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***


橋本は一日の仕事を終え、多少の疲れを引きずりながらマンションに帰った。自宅の鍵を取り出そうとして、上着のポケットを探るべく、それに気がつく。

オーダーした指輪をつけてから、既に数日経っているのに、それを目の当たりにすると、どうしても落ち着かない気分になった。いつもなら仕事が終わったと同時に外している白手袋を、そのままつけて帰宅するくらいに。


『こうして見える形で陽さんを縛りつけることができて、すっごく嬉しい』


そう告げられながら嵌められたペアリングは、プラチナとゴールドをうまく組み合わせて、ステアリングホイールをデザインしてくれたものだった。


『僕の才能に感謝しなよ! こんなカッコいいリングが作れるのは僕だけなんだし、ふたりが末永く仲良しでいられるように、心を込めて作ったからね。ついでにネットショップに、写真を掲載させてもらうから』


商売上手な友人に恵まれたことは、橋本にとって感謝すべき相手であるのは明白だったが、なにぶんオーダー品。宮本と折半したとはいえ、財布の中身がかなり痛んだ。


そんな落ち着かない理由をいろいろ抱えているため、指輪を傷つけないように大切にしすぎて、なかなか白手袋を外せなかったのである。


「らしくねぇよな、まったく……」


呟きながら白手袋を外す。右を外してから左を外し、それを露にした。

普段は隠れている指輪。榊や他の客たちから指摘されることのないそれは、最初はつけ慣れていないせいで違和感しかなかったのに、今は嵌めていないと不安で仕方ない。傷つけないようにするために、水仕事や風呂に入る際は外していたが、嵌め慣れてしまうと外したときに失くすんじゃないだろうかと考え、外すのをやめた。


「だ~れだっ?」


唐突に背後から塞がれた両目に、思わず驚いた。聞き覚えのあるその声と背中に伝わってくる体温で、誰なのかがすぐにわかる。しかも左まぶたに当たる指輪の感触に、笑みが自然と零れた。


「雅輝、子どもじみたことをしてんじゃねぇよ」

「だって陽さんってば、家の前でぼーっと突っ立ってて、無防備だったからつい」


両目を解放した手が下りていき、橋本の上半身を抱きすくめた。うなじに押しつけられる唇の感触と吐息に、ぞわっと肌が粟立つ。


「おまっ、こんなところで盛るなよ」

「盛りたくもなるよ。こんなところで左手を見ながらニヤける陽さん、すっごくかわいかったし」

「ニヤけてねぇって。それに俺はかわいくない!」

「ニヤけてたって。それ見て俺もニヤけたもん」


うなじに落ち着けられていた唇が頬に移動して、優しいキスを落とした。


「嬉しそうに微笑みながら、指輪を見ていた陽さん、本当にかわいかったよ」


橋本を宥めるために言葉を変えて、ふたたびかわいいを連呼する。うんざりしながらすぐ傍にある宮本の顔を見つめて、現実を突きつけた。


「おまえ明日仕事だろ。こんな時間に来たら、朝つらいと思うぞ」

「わかってますよ、そんなこと。だけど陽さんに逢いたくなっちゃった」

「逢いたくなったというより、ヤりたくなっただけだろ……」


橋本は深いため息をついて、尻に当たる大きなモノに、小さく体当たりを食らわせた。


「うっ! それだけじゃないってば」


直撃を食らったというのに、宮本は腕の力を緩めず、ふたたび攻撃を受けないようにするためなのか、若干腰を引き気味にしてから、橋本の肩に顎を乗せた。上目遣いで自分を見つめる宮本の様子から、疑問に思ったことを口にする。


「おまえ、アソコをおっ勃てながら、メンタル弱らせていたりする?」


どこか潤んだ瞳をしているように見受けられたので、思いきって指摘してみた。


「ホント陽さんには、隠し事ができないよなぁ」

「そもそも不器用なおまえが、隠し事ができるわけないからな」

「確かにそうでした。実は仕事でポカをやらかして、大目玉を食らっちゃいました。明日の仕事のモチベのために、癒されに来た次第です」


言いながら、橋本のうなじの匂いをすんすん嗅ぎだす。


「なぁ雅輝」

「はい?」

「おまえ仕事中は指輪、どうしてるんだ?」

「力仕事をするときは軍手をするんで、そのままにしてますけど」


傷ついていないことを示すためか、橋本の目の前に左手を差し出した。自分が嵌めているのと同じように、指輪が光り輝いていた。


「力仕事するときだけって、それ以外は素手なんだろ? 誰かにツッコミされなかったのか?」

「ご結婚したんですか? って年配のお客さんの、何人かに聞かれたくらいですけど。そもそも俺個人に興味を抱く人は、ほとんどいませんから」

「いやいや。その指輪、結構目立ってるぞ。おまえを狙ってた女どもは訊ねる間もなく、ガックリ打ちのめされているに違いない」


したり笑いを浮かべた橋本を、宮本はじと目で睨んだ。


「そういう陽さんこそ――」

「残念でした。仕事中は白手袋を外さないため、お客様に指輪を嵌めていることを知られておりません。あの恭介も知らないんだぞ!」

「そんなこと、自慢げに言われてもな。俺なんかよりも、陽さんのほうが狙われてるっていうのに」


話の雲行きが怪しくなってきたところで、橋本はやっと家の鍵を使って開錠し、宮本とくっついたまま一緒に家の中に入る。

不器用なふたり この想いをトップスピードにのせて

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