力を持った生徒がいると聞いています。私は、そういう生徒さんを、この目で直接見てみたいと思っています。――どうか、私の研究に協力してくださいね?」
その言葉に、暸は思わず背筋が寒くなった。
神崎の視線が、人混みの中をゆっくりと探り、一瞬だけ――彼の方に向けられたような気がしたのだ。
三、融合の能力 神崎狂一郎の正体
紹介式が終わり、生徒たちがぞろぞろと体育館を出始めたその時。
神崎狂一郎は、壇上の袖で、白銀雫と天城蒼校長と三人で話をしていた。雫は碧色の瞳を鋭く光らせ、神崎を警戒するように見つめている。
「…校長先生。この方を、本当にこの学園に迎え入れて大丈夫なのですか? 彼の研究は、国際的にも危険視されているはずです。人間融合の実験だなんて、もはや倫理の外れたものですわ。」
校長は相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま、静かに答える。
「ふふっ。心配は無用ですよ。神崎先生は、確かに少し研究に熱中するあまり狂気が見えることはありますが、生徒たちに危害を加えるような真似はいたしません。それに、彼の能力は、この学園の生徒たちを更に強くするために、非常に役立つのです。」
神崎が、にっこりと不気味な笑みを浮かべながら、自分の能力を説明し始めた。
「私の能力は、名付けて『融合(フュージョン)』。――読んで字のごとく、ありとあらゆるものを融合させることができるのです。」
彼は、ポケットから二つの小石を取り出し、手のひらの上でゆっくりと合わせる。すると、二つの石がみるみるうちに溶け合い、一つの新しい石になった。だが、ただくっついただけではない。元の二つの石の性質が完全に融合し、今までにない新しい物質に生まれ変わっているのだ。
「物質同士の融合は、お手のもの。金属とゴムを融合させれば、硬いのにしなやかな新素材ができる。水と油を融合させれば、新しい液体燃料が生まれる。――ですが、これは序の口に過ぎません。」
神崎は、今度は自分の腕をゆっくりと上げる。すると、彼の腕の皮膚の下に、何かがうごめくのが見える。次の瞬間、彼の腕がみるみるうちに変形し、鋭い鉤爪のようになった!
「私は過去に、自分の体に様々な生物の細胞を融合させてきました。トラの筋肉、鷹の視力、蟻の力、カメの耐久力――それら全てが、私の体の一部になっているのです。ですから、私の体は、どんな攻撃にも耐えられるし、どんな環境にも適応できる。」
「更に、能力同士の融合も可能です。例えば、火を操る能力と氷を操る能力を融合させれば、『温度を自在に操る』新しい能力が生まれる。空間を操る能力と時間を操る能力を融合させれば、時空を自在に動かす、神がかった能力が誕生するかもしれない。――可能性は、無限大なのです。」
彼はにっこりと笑い、更に続ける。
「そして、究極の融合が、『人間同士の融合』です。二人の人間を融合させれば、二人の能力、性格、記憶、全てを併せ持つ、新しい生命体が誕生する。もし、最強の能力者同士を融合させることができれば、人類史上最強の存在が生まれるかもしれない――私は、その瞬間を、この目で見てみたいのです。」
雫は、その狂気じみた言葉に、思わず身構える。
「…あなたは、本当に人間を実験台にするつもりなの?」
「ふふっ。さあ、どうでしょうね。――ただ、私は『興味深い存在』を見つけると、どうしても手を出さずにはいられない性分なのです。この学園には、私が今まで見た中で最も興味深い能力を持つ生徒がいると聞いています。――概念干渉、でしたっけ? ああ、なんと魅力的な能力なのでしょう。私としては、どうしてもあの生徒さんの能力を、私の手で研究させていただきたいのです。」
神崎の瞳が、キラキラと異常な輝きを放つ。
雫は、その言葉に、思わず心の中で凍りついた。
概念干渉――それは、彼女が探し続けている「最強の人」が持つであろう能力だ。この狂気の科学者が、その存在を知っていて、しかも標的にしているというのだ。
(…この人は、危険だ。絶対に、暸――じゃない、あの人を近づけてはいけない。)
