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_____ジャラリ。
嫌な音が耳をかすめる。動くだけで聞こえるこの音に俺はわなわなと震えた。
そう、時は三日前のある夜に遡る………
俺はとある企業の社長の息子、いわゆる御曹司というやつだ。だが残念なことにこの体は病弱で勉学などまともに皆とできる体力はなかった。幸いある程度のことは生まれつき与えられた、父の遺伝である聡明さに助けられ理解できた。とはいえ、知識はあっても人との関わりといえばたった一人の家族である父と俺のお手伝いさん3人だけだった。俺は人の温かさに餓えていた。
毎日毎日動くことを許されない薬の匂いが漂う自分の部屋のベッドに寝かされ薬を投与された。苦しかった。病弱だったという母が最期の力を振り絞って産んだ母の生まれ変わり。父は俺を大切に思うあまり、部屋から出さず薬を投与し続けているのだろう、と思うが俺はみんなが楽しんでいるセイシュンというものを知らずにまた一日苦しみと戦いながら生きていくのだろうか。いつまで持つか分からない躰。こんな躰なんて要らないと思った。
…俺は力のない震える手で窓を押し開け椅子を使って窓の外へと足を踏み出した。父さん母さんごめんなさい。生きたかっただろう母を殺して生まれた自分が死んでしまったら悲しむだろう。母にどれだけ呪われるだろう。父がどれだけ挫折し苦しむだろう。そして俺はジゴクというところへ行って罰を受けるのだろう。でももし生まれ変われるのなら本望だ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、さようなら。
俺は落ちた、はず。新たな世界へ飛び立とうとした。
ここはどこだろう。ジゴクって此処、なのだろうか。少し血なまぐさい部屋。きれいに整えられたベッド、薬の匂いが漂っていない部屋。起き上がろうとした瞬間、
「お目覚めかな。かわいいかわいい僕の子。」
突然部屋に響いた低い声。父さんかな、でも父さんの声はもっと高い。もっとこう疲れていてでも温かい声…、誰か確かめようと顔を上げる。父さんじゃなかった。そこに立っていたのは見てはいけないものだった。整えられたきれいな髪、アメジストのようなきれいな瞳、少し死人を感じさせるような青白い肌、スタイルの良い躰、きれいなスーツの上にまとった血のはねているマント。そう、ドラキュラだった。
「そんな顔しないで、どぬく、」
ドラキュラが俺の名前を呼ぶ。妙に落ち着く。でもなんで俺の名前を知っているのだろう、なんでこんなに笑っているのだろう、なんで死なせてくれなかったのだろう、逃げたい逃げたい、
ジャラリ、俺の手から音がした。
「動かないでね、枷をはめてるから。」
「なん、でこんなこと、するの…? 死、なせて、よ」
震える声で言った。
「君が可愛そうだったから。愛されずに死んでいくなんて勿体ないよ。」
「愛され、てるよッ、俺がッ父さんを裏切ったんだよッ、」
「本当に愛されていたの?こんなに可愛い子を部屋に閉じ込めて自由を与えない奴は親なんかじゃない、」
「違うッ、父さんはッ……」
言葉が詰まる。俺は愛されていたのかな。自由が欲しいなんて一度でも伝えたっけ、最後に話したのはいつだっけ…
「僕が愛してあげるから、心配しないで、どぬく。」
まって、という暇もなくドラキュラは部屋の戸を閉めた。