雫は、自分でも何故か「暸」という名前が頭をよぎったことに、少しだけ戸惑いを覚えながら、神崎に対する警戒心を更に強めた。
四、生物操縦の能力 剛田豪の実力
一方、壇上の反対側では、剛田豪が四天王の黒鉄剛と意気投合して、盛り上がっていた。
「おう! 黒鉄剛というのか! 筋肉が素晴らしいじゃないか! 俺の好みの体だ!」剛田が黒鉄の筋肉をぺしゃんこと叩きながら、大笑いする。
「ハハハ! 剛田先生もすごい体をしてるじゃないですか! 俺よりデカいじゃないですか! よかったら今度、筋肉トレーニングに付き合ってくださいよ!」黒鉄も大喜びで応じる。
剛田はにっこりと笑いながら、自分の能力について説明し始めた。
「俺の能力は、名付けて『生物操縦(バイオコントロール)』。――読んで字のごとく、ありとあらゆる生物を、自分の思い通りに操ることができるんだ。」
彼は、ゆっくりと手を挙げる。すると、体育館の窓の外から、突然無数の鳥たちが飛んできて、窓ガラスにびっしりと止まり、剛田の方をじっと見つめ始めた。更に、体育館の床の下からは蟻の大群が這い出てきて、剛田の足元に整列する。
「昆虫、鳥、獣、魚、植物――生きているものなら、何でも俺の言うことを聞く。例えばこうだ。」
剛田が指をパチンと鳴らすと、突然、体育館の天井裏から、大きなネズミが数十匹降りてきて、彼の前で整列し、一斉に敬礼のようなポーズを取った!
「わおおお!!」周りの生徒たちが驚きの声を上げる。
「これだけじゃない。」剛田がにっこりと笑い、今度は自分の体に手を当てる。「俺は自分自身の体も、生物として操ることができるんだ。筋肉を限界まで増強したり、神経の伝達速度を高めて常人の数十倍の速さで動いたり、痛みを感じなくしたり、自由にできる。」
彼が言うと同時に、彼の筋肉がみるみるうちに更に膨れ上がり、ジャージがパツパツになった。その体は、まるで戦車の装甲のような硬さに見える。
「更に上級な使い方としては、人間の体の一部を操ることもできる。例えば、相手の筋肉を操って動けなくしたり、神経を麻痺させたり、はたまた心臓の鼓動を止めることだって、理論上は可能だ。――まあ、俺は生徒にそんなことはしないけどな!」
剛田は大笑いしながら、肩を竦める。
「普段は優しい先生として、みんなの良き理解者でいたいんだ。だが、体育の授業となると話は別だ。俺は、生徒たちが本当の強さを身につけるためなら、鬼にだって仏にだってなれる。厳しい訓練で、お前たちを一人残らず強くしてみせる!!」
黒鉄はそんな剛田に、すっかり心酔いしれた様子で「すごい! 俺、剛田先生の弟子になりたいです!」と叫び、周りの生徒たちも、最初は怖がっていたものの、剛田の人柄の良さに次第に打ち解け始めていた。
だが、中には警戒を緩めない者もいた。生徒会長の神無月凛は、静かに剛田と神崎の二人を見つめながら、御手洗叡智に低い声で囁く。
「…御手洗、二人の能力を分析して。この二人が、どれほどの脅威になり得るか。」
御手洗がタブレットを叩きながら、冷静に答える。
「はい。まず神崎狂一郎。能力『融合』。あらゆるものを融合させる能力は、応用範囲が無限大です。もし彼が本気を出せば、生徒たちの能力を融合させて新たな能力を作り出したり、あるいは生物を融合させて無限のキメラ軍団を作り出すことも可能でしょう。戦闘力だけで見ても、彼自身が既に様々な生物と融合しているため、少なくともZランク上位、下手をすれば校長に匹敵する実力があると推測されます。」
「次に剛田豪。能力『生物操縦』。こちらも応用範囲が広大です。周囲の生物を全て自分の手足のように使えるため、森やジャングルの中ではほぼ無敵。更に人間の体を操る能力を持つため、近接戦闘では彼に勝つのは非常に困難でしょう。こちらも、Zランククラスの実力者です。」
凛が静かに眉をひそめる。
「…つまり、Zランク級の教師が、一度に二人も増えたということね。」
「その通りです。しかも、神崎狂一郎の方は、明らかに何か狙いがあってこの学園に来ています。彼の言った『概念干渉の能力を持つ生徒』――これは、明らかに入学式の照明事件の犯人のことを指しています。」
凛の瞳が、鋭く光る。
「…そうですね。この学園に、また新たな波乱がやってきたようです。我々は、今まで以上に警戒を強めなければなりません。――特に、神崎狂一郎からは、誰も目を離してはいけない。」
五、猫世話部の平穏は続くのか ~新たなる波の予感~
解散後、暸は一目散に体育館を飛び出し、猫世話部の部室に逃げ込んだ。彼はドアに鍵をかけ、背中を押し当てて大きくため息をつく。
「…やばいわ。あの白衣の先生、完全にやばいわ。狂気がすごい。しかも、『概念干渉の能力を持つ生徒』だなんて、まさか俺のことを知ってるのか? いや、まさかそんなはずはない。ただの偶然だろう。だけど、あの目は…マジでやばい。俺、あの人には絶対近づかないようにしよう。」
シロが「にゃー」と心配そうに暸の足元にすり寄ってくる。暸はそっとシロを抱き上げ、頭を撫でながら、更につぶやく。
「体育の先生は、まあ良い人そうだけど、鬼教官って言うし、授業がめんどくさいことになりそうだわ…。まあ、俺はFランクだから、適当に体を動かしてれば許してくれるだろう。問題は、あの科学者の先生だけだ。」
部屋の奥で、本を読んでいた翠が、静かに口を開く。
「…高木くん。もしかして、あの神崎先生の言葉に、心当たりがあるのかしら?」
「え? い、いや、全然ないですよ。俺はただのFランクですから、概念干渉だの何だの、全然知らないです。」暸は慌てて首を振る。
翠は静かに彼を見つめ、やがてにっこりと微笑む。
「…そう。そうだわ。あなたは、ただのFランクの、猫が大好きな優しい少年だものね。――何も心配することはないわ。もし万が一、あの先生があなたに近づいてきたら、私が何とかしてあげる。私の『森の言葉』なら、彼の研究の邪魔くらい、いくらでもできるもの。」
「翠先輩…。」暸は少しだけ感動したような顔をする。「ありがとうございます。まあ、俺はとにかく、あの人には一生近づかないようにするだけですけど。」
ひまわりがお茶を淹れながら、にっこりと言う。
「うんうん! 私たちも、高木くんを守るよ! 猫たちだって、きっと高木くんの味方だからね! 大丈夫だよ!」
猫たちが一斉に「にゃー」と鳴き、暸の周りに集まってくる。シロも暸の胸元で、しっかりと喉を鳴らしている。
暸はそんな彼らを見て、思わず笑みがこぼれる。
「…ありがとう。まあ、とにかく、今はいつも通りの生活を続けるだけだ。新しい先生たちが、俺たち猫世話部にまで干渉してくることは、きっとないさ。――平穏は、まだ続くはずだ。」
だが、彼のその願いとは裏腹に、校長室では、神崎狂一郎が天城蒼校長のデスクの前に立ち、キラキラと輝く瞳で、ある生徒のプロフィール用紙をじっと見つめていた。
用紙には、『高木暸』の名前と、Fランクという文字、そして小さく貼られた写真が載っている。
「…ふふっ。ふふふっ。この子が、概念干渉の能力者だと? 見た目は、なんて普通の男の子なんでしょう。だが、この写真の奥に潜む、とんでもない力の気配が、私にははっきりと分かるのです。」
神崎は、プロフィール用紙を抱きしめるようにして、胸に当てる。
「…ああ、なんて魅力的なのでしょう。あなたの能力を、私の手で解き明かしたい。あなたの体を、私の手で研究させてほしい。――いつか、必ず、あなたを私のものにしてみせます。高木暸くん。」
狂気の科学者の瞳は、更にキラキラと輝きを増していた。
こうして、新たなる波乱の種が、静かに、しかし確実に蒔かれたのだった。最強の落ちこぼれと、狂気の科学者、そして鬼の体育教師。三人の思惑が交差する時、天叢雲学園に更なるカオスが訪れる日も、そう遠くはないのかもしれない――。
(次回に続く)
コメント
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いやー、新しい先生、どっちもやばいですね…神崎先生の「融合」って能力、設定のロジックがしっかりしててSFとしてめちゃくちゃ面白いんですけど、あの狂気じみた執着が高木くんに向いてるのがただただ怖い。剛田先生は普段は優しそうなのがまたギャップで、どんな授業になるのか気になります。暸くんの平穏、永遠に続いてほしいけど無理そうな予感がひしひしと…次回が待ち遠しいです